クリプトン社の私有地であるピアプロは、警察に頼らない独自の警備体制を敷いている。
人間の警備員の数が圧倒的に少なく、代わりに独自技術で作り上げた警備ロボや日頃アイドルとして働くボカロ達を使っているのだ。
何故彼らを使ったかと言えば、ボカロの中には制作者のこだわりからか無意味に戦闘能力の高いものも珍しくはなく、しかも彼ら自身がピアプロの住人であるが故に防衛意識も高い、などといった理由が挙げられ、実際彼らは期待以上の成果を上げ続ける事になった。
だから故に、彼らにとって今回の事件の結果ーー則ち、突如起こった暴動を鎮圧出来ず、更にセントラルビルへの侵入者に保管物資の盗難を許してしまった事は、初の大きな『敗北』として語り継がれることとなる……最も、この背景には、今までボーカロイドが犯罪を起こした前例がなく、故に実質初のボーカロイドによる能動的な犯罪行為であった今回の事件にうまく対応出来なかったのだが。
因みに、余談ではあるが実行犯が完全に外見を隠していた為に現時点で誰もこの事件をボーカロイドが起こした事と気づく事はなく、結果多くの人々は初のボーカロイド犯罪は後の《初音ミク誘拐事件》であると認識する事となる。
ともあれ、ピアプロセントラルビルの一角、モニタールーム。
「守戒・守律音班、襲撃者を完全にロストしたそうです……」
「……わかった。彼らに帰還するよう指示を。……くっ……」
オペレーターである、毛先がレモン色の白髪に山吹色の目を持つ修道ロイド・救音レインの報告を受け、ピアプロ内治安維持部隊・《VOCALOID
DefenseForce》隊長、リリィは苛立ちを隠せなかった。
(周到な……!)
彼ら襲撃者は、戦線が膠着してしばらくしてから突如戦線を放棄し、撤退を開始した。
何故彼らがそんな行動をとったか、その理由ははっきりして いる。己が役割、すなわち陽動を果たしたからだ。
断言出来る理由など明確だ。誰だって、暴動の鎮圧に忙しい最中に重要な場所に侵入者があれば、その2つを結び付けて考えない事はない。
(それに……)
彼女の脳裏にあの忌々しい、他人をバカにしたようなエンブレムが浮かぶ。彼ら全員の服には、でかでかと《BINZOKO》という意味不明な文字が輝いていたのだ。
これで彼らの間に組織的な関連性が全くなかったら逆に凄い。
そこまで向こうがヒントを晒していたのにもかかわらず、まんまと逃してしまったという事実が、余計にリリィを追い詰める。
「隊長!」
その時、モニタールームのドアから赤と青の奇術師が駆け込んできた。
「マイ、サウ!!」
(無事だったのね!)
リリィを始め、モニタールームから安堵の声が挙がる。特に同郷たるレインは安心からか涙目になっていた。
「すみません、奴らを逃してしまいました……途中で増援が入って……」
「ううん、あなた達の無事が一番。鈴音班が交戦した者たちと合流したって所かな……」
「うう、ごめんなさぁい……」
会話を聞き申し訳無さそうに頭を下げたのは、黒髪に水色の瞳を持つボーカロイド、鈴音ララだ。この隊に入ったばかりの彼女はこの事態を酷く深刻に受け止めているらしく、かわいそうになる位に縮こまってしまっている。
「いや、寧ろ今回はわたしの失態よ。それに、侵入者を発見してくれたじゃない。大活躍よ」
「そ、そうですか?」
「うん、勿論」
「よ、良かった……つっ!」
顔を歪め彼女が右腕を抑えた。先程の交戦時に怪我を負ったのだ。
すぐさま彼女の隣にいたボーカロイド、鈴音ルルが庇う。
「大丈夫か!?ちくしょうあいつら、絶対許さねえ……」
「そうね、でも、完全に彼らを見失ってしまった……」
リリィの一言に、再び隊の間に重い空気が流れる。
部隊が結成されてから初めての大失態。それが何より皆の心を深く沈めさせていた。
「隊長、人間隊から通信です」
「あ、わかったわ」
レインが渡した通話機を手に取ると、向こう側の隊長は挨拶も抜きに言ってきた。
『今回の失態、責任は双方に均等にある』
(またか!)
