その後も幾度も再生し、更に書生とヤンスが互いに競いあって自分の知っている曲の動画を再生しあい、気がつけばカーテンが必要ない程に外は暗くなっていた。

「あ・・・もうこんな時間! ごめんなさい。門限があるんです」
女子生徒は携帯電話で時間を知ると、教室から出よううとした去り際。
「あ・・・あのう」
3人は同じタイミングで声をかけた。一瞬間が空き、そして3人は笑った。

「うふふ、今日は・・・ありがとうございました。その・・・もっと色々知りたいので、明日も来ていいですか・・・?」

書生とヤンスは顔を見合わせて、これ以上無いキメ顔で返事した。
「勿論である」「待ってるでヤンす」
「わたし・・・1年のクミって言います! 明日、入部用紙持ってきますので―――よろしくお願いしますっ! 今日は失礼しました―――・・・」
教室を出て、足早に歩き去るクミの後姿を見送った二人。
書生とヤンスはお互いに向き合うと、涙を滝の様に流しながら抱き合った。

「我が後輩よ!」「先輩!」
新入部員、しかも女子。2人は感激した。しない理由など無い。
「もしも・・・貴様が麗しのクミさんなら」
「もしも・・・先輩が可憐なクミさんだったらでヤンす」
お互い抱き合いながら身体をまさぐるが、かさばる身体に我に戻る。
「なぬ?」「ヤンす?」
2人は身体を離した。

「さてはお主・・・邪まで汚れた事を・・・考えているのであろう!」
「そう言う書生殿だって、何かチョメチョメな事、考えてるでヤンす!」
「貴様ぁ! チョメチョメなぞ、昭和の深夜番組みたいな言い回しだぞ!」
「書生殿はむっつりスケベでヤンす! そちらこそ何を考えているやら・・・PCの検索ワード、口にも出せない言葉が沢山出てきたでヤンす。コスプレ・ヤクルトレディ・って普段一体何を検索してるでヤンすか~~?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛~~っ!! しまったぁ―――っ迂闊ぅ!! 貴様ぁ~~~っ生かしておけぬぞ――――っ!!」

ややしばらく口ケンカになり、ケンカのネタもどこえやら、結局お互い何を言い合いしていたのか判らなくなった頃、書生は息も絶え絶えに「待て、そういう話では無かった筈」と、話を戻した。

「アレだ・・・平和条約だ。その・・・クミさんを巡って・・・ヤンス氏と醜い争いはしたくは無いのだよ」
「・・・僕だって、その・・・書生殿と変な空気になりたくないでヤンす・・・」

お互い手を差し出し、2人は硬く握手した。
「クミさんに―――愛の告白をしない条約」「ここに成立でヤンす」
ここで2人は平和条約を誓った。しかし。

(美術部を引退したら、我が愛を告白するのである)
(この先輩が引退したら、好きだと告白するでヤンす)

「ふふふ・・・」「へへへ・・・でヤンす」
硬い握手の裏側で、よからぬ野心を秘めているなど、お互い知る由も無かった。
なのだが―――2人の浅はかで、ささやかな野心は次の日、簡単に吹き飛んだ。

翌日、クミは約束とおりに美術室に訪れた。

ただ、其処にいるだろうと思われた書生とヤンスが居なかったのだ。
その代わりにいたのが、背の高い、ハンサムな男子生徒。

「あ、あのう・・・書生さんとヤンス君は?」
クミは緊張しながら訊ねた。こんなハンサムな男性と話すなんて初めてなのだ。
「ふふっ、おやおや? かわいい子猫ちゃんが迷い込んできたようだ」
「ふえぇ! か、かわいいって・・・私の事ですか!? 私なんて全然っかわいくないですし、メガネですし、性格も暗いですし! 胸もぺったん・・・」
「ふふっ、そんな君は、SO・CUTE! ぜ・ん・ぶ・僕の好みさ」 

俺氏は自分の前髪を掻き分ける。そして人差し指をクミの胸元に突き出し、拳銃の様に「ばきゅ~~ん!」と撃つ素振をした。
「きゅ~~~ん☆」 
クミは、今までの人生で感じた事の無いトキメキを知った。
「ふふっ、俺は3年生で、この美術部の部長さ。何故か皆"俺氏"と呼ぶ」
「俺氏・・・さん☆」
話せば話すほど、クミのドキドキが止まらない。
「ふふっ、君が噂の新入部員ちゃんだね! 書生から聞いている。今後もよろしく」
「はぁ~~~い☆」

男性に、かわいいと直に言われたのは初めての経験。それ故、恋愛耐性のないクミは非常に容易く、俺氏に心を攫われてしまった。そう、恋は唐突である。

途中からではあるが、その状況を見てしまい、教室の入り口で書生とヤンスは生まれたての子ヤギの様に、ガタガタと膝を震わせていた。
「お、おおおっ俺氏殿・・・いつの間に!?」
「ゆ、ゆゆゆぅ幽霊部長の俺氏先輩がなんで早くにいるでヤンす!?」
「ふふっ、少し寝坊な春風が、恋の予感を教えてくれたのかもね」
「・・・しまった。書生が新入部員の件で、昨日メールしたんだった。無念っ」
「へ、平和条約は・・・どうなったでヤンすか~~~~ぁ!!」
「ふふっ、俺はそんなの知らないのさ。さあ、皆でミーティングさ!」
「はぁ~~~い☆」

クミの目には既に、俺氏しか映らなく、そんな彼女を見ながら書生とヤンスは「ヴェあああああっ!」と変な叫びを廊下に響かせた。

かくして幽霊部長こと俺氏率いる、栗布頓高校・美術部が活動を始めた。
そして、この4人が50年に及ぶ付き合いとなるなんて、さすがに誰一人、知る由もないのだった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ミラクルペイント キセキのバーチャンアイドルー3

現在3話目。2009年時のキャラ紹介

クミ  高校1年生の絵を描くのが好きな女子。

書生  高校2年生の男子。言葉が堅苦しい、美術部の副部長。
ヤンス 高校1年生の後輩。子分気質。美術部員
俺氏  高校3年生のハンサムな部長。「ふふっ」が口癖。

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投稿日:2018/10/22 09:45:54

文字数:2,198文字

カテゴリ:小説

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