朝、寒くて目を覚ました。
 ベッドから起きてカーテンを開けると、隣の家の屋根が真っ白。
 驚いて、隣のベッドで寝ていたレンを起こす。
「レン、レン!起きて!」
「ん…何だよリン…まだ早いじゃんか…」
 一体どうしたのかと眠そうにしながらも起きるレンに、リンは笑顔で窓を指差す。
「見て!雪が降ったの!!」
 それを聞いてレンも窓へと向かう。目はばっちり覚めた。
「うわ、ホントだ。そういや寒いもんな」
「初雪だね、レン」
 嬉しそうな双子の姉に、弟もつられて笑う。
「もっと積もったら、色んなことが出来るな」
「ミク姉達と遊べるねっ」
 雪合戦に、雪ダルマに、かまくら。次々と浮かぶ、これからの楽しみ。
「あっ、皆にも知らせなきゃ!」
 小さい子供のようにはしゃぐリンに、レンは苦笑いで声をかける。
「その前に着替えた方がいいだろ。風邪ひくぞ」
「あっ、うん」
 パジャマ一枚ではさすがにまずい。見た目よりもけっこうしっかりしている弟の言葉に、すぐにリンは従った。


「降ったわねー、これから雪かきが大変だわ」
 リビングに行くと、メイコがこたつにあたりながら外を眺めつつミカンを食べている。
「…大変なのは、雪かきをする僕の方だよね…」
 その隣りで、一緒にこたつにあたり、カップアイスを食べるカイトの姿。
 これから押し付けられるであろう作業に、既に意気消沈だ。
「はーい、朝ご飯の準備出来たよー!」
 台所からミクが可愛い緑色のエプロンをつけた格好で顔を覗かせた。
「あれ、今日はミク姉が当番だっけ」
 リンが首を傾げる。家事は当番制だが、大概言われるまで忘れていることが多い。しかも女性陣が特に。
 ミクは問いに頷いて、全員を呼ぶ。
「冷めちゃうから早くー」
 全員がダイニングに集まり、朝ご飯になる。
「「「いただきまーす」」」
 彼らの、一日の始まりだった。



