客間に通された俺とカイトは、互いに睨み合っていた。


「おい。記憶がないって、君もなのか?」
「あぁ。一ヶ月前から今までの記憶はある」
「そうか…本当に、僕と同じみたいだな」
「同じって…まさか、お前もそうなのか?」
「あぁ」


おい…なんだか、気味が悪いな。
なんなんだよ。
全く知らない赤の他人と、同じ境遇なんてよ……




*=*=*=*=*


*前回までのあらすじ*

カイト、登☆場!
そして、謎の少女が真実を語る!……多分。



*=*=*=*=*




もう慣れたよ、この適当なあらすじの仕方。
マスターがどれだけ適当なのかが、よくわかるよね。
あとなんか久しぶりだね、一年くらい経った気分がするよ。
まぁ実際経ってるんだけど、物語的にはまだ五分ぐらいしか経ってないんだよね。
じゃあそんなわけで、本編に戻ろうか。


「……えぇ、そうよ。うん、じゃあお願いね。うん、うん、じゃあよろしくね」


少女は、ケータイでどこかに電話をしていたのだが、通話を終えると俺たちのほうに向き直った。


「すみません、お茶はもう少し待ってください」
「あ、はい…」


別に茶を待ってたんじゃない。
待ってろと言われたから待ってるだけだ。


「と…そんなわけで、さっそくですが本題に入りましょうか」
「はぁ」


少女は真剣な顔で俺たちと向かい合う。
この少女は、何を語るのだろうか。


「いやー、実は私…あなたたちのこと、よく知らないかもしれません」
「へぇ!?」
「いや、だって…言いましたよね!?僕らの話を聞くって」
「言いましたね。でも『真実を教える』とは言ってません」


…そういえば、確かに少女は「話を聞かせてもらう」としか言っていなかった。
俺たちの名前を知っていたからといっても、全てを知っているわけではないのかも。


「じゃあなんで俺たちの名前を…自分自身でさえ解らなかったのに」
「そうね。もしかしたらあなたたちは、私が知っている人ではないのかもしれないわ」
「それはどういう?」
「…あのね。私には昔、大切な人がいたの