昨日から、変だなって思ってた。
歌ってる時になんとなく、空咳をくりかえしたり、喉の辺りを触って首をかしげたりしてたし。そういえば声の伸びもあんまり良くなかった気がするし。
今朝になってそれは明白になった。
顔を真っ赤にして、苦しそうに咳き込みながら寝込んでいるリン。真夜中に発熱して、今日はてんやわんやだった。
「レン? 支度できたならさっさと学校行きなさい」
ベッドに眠るリンをなんとなく見下ろしてたら背後から声が掛けられる。
「ん」
返事をしてその場を離れようとしたら、苦しそうに目を閉じていたリンが薄目を開いて俺を見上げて、手を伸ばしてくる。思わずその手を掴んで、離れようとした足が止まる。リンの手はすごく熱くてびっくりした。
「何? リン」
って聞いても返事がない。なのに手は放そうとしないで強く握ってくる。
だから。
「今日俺もガッコ休もうかな」
って言ったら「何言ってんの」と背後から殴られた。
「早く学校行きなさい」
睨まれて、しょうがないから渋々リンの手を放す。
いってきます、と呟いた玄関先で、ふと小さい時の事を思い出した。
幼稚園時代に、一度やっぱりリンだけが風邪をひいた事があった。
「レン、ごめんね。今日はお隣さんに幼稚園連れてって貰ってくれる?」
朝起きたらばたばたと走り回るお母さんに、そう言われて。テーブルの上にはトーストと牛乳がのっていて、ぼくの分なんだな、って分かったから、まだちょっと背の高すぎる椅子に腕を伸ばしてよじ登る。ちょっとぐらついてひやっとしたけど無事に登れて、ふう、と安心してからパンを食べた。
ぼくらの部屋からおかあさんがリンに何か話しかける声が聞こえる。ぼくが朝起きて見たら、リンはもうベッドの中で苦しそうに赤い顔をしていた。
トーストはちょっと冷めていて硬くなっていた。ぼくはそれを全部食べて、牛乳も全部飲み干して、ハミガキをして顔を洗って、用意されていた幼稚園の制服を着る。カバンをかけて、帽子をかぶって。
玄関で靴をはいて、振り返って「行って来ます」って言っても返事はない。
お隣さんには話が通じていたらしくって、ぼくは笑顔で迎えられて、一緒に幼稚園に行った。リンが一緒にいないで幼稚園に行くなんて、変な感じ……。
「ねえ、リンちゃんは?」
幼稚園について、カバンと帽子を脱いで、スモックに着替えたらすぐに同級生の誰かに聞かれた。
「きょうは、お休み」
「えぇ!? なんで?」
「かぜ」
「なんだー。つまんないねー」
その子はホントにつまらなそうに言って、どっかに行ってしまう。
ちょとするとまた別の子に同じ事聞かれて、同じやり取り。
何人かと同じやり取りをして、ようやく人の口からもそれが伝わったらしくて聞かれなくなった。なんどなく、ほっとする。同級生たちは、みんな園庭に出て遊び始めて。ぼくもいつもはそこに入っているんだけど……。
「レン君も、一緒に遊ぶ?」
側にいた誰かにそう、聞かれた。でも。
『リンちゃん、あそぼー』
って声、いつもよく聞く声を思い出して。
レン君も。
「も」って。
「ぼく、絵本読みたいからいい……」
「そう? じゃあね」
うん、ぼくホントは絵本読みたいからいいんだ。
いつもはリンが「レン一緒に行こー」って引っ張るから、仕方なく外で遊ぶだけで。ぼくは絵本が大好きだし。
みんな園庭に行ってしまってがらんとした教室で、隅の本棚から絵本を引っ張り出して来て、床に広げて読む。お気に入りの絵本。リンとよく一緒に読むシリーズ。
なのになんか、面白くない。
海賊と戦ったって、姫がさらわれたって、ヒーローがピンチだって。
ふーん、って感じ。
「あれ? レン君、みんなとお外で遊ばないの?」
っていつの間にかいた先生に言われた。
「うん、ぼく、絵本読むの」
「そっか。……それにしても、リンちゃんいないと、なんか寂しいわねぇ」
ふーん。
やっぱりお隣さんに家に連れて帰ってもらって入った部屋の中で、リンは今朝の苦しそうな様子はけろりとおさまって、元気そうにみかんゼリーなんか食べていた。
「もう治ったの?」
「うん。お薬が効いたんだって」
「ふーん」
リンは振り返って、ベッドの脇に立ちっぱなしになってるぼくを見た。
「たのしかった?」
「……リンにお土産があるよ? みんなが、手紙とか、折り紙とか。みんな、リンがいないと楽しくないんだって」
「へー」
リンはちょっと首をかしげて、変に拗ねた様な顔をする。
「リンは、レンがいなくって楽しくなかった。レンも一緒に休ませればよかったって思ったー」
「ぼく?」
「うん。レンがいれば退屈しなかったのに」
ぼくも。
「ぼくも、リンがいなくて楽しくなかった」
言ったらえへへ、って笑って。
「やっぱり? そーだよね。良かったー」
うん。ぼくも良かった。
たとえ誰にとってぼくが要らなかったとしても、リンがぼくと一緒がいいって言ってくれるなら。
☆・☆・☆
「おかえりー」
家に帰ったら今朝の苦しそうな顔なんてどこへやら、リンはけろりとした様子でみかんアイスなんて食ってる。
「ガッコどうだった?」
「抜き打ちテストがあった」
「うっそ、ラッキー」
と振り返ったリンは俺を見て怪訝そうな顔をする。
「どしたの? なんか憔悴してない?」
「いや……」
言いよどむと、変なトコだけ敏感なリンは何かを察したらしくガバリと布団を跳ね上げて、ベッドから立ち上がった。
「ちょっとぉ、もしかして女子になんかされた?」
「いやそんな人聞き悪い……」
「告られたり、なんか誘われたんでしょ!? あぁ、もう、これだからヤだったのよ。レン一人で学校行かせるの!! 普段あたしがちゃんと牽制してあげてんのにー」
「……え?」
そんな事、してたん?
「もー、ちゃんと全部断って帰ってきたんでしょーねぇ?」
リンはまるでそれが当たり前って言うみたいに言う。
……ま、いいけどね。
「断ったよ」
俺が言うと、ふう、と息を吐いて、そしてえへへ、と笑った。
「レンもアイスあるって。バナナアイス。冷凍庫に入ってるよ」
「マジ? やった」
リンの風邪はすっかり治ってるっぽい。
明日はまた一緒に、学校行けるな。
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ご意見・ご感想
@片隅
ご意見・ご感想
お返事遅くなってすいません!
まさか誰かが読んでくださってると思ってもみず、メッセージ一切確認してませんでした…。
読んでくださってありがとうございます!!
幼稚園の頃とかも、近所のお姉さまとかには人気を博してそうですが(笑)
中学生になってモテてもモテても、リン様の鉄壁の守りによって何も発展しなさそうです。実はレン君もリンがいいならそれでいいや、とか思ってたら個人的に萌えます。
2009/11/11 22:46:07
彩友
ご意見・ご感想
おもしろかったです(^0^)ノ
レン君は、小学生のころはみんな、心の中だけ・・・って感じで・・・
中学生のころからは、モテモテWWW
ってイメージです(笑)
2009/11/02 08:25:11