 雪は冷たく、白く、触れるとすぐに消える。
 それがリンには面白く、そして綺麗に見えた。
「リン、まだそこにいたのかい?」
「カイト兄さん。どうしたの?」
「これからがくぽが来るんだ。この時期にぴったりな遊びを教えてくれるらしいけど、リンもやらないか?」
 穏やかな兄の言葉に、リンは少し迷って、
「うん、じゃあがくぽさんが来るまでここに居る」
 と答えた。
「そう?じゃあ出迎えついでに中に入っておいで」
 カイトはそう言って、リンの頭の雪を軽く払うと、中に入っていった。
「……」
 それを見送ると、リンはまた空を見上げて雪を手の平で受け止める。
 ひやり、ふわり。雪は静かにリンを包む。
 と、今度は。
「あら?リン、何してるの?」
「…メイコ姉さん。どうしたの」
 コートを着込んだメイコがリンのすぐ傍にいる。
「あたし?あたしは、これからがくぽが来るって言うから、お酒とつまみを買いにね」
 リンにそう答え、持っている赤い財布を見せるメイコ。
「で、リンは?」
「…私は、雪と話してるの」
 何と言えばいいのか、いまいち分からなかったリンはそうメイコに返す。
 が、メイコの方もきょとんとした。
「…詩人ね」
 ややしてそう告げるメイコは、「そろそろ中に入ってあったまった方がいいわよ」と告げると、買い物に行った。
 また一人の時間が訪れる。
 静かなこの辺りでは、雪のつもるさらさらという音以外はほとんど聞こえない。
 確かに寒くて、覆われていない肌の部分は冷たくなってるけれど、なんとなくどうでもよかった。
 雪は強くも弱くもならず、ただ降りてくる。
 そこに今度はミクが来た。
「リンー、ワッフル焼いたよ?食べない?」
「…ネギ入り?」
「入れようとしたら、レンに怒られた…」
 しゅんとなるミクだが、そうでもしないと何でもかんでもネギを入れるのだ。いくら好きだからって、限度がある、とメイコに叱られて以来、自分で気をつけるようになったらしい。
 とはいえ、入れていいものにはふんだんに使いすぎるのだが、それ以上言うと今度はミクが可哀想なので、誰も文句は言わない。
「じゃあ、ここで食べる」
「ええ?中に入らないの?焼きたてって熱いよ?」
 びっくりするミクに、
「大丈夫。ほら」
 と手を握れば「ひゃっ!」と更に驚かれる。
「リン!冷たいよ!風邪引いちゃうっ」
 慌てるミクに、リンはくすっと笑うと言った。
「だから、ミク姉のあったかいワッフル、持ってきてくれる?」
「…そこで中に入るって選択肢は無いんだ…」
 やれやれ、と呟くミクは、一度中に入り、持ちやすいように包んだワッフル(チョコソースがけ)と、ミルクティーを持ってきた。
「はい、熱いからね。ほんとはネギソースの方がおいしいんだけど…」
「…それはミク姉だけが味わうといいよ」
「うん、レンにもそう言われた」
 レンはそういう所によく気が付く。とてもありがたい限りだ。
「じゃ、がくぽさんもうすぐ来るだろうから、その時は中に入ってね!」
 カイトにも言われていたのだろう。そう最後に付け加えて、ミクは中に入っていった。
「うん、ありがと」
 そう返し、ミクを見送ってから、ワッフルを一口かじる。
 さくっと音がし、ワッフルの甘さとチョコレートソースの微かな苦さが口に広がった。
 温かくて、美味しい。
 ミルクティーを口に運ぶ。いい香りがした。
 がくぽを待つにはこれで十分だろう。
 ゆっくり味わいながら、雪を眺める。中で見るのと、外でこうして見るのとでは感覚が違うのだ。
 普通なら寒いというのが先にきて、すぐに中に入ってしまう。だけど、リンはこの冷たさと共に触れる柔らかさが好きだ。
 最後の一口が終わる頃にはすっかりどちらも冷めていた。だけど、美味しかった。
 あとでミク姉にはお礼を言おう。そう思った時。
「ちょっと、リン。まだ中に入ってなかったの?」
 メイコが帰って来たらしく、袋を手に、やや呆れた表情でリンに声をかけた。
「あ…」
 いつの間にか随分時間が経っていたらしい、とようやく気付く。
 頬に手を当てたメイコがぎょっとしてリンを叱る。
「もう!こんなに冷たくして!風邪引いたらどうするのよ!」
「まあまあ、メイコ殿」
 メイコの後ろからがくぽが顔をひょっこりと出した。
「あれ?一緒に来たの?」
「買い物の途中で会ったのよ。ついでだから荷物持ち」
 そう言われてがくぽの手を見れば、重そうな食材の袋が両手一杯に。
「……買いすぎじゃない?」
「あら、今夜は鍋だもの。それにがくぽも食べてくし」
 一升瓶をかかげ、メイコは嬉しそうだ。
「さ、お客も来たし入りましょ」
 今度は頷く。頭を下げた拍子に、積もっていたらしい雪がぱさりと落ちた。
「リン殿、大丈夫か?こんなに積もるまで、何をしておられたのやら」
「雪とお話」
 先刻メイコに返したばかりの答えをがくぽにも返す。
 するとがくぽは、一瞬驚き、すぐに笑った。
「そうか。拙者も雪が好きでござるよ」
 頭を撫でられ、リンはどこかくすぐったい感じになり、ふいと背を向けた。
「…リン殿?」
 何かまずかったかとがくぽが不安そうな声になるのを聞いて、リンは振り向き、告げた。
「早く来て。皆待ってるから」
 少しだけ、微笑いながら。
「…そうでござるな」
 安堵したがくぽは、歩き出す。
 積もった新雪の音が、きゅっ、きゅっ、と愉しげに鳴った。
 扉を閉める直前、リンは一度だけ外を見る。
 静かな空気。自分が居たそこは、白に紛れて見えない。
「…またね」
 そう呟くように言い、リンは扉を閉めた。

 きっと、この雪は明日の朝には沢山積もってる。
 だから明日は起きたら皆と雪遊びをしよう。
 雪かきをカイトにやらせて、避けられた雪をそのまま小さい山にして、かまくらを作って。
 それが終わったら皆で雪合戦をして。
 沢山遊んで、中に入ったら温かい飲み物を飲みながら、皆でこたつを囲んで。
 ああ、明日が待ち遠しい。

 冬は、まだ始まったばかり。


―End.―

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

音雪-otoyuki-

リン視点のオリジナルSSです。

私の地元で初雪→大雪になったので、書いてみました。

実はボカロオリジナル初挑戦です(笑)。

ボカロ一家ということですが、がくぽだけ別居w
彼らが普段どんな言葉遣いなのか実はあまりよく分かってないので、その場の雰囲気と勢いで書きました。

咲宮は雪、大好きです。冬ばんざい。

閲覧数:1,068

投稿日:2008/11/20 19:05:02

文字数:3,301文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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