思わず舌打ちが飛び出しそうになる。
こいつらは自分たちの責任をいかにして軽くする事しか考えていない。今回だってこちらは前線で積極的に戦ったというのに、向こうは「命令系統の混同を恐れた」などというふざけた理由で殆ど動かなかった癖に。
「……そんな事より、話し合うべき事があるんじゃないですか……?」
『勿論だ、だがはっきりさせておかねばならない事はある』
リリィは声を荒げて言ったが、向こうは少しも態度を崩す様子はない。
それはビジネスでこの街を守る彼ら故の冷静さなのだが、心情でこの街を守るリリィにはそれこそが気に入らなかった。
そんな事を気にした風もなく、通信機の向こうの声は淡々と告げる。
『さて、本題だ。これからの対応についてだが……』
「勿論あらゆるルートを使って彼らの事を徹底的に調べ上げます。大々的に発表し目撃談を……」
『何を言っている』
「は?」
急に台詞を寸断され、リリィは頭に疑問符を浮かべた。その反応に相手の声が少し苛立つ。
「何か問題でも?」
『大ありだ。この時期にそんな事をしてみろ。最悪、初音ミク量産化祭そのものがなくなりかねん』
「……っ!し、しかし……!それでは、奴らを見逃せと……!?」
『幸い、盗まれた物はそう大した物でもなかった。敏感なマスコミ共には「侵入者があったが無事撃退した」と伝えろ』
「ふざけないで!!」
思わず彼女は通話機を握り締め、大声を上げていた。周りの人々が驚くのも気にせず、リリィは叫んだ。
「嘘を吐けっていうの!?そんなの許される訳ないじゃない!!」
『黙れ』
「っ……!」
しかし、リリィの沸騰した心は、すぐさま通話機の向こうの氷のように冷徹な声に静められる。
リリィが一瞬怯むと、次の瞬間からは声のトーンは元に戻っていた。
『奴らにセントラル八階への侵入をされた時点で、既に許す許されるの問題は終わっているんだよ。俺達がすべきなのはいかにしてこの事態を水面下で収束させるかだ』
「くう……しかし……!!」
『必要な事だ。初音ミク量産化祭最終日まで、警備体制をレベル4にまで引き上げ、調査は小規模に行う事とする。いいな?』
「……了解……っ!」
通信が切れると同時に、リリィは壁を殴りつけた。
向こうは確認をとるかのように言ったものの、あれは実質強制だ。表面上は同列とされるピアプロ治安維持部隊だが、実際は人間隊の方が運営権を握っているのだから。
「隊長……」
「……レイン、初音ミク量産化祭終了までの私の予定を全てキャンセルして」
「え……?」
突然のリリィの発言に、周囲がざわめく。
公式VOCALOIDである彼女は、当然この時期に相当数の仕事がある。それを退けるというのはかなりの行いだ。
「な、何もそこまでしなくても……」
「ダメよ。これ以上こんな事になるのを許してはいけない。だから私はここにいなくてはならない。何かあったらすぐさまその自体を沈静化するために」
「……まさか、隊長……アレを使う気ですか!?」
「……」
レインの一言には答えず、リリィはゆっくりとモニタールームの扉の一つを見据えた。他の扉に際立って頑強なそれの先には、彼女の為に作られた専用の部屋がある。
天井に六角形の画面が無数に敷き詰められたドーム型の部屋の中心に置かれた、主の帰還を待つ機械の玉座。
そこに座った彼女の姿を想像し、隊の者たちは呟いた。
「ハニー“クイーン”リリィ……!」
それが、玉座の上で培われた彼女の二つ名。普段のリリィならば聞く度に恥ずかしがる単語だ。
しかし、今の彼女には、既に周りの音など聞こえてはいなかった。
ただ視線の遥か向こうを睨み付け、思う。
(あの娘の晴れ舞台に……これ以上の失態、してなるもんですか!!)
小説【とある科学者の陰謀】第関話~スポットライトの外で~迎え撃つ者たち
お待たせしました、次話……と見せかけちょっとした小話です。この程度の更新に時間かけてすみません……忙しかったんだええすみません言い訳ですとも!!←
今回は、サブタイトル通りに普段とは別の視点から無理やり切り込んだみました……なぜリリィが隊長!?そして《ハニー“クイーン”》てなんぞ!?ていうか内容gdgdとかあんまつっこまんといて下さい←
それではお借りしました亜種ボカロの紹介をば!!
・紅蓮鴉【クロア】さん
救音レイン(http://piapro.jp/t/LiX9)
戯音マイ(http://piapro.jp/t/mQVB)
戯音サウ(http://piapro.jp/t/4hKj)
守戒音リオ(http://piapro.jp/t/jzFm)
守律音マキ(http://piapro.jp/t/ROzh)
5人お借りしました!
・sinneさん
鈴音ララ(http://piapro.jp/t/FT6x)
鈴音ルル(http://piapro.jp/t/_GSx)
2人お借りしました!
全体的に余り活躍させられずにすみません!!これから出番増やして行きたいと思います!!
そしてきなつさん今回も出せず本当にすみません!どうしてもノタンちゃん&エンレル君とアリスちゃんでそれぞれやりたいシチュエーションが頭の中で既に作成されていて……派音ユウカちゃんだけでも出さねば!!
かなり更新が亀化し始めましたが、どうか見捨てないでいて下さい……
コメント3
関連動画0
ブクマつながり
もっと見る「本当に……ありがとうございました!!」
チンピラ達が連れて行かれ、色々と混乱が収まった路地裏には
、今、ペコペコと頭を下げるハクさんと、照れる鈴音コンビの姿があった。
「いえいえ、当然の事をしたまでですよ……それよりハクさんにデルさんですよね!サイン下さい!!」
すると、ララの周りに《HoneyB...小説【とある科学者の陰謀】第十話~波乱と男心~その4
瓶底眼鏡
「え?な、何?」
「ハクさん、後ろに」
俺はすぐさま、オドオドしているハクさんを庇うように前に出た。とりあえず、なにがどうあれハクさんにだけは指一本触れさせないようにせねば。
チンピラは俺たちの顔をニタニタと見つめ、挑発するような声色で言った。
「まさか、こんな所で会えるとはなぁ……」
「……」
(...小説【とある科学者の陰謀】第十話~波乱と男心~その3
瓶底眼鏡
……空が狭い。
いや、狭まっているのは俺の視界だ。
……空が暗い。
いや、光を失っているのは俺の視界だ。
手のひらにねっとりとした感触がある。
血だ。
自分の身体から鉄臭いアカイロが流れ出ていくのを、俺は不思議な程冷静に認識していた。
(そうか……)
思考の速度が次第に衰えてゆく。気だるい眠気に逆ら...小説【とある科学者の陰謀】オープニング~一人の男の物語の終わり~
瓶底眼鏡
はちゅね像とは、ピアプロで一番大きな広場の真ん中に鎮座する、巨大なはちゅねミクの銅像のことだ。
何かの記念に配置されたらしいのだが、とにかく目立つのでピアプロで生活する人々やボカロ達からは渋谷のハチ公みたいにわかりやすい待ち合わせ場所という認識で定着している。
その例に漏れず、俺もまたここでハクさん...小説【とある科学者の陰謀】第十話~波乱と男心~その一
瓶底眼鏡
量産化祭中には、様々なイベントや出し物がそこら中で行われている。
その大多数は、初音ミク人気に惹かれやってきた客に自分たちを知って貰おうと考えた亜種達が開いたものだ。そしてそういった中に混じり、また、《男の娘☆ボカロ同盟》も
活動をしていた。
「リッちゃーん!こっち向いてー!!」
「サイン下さいサイ...小説【とある科学者の陰謀】第九話~祭りの始まり~その二
瓶底眼鏡
近未来的な装飾の成された薄暗い部屋の中に、円卓を囲む十数人の人影があった。
ケータイをいじったり、隣と話し込んだりと、皆一見思い思いに過ごしているように見えるが、その中には確かに緊張した空気が漂っていた。
「……さて」
俺の右隣の黒髪ツインテールの少女、雑音ミクが発した一声に敏感に反応し、皆が静まり...小説【とある科学者の陰謀】第八話~悪の組織、始動~その一
瓶底眼鏡
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想
オレアリア
ご意見・ご感想
びんさんおはようございます!返信が遅れて申し訳ありませんでした(汗)
これほどまでカッコ良くなっているリリィさんを久しぶりに見ましたw
しかし…クイーンと称する彼女が全ての仕事を投げ捨ててまでも打つ手は果たして…!?
このピアプロ警備隊隊長のリリィを是非ともこちらで出演させて頂いても良いですか?
次回以降には出させて頂きたいと思います!!
何にせよ勢いづいたびんぞこの計画、それを阻止しようとする勢力……これから先の展開がwkwkです!
2011/06/18 06:37:10
瓶底眼鏡
おはようございます!いえいえ、オセロットさんの事情が一番大切ですから!!
かっこよくなってしまいました……でも警備隊長時でないならもう少し柔らかい性格の筈←
かなり……いや結構……いやきっと凄い筈!!←
おお!いいですね!!お願いします!!
楽しみにしてます!!
実は自分がまだ先の展開をきっちり考えていないという←
2011/06/18 08:23:21
絢那@受験ですのであんまいない
ご意見・ご感想
Lily登場!
LilyかわいいよLily!しかもすごい姉御肌じゃないすか!かっけー!
でもファンが悲しみます><
ボカロがボカロの会社で犯罪を…うーん、私には理解できないほど宇宙規模な話ですね。
ともかく次回wktkです。
2011/06/16 17:58:43
瓶底眼鏡
はい、遂にインタネ家参戦です!!
とりあえず彼女は隊長にしようと思ったらいつの間にかこんな性格に……
ぐああああああ!!すみませんファンの皆さんお詫びに切腹をおおおおおおおおおおおお!!!!←
ややこしくてすみません……だが以後はこれに輪を掛けて複雑になるっぽいんだぜ!!
はい、量産化祭一日目……頑張ります。
2011/06/16 20:50:33
sinne-キョノリ@戻ってくる努力中
ご意見・ご感想
おお、ララとルルを使ってくれましたか。
これから、ララ達がこの話にどう干渉していくか気になります。
有り難うございます。
ブクマしときます。
2011/06/16 17:25:46
瓶底眼鏡
はい、待たせてしまってすみません……
色々と絡めていけたらと思いますが……あまり出せなかったらすみません……
おお、ブクマありがとうございます!これからも頑張ります!!
2011/06/16 20:16:43