思い出とオルゴール2(KAITOの種/亜種注意)

投稿日:2010/01/31 02:26:21 | 文字数:3,087文字 | 閲覧数:118 | カテゴリ:小説

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本当は思い出話だけで上げるつもりはなかったんですが、思いの外長くなったので。
二月前半には書き終えたいです。


KAITOの種本家
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がさがさと部屋中にビニール袋の音が響く。彼女は家中の“ゴミ”を袋の中に放り込んでいた。別れた彼氏との思い出の品は、彼女にとってゴミでしかなく、あるだけ辛いので捨てる。これが彼女の考え方だった。
あれもこれもと彼女がビニール袋に突っ込んでいる横、机の上で種KAITOが歌っていた。柔らかいがよく通る歌声は、作業をしている彼女の耳にも届いていた。
BGM程度に種KAITOの歌を聞いていた彼女はふと気付く。
「…その曲……」
聞き覚えのある曲だ。いや、聞き覚えとかいうレベルではない。よく、とてもよく知っている曲だ。そう思う彼女の思考を、曲が、思い出が侵食していく。
それを振り払うように頭を振って、種KAITOの方を向き、彼女は問う。
「………いつの間に、覚えたの?」
彼女の静かな声に、種KAITOが首を傾げる。
「いつっていうか…知ってた。最初から。聞いた記憶は無いけど、頭の中を流れてくる」
ふと気がつけば思い浮かぶメロディ。そんな感じだと種KAITOは照れ臭そうに笑った。
「なんでだろーな。聞いたこと無いのに」
理由はわからない。ただ気づいた時にはもう好きだった。そう種KAITOは言う。
その話しを聞いた彼女の顔が厳しくなっていく。思い出が彼女の心にまで広がって、それが表情に現れたようだ。
種KAITOが心配そうに彼女の顔を覗き込む。
彼女は険しい顔のまま立ち上がり、小さな棚へと向かった。その上の木箱に手をかける。箱の蓋が上がり、りん、と小さな音が鳴った。優しい金属音がメロディに変わる。それは種KAITOが先程まで歌っていた、彼女が険しい表情になった、あの曲だった。
緩やかに曲を奏でる箱を手に彼女は種KAITOの所へ戻る。机に置かれた箱を種KAITOが覗くが、中には何も入ってはいなかった。
彼女がぽつりと呟く。
「これは、あいつがくれたの」
ついこの間別れた彼氏。彼女の誕生日に彼がプレゼントとして渡してくれたと彼女は語る。
アンティーク調のオルゴールは一見傷物のようにしか見えないが、詳しい人ならば決して安いものではないとわかる。二人が付き合っていた頃の幸せな思い出が箱の中には入っていた。
彼女は目を伏せて思い出す。何度もオルゴールを鳴らした日々を。しかしもう幸せな気分には浸れない。そう思い彼女は目を開けた。
そんな彼女の表情が種KAITOには深刻そうに映る。
「……でも、もう要らない」
別れてしまったから。言って、彼女は蓋を閉じた。乾いた音と同時に曲が鳴り止む。彼女はそれをビニール袋へ入れようとする。それを見た種KAITOが叫んだ。
「何で捨てるんだよっ」
彼女の手が止まる。自分が何をしているか、種KAITOが理解しているとは思ってなかった彼女は驚く。種KAITOは予想以上に知能の高いもののようだ。人事の様に彼女の頭が考え、すぐに忘れる。それどころではないと目の前の状況が告げていた。
種KAITOが彼女の手から木箱を奪ったのだ。
「…っむぐぐ……!」
当然ながら木箱は種KAITOよりも大きい。彼女が“小さな人形”と称したくなるような大きさの種KAITO。木箱はその数倍の大きさをしている。その上、中にオルゴールが入っているためただの木箱よりも重い。
それでも種KAITOは全身で何とか持ち上げ、歩き出す。しかし数歩歩いた後重さに耐え兼ねたのか真っ直ぐに木箱が落ち、種KAITOを潰した。ぐえ、と小さな声が聞こえ、慌てて彼女が箱を持ち上げる。
唸りながら軽くなった身体を起こした種KAITOは泣きそうな顔になっていた。
「いっぱい、聞いたんじゃないのかよ!まだ、種の俺が覚えるくらいっ」
必死な物言いに彼女の息がつまる。
種KAITOがまだ種の時、彼女は幸せだった。彼氏からもらったオルゴールを毎日のように鳴らし、幸せに浸っていた。大好きな曲だと彼氏に語り、種にまで話していたのを彼女は思い出す。確かに種を貰ってからしばらくの間、アイスに植えたりせずに棚の上に置いていた。そしてその間も曲を鳴らし続けた。それで種KAITOはこの曲を覚えているのかもしれないと彼女は思う。種KAITOに刷り込まれてしまう程繰り返し聞いた曲。好きなのだ、本当は。
机に置いた木箱を見つめる。閉じた箱は、何の音も出してはいない。
種KAITOの言葉を否定出来ず、彼女は俯く。
「だって……持ってても辛いだけじゃないっ。好きだったあいつの顔が、これを見るだけで、頭に浮かんでくるの!……辛いの。辛いの…っ」
嗚咽が混じり、彼女の目尻に涙が浮かぶ。
思い出すだけで辛い。見ていると思い出す。ならば捨ててしまおう。そうした彼女の思いがこのビニール袋。中に詰めて、ゴミとする。
捨てられたゴミがどうなるのか種KAITOは知らなかった。それでも「捨てる」というのがどういうことなのかは本能で知っていた。だから涙を零す彼女にも怯まず声を張る。
「これから、それ以上の思い出を作ればいいだろ!この箱を見ても、曲を聞いてもいい思い出しか思い出せないぐらい、いっぱいいっぱい…作ればいいだろ!!」
「どうやって!?あいつが買った、あいつが選んだ。曲を聞くと、あいつが喜んだ……その喜んだ顔が辛いのよっ」
思い出す事が辛い。そう喚き立てる彼女。
種KAITOはその声に負けぬよう強い意思を彼女へぶつけた。
「じゃあ俺が作ってやるよ!」
「…え?」
彼女の意思に種KAITOの意思が入り込む。しかし、息苦しかった思考がすっと晴れていくのを彼女は感じた。
「マスターがこの箱を見ても泣かないように、楽しい思い出を思い出せるように、俺が楽しい思い出を作ってやる!」
「……あんた…」
木箱の上に種KAITOは乗り、笑う。真っ直ぐな視線が彼女を貫いた。
「どーだ!?これで捨てなくていいだろう?」
してやった顔の種KAITO。その笑顔が彼女の中で彼氏と重なる。無意識の内に彼女はポタポタと涙を零した。溢れる涙に視界が揺れる。
先程よりも涙を流す彼女に種KAITOが焦る。駄目だったのだろうかという不安にかられ、悲しそうに俯いた。それを見た彼女が躊躇いながら手を伸ばす。指先でそっと種KAITOの頭を撫でた。小さな種KAITOを潰してしまいそうで指先で撫でることを選んだが、それでも押し潰してしまいそうだと彼女は思う。
「……生まれた、ばっかで…何にも知らない……くせに………」
頬を伝う涙も拭かず、彼女は微笑む。泣きたくなる気持ちを堪えきれず、今も涙は溢れる。しかし、自分の為に叫ぶ種KAITOの為に笑わなくてはならないと彼女はギリギリの所で微笑んだ。
種KAITOが顔を上げる。彼女と目が合った。
不安定に泣き、笑う彼女は木箱に目をやり、蓋を開けた。曲が流れ始める。それでも彼女は笑っていた。不思議そう眺める種KAITOに彼女は言う。
「………よろしくね」
これからの種KAITOとの生活。オルゴールにの木箱に詰める、新たな、楽しい思い出。二つの意味を込めて、彼女は精一杯の笑みで言った。
泣きながら笑う彼女の姿は種KAITOにとってとても美しく見えた。その顔に僅かに見とれ、種KAITOは文字通り止まる。呆然と立ち尽くす種KAITOを見て今度は彼女が不安になる。表情には出さずに首を傾げると、何かを振り払うように種KAITOは首を振り、満面の笑みを向けた。
「任せろっ」
終わりかけのオルゴールがゆっくりと流れる。途切れそうになるその音が止まる前に、彼女はネジを巻き直した。

自分の辞書には「自重」とか「遠慮」などの言葉が欠けている様です。


素敵なアイコン画像を予感子様からいただきました。
兄さん必死です。
ありがとうございましたー。



・思い出とオルゴール後書き
ここまで閲覧いただき、ありがとうございます。
何故ここに書いたかといいますと、あの場に余計な文を書きたくなかったのです。雰囲気を大事にしていたので、それを壊すことはしたくありませんでした。…まぁ壊れる程雰囲気が出ていたかわかりませんが。

このお話は所謂死ネタというものです。文をぼかしていますが、最後は二人とも亡くなっています。
始まりで作者である自分が「KAITOと種KAITOの違いを追求した一つの結果」と言いました。まさにその結果がこの終わり方です。
種KAITOは生きている。KAITOは生きていない。これがこのお話の大前提です。
だから種KAITOはマスターが死んだ後、天国まで追いかける事が出来るのです。

KAITOの亜種というからにはKAITOに似ている部分、KAITOと違う部分、両方ある筈だと思っていました。アイスが好きなところ、顔が似ているところ、マフラーをしているところ。皆似ています。
では違いは?と考えた時に先に述べたあの考えが出てきました。性格に関しては元が性格あるものではなく、それこそ好きな性格を創造出来るので省きました。うちの子設定とかありますしね。
そのほかにも違いはあると思います。成長すれば大きくなりますし。

自分の中で種KAITOは死ぬと霧散します。アイスから生まれたので最後は溶けてなくなるのでは、と思ったのです。
そしてもう一つ、マスターが死んだら種KAITOも死んでしまいます。
…この設定については「KAITOの種シリーズ」でいずれ出そうと思っています。

長々書きました。すみませんお喋りで。
いずれ修正して投稿し直そうと思っています。自分にとって大切なお話なので完璧にしたいのです(笑)
タグ、コメントありがとうございました。
特にタグは思い入れのある話なのでいい話と言われて嬉しかったです。…最後、ああなってしまいましたが、いい話だと思っていただければ幸いです。
まだまだ語りたいことはありますが、そろそろ失礼致します。
次はいつもの通り書きたいです。それからもうすぐチャラい種KAITOことモノの話を書きたいですね。…挑戦状の締切が迫っています(笑)

ここまで読んで下さって、ありがとうございました!

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