自分でも気が強い方だと、リリィは分かっていた。間違いをまちがいのままにできない、頑固さがあると、自分でもよく分かっていた。だからこういう役回りを押しつけられてしまうのも、うんざりはするけれど、仕方が無いことだと思っていた。
それは他愛のない諍い。合唱コンクールの学校代表に選ばれたリリィのクラスは毎日昼休みその練習をする。しかし、一部の人たちがその練習をさぼるのだ。そのさぼる人たちへの注意をする役割を気が付くとリリィがやることになっていた。
折角、学校代表になって、他の中学代表と競う事になったというのに、下手な歌を歌うわけにはいかない。ちゃんと練習しようよ、というリリィに対し、楽しく歌わないとその歌の良さは伝わらない。大丈夫、本番はちゃんとやるから。というのがさぼっている人たちの言い分で。
きちんと練習しないで本番も何もあったものではない。と反論し。生来の気の強さから自然と口調も険しいものとなり。気が付くと目の前ではさぼっていたクラスメイトが感情的に泣きだしていて、今まで自分と同じ考えだったクラスメイト達も非難を帯びた視線を向けて来ていた。
なに、泣けば許されるわけ?泣けば何でも許されると思ってるんだ。そんな甘い考えで、合唱コンクールに出ようって思ったの?そんな気持ちでいるのならば、最初から辞退すればよかったんじゃない?
ひとり悪者にされているような気分になり、腹立ち紛れにそう冷たく言い放った瞬間。リリィたちのクラス担任がその眼鏡の顔をひょいと覗かせてきた。
「うん、まぁ。リリィさんの言う事はごもっともだし、正しいと僕も思うよ」
そう切り出して、でもね、と諭すように穏やかな口調で担任は言った。
「考えを変えろとは言わない。けれど、世の中には正論だけをぶつけても受け入れてくれない人もいるんだ。場合によっては言い方を考えなくてはならない時もあるんだよ」
そう言う先生の言葉に、リリィはふてくされたまま、そうですか。と言った。
放課後、リリィは呼び出されてしまった。正しいと言っておきながら、こうして呼び出しておいて、けれど。って何それ。やっぱり私が悪者なわけ?正しい事を言っていると言いながら、何故否定をするのか。
なんだか無性に腹が立った。言い方が悪かった、なんて自分でも分かっている。目の前で泣かれてしまったら、やばいな。とさすがに分かる。もう少し別のやり方があったな、とか、言い方も別の言葉を使えばよかった。とか分かっているのだ。けれど、中学生で感情のコントロールをするなんて、なかなか難しいものがあるんだ。そもそもあなたたち大人もきちんと感情をコントロールできるわけ?言い方を考えて、傷つけない言い方で諭すとか、できるの?納得させるような言い方、ちゃんと身についているの?実際のところ、出来ていないよね。今、自分は先生の言う事にこうやって反発を感じてしまっているのだから。
全く。とリリィは八つ当たり気味の視線を目の前の担任の先生に向けた。リリィたちの担任は基本いい人で、生徒にも好かれている方なのだけど。でもリリィ的には。弱々しいというか、頼りないというか、もっとガツンと言ってくれよ、と思わせる所がある。
今回のことだって、自分が言うよりも先に先生が言うべき事なんじゃないの。そう腹立たしく思いながら、リリィが不機嫌さを露わにしていると、担任の先生は小さくため息をついた。
「君のお姉さんは、いつも笑顔でそういう刺々しい態度は見せなかったのにな」
ぽつりと、おもわずこぼしてしまったというような。そんな調子で言った先生の言葉に、リリィは更に瞳をつりあがらせた。
そんな、腹を立てているのに笑うなんて芸当、私にはできないですよ。むっとしながらも、姉と比べられたことに対する不快感からこれ以上はもう何も言いたくなくなってしまった。
「分かりました。今後気をつけます」
むっつりとした口調を崩さぬままリリィはそう言うと、そのまま担任の有無を言わせない調子で、それでは失礼します。と勝手に話を切り上げてしまった。
更に何か言いたげな担任の先生を無視して、リリィは背中を向けて職員室から去った。すと伸びた背筋のまま早足ですたすたと先を歩く。今日は部活動のある日だったけれど、顔を出す気持ちにもなれなかった。
このまま帰ってしまおう。もういい、他の子のサボりが許されるならば私だってさぼってしまっていいんじゃないか。
そうむしゃくしゃと考えながら、リリィは昇降口へと向かった。上履きから靴へ履き替えていると、校庭の方から運動部の掛け声が聞こえてきた。ああみんな頑張っているなぁ。とそんな事を思いながら、少しの後ろめたさを感じつつ、リリィは家路へ向かった。
―私では駄目なのかと思ったら腹立たしくて仕方が無かった。私は私でいてはだめなのか。お姉ちゃんみたいにならないと駄目なのか。
こんな自分じゃ駄目なことなんて、私が一番よく知っている。
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