駅の改札から出ると、辺りは真っ暗になっている。
家路へ急ぐ会社帰りのおじさん達を横目に見ながら、さて私も早く帰らなくちゃと肩からずり落ち気味の鞄を背負い直した。
肺に溜まった嫌な空気を深呼吸で新鮮なものに入れ替えて、足を踏み出す。ここから家までは歩いて二十分ほどで、決して近くはないけれど、留守番をしている皆の事を思い浮かべていればあっという間だ。
そんな事を考えていた時だった。
「マスターっ」
近くで聞き慣れた少女の声がした。
声の方を振り返ってみると、双子がこちらに手を振っている。
「リン、レン!」
珍しい事だったので些か驚きはしたものの(そもそもマスターを駅まで迎えに行くなんていう行為を、普段のうちのVOCALOIDたちは今まで一度たりともしようとした事が無かったのです。ね、びっくりするじゃないですか!)、私は二人の待つ方へ行った。
レンがまず「おかえり」と言ってくれたので、私は「ただいま」と返す。
リンはやけにニヤニヤしながらレンの顔を見ていた。ニヤニヤというと表現がちょっとアレかもしれないけれど、実際にそうなのだから仕方ないのです。あしからず。
「なに、どうしたのリン?」
私が不思議に思って尋ねてみると、リンは今にも笑い出しそうになりながら答えてくれた。
「だって、レンってば“今日は月が綺麗だからマスターを迎えに行こう”って…!意味わかんないよねー!もう可愛いのなんのって…!」
「な…っ!おいバカ、俺そんなこと一言も言ってないだろ…!」
「はいはい、照れない照れない。私にはちゃんと分かってるんだから」
「なにがだー!」
照れているのか、それともリンにからかわれているのを怒っているのか、顔を赤くしているレンはすっかりリンのオモチャ同然になってしまっている。といっても、素直じゃないレンをリンがからかうのは今に始まった事でもないのだけれど。
とりあえず、リンの言った事から推測するに、要は珍しく私を迎えに来る事にしたのはレンの言葉がキッカケで、リンはそれについてきたという事なのだろう。リンとレンは余程の事がない限り、大抵の時間を共に過ごしているのだ。
隣でぎゃあぎゃあ言い合っている双子を横目に、「月かぁ…」と空を見上げてみれば、ちょうど真上にあった。
思えば、月を見たのなんて久しぶりな気がする。
「レンは月が好き?」
「…え?あー、まぁ…」
「じゃあ次の曲の参考にしないとね」
「良かったわねぇ!持ち歌が増えたじゃない!」
「お前さっきからうるさすぎ…!」
「まぁまぁ、」
このまま放っておくと色々な意味で暴走しかねなさそうな二人を制止して、「帰るよ」と私のよりも僅かに小さくて温かな掌を握れば、リンとレンは私の手もしっかりと握り返してきた。
そうして、今日の晩御飯はカイトがやけに張り切ってるんだよ!と、リンが楽しそうに言う。
「その前にお土産買って帰ろう。何がいい?」
「「ドーナツ!!」」
声を揃えて、近くのドーナツ屋さんを笑顔で指さす二人は、やっぱり可愛いと思った。
***
あ、そうそう。余談なのだけれど、レンは後で私にこっそりと「今日は月が綺麗だったから、早くマスターと一緒に見たかったんだ」と、迎えに来た理由を明かしてくれた。
恥ずかしかったのか、それだけ言うと、すぐさま自室へ戻って行ってしまったのだけど。
「可愛いなぁ!」って頭を撫で回してやりたくても出来やしない!
-end-
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ご意見・ご感想
幽夢
ご意見・ご感想
心が温かくなるような小説でした。
やっぱり可愛いですね^^
これからの小説も楽しみにさせていただきますね。
ブックマークしときます。
2010/02/25 11:21:18
瑞谷亜衣
ありがとうございます!
読んでくださった方の心がほっこりするようなお話が書きたいと思っているので、そう言っていただけて凄く嬉しいです^^
そろそろ何か書きたいなぁ?と思っているところですw
ブクマもありがとうございました!
2010/02/26 16:05:08
瑞谷亜衣
その他
kuroさん>
ありがとうございます!
マスター大好きなのに、どうにも素直になりきれないレン君でした(*´∀`*)
可愛いと仰っていただけて嬉しいです~^^
ブクマもありがとうございますー!
2009/11/04 00:05:24
彩友
ご意見・ご感想
マスターと同じく「可愛いなぁ!」の一言です(^^#)
かあいいよ~~!!
こんなレン君がいたら、ほのぼの出来ますね♪
私の小説が、改めてクソに思えました(^0^)ノ
ブクマもらいます!!!
さいごに・・・
可愛いなぁ!!
2009/11/02 12:47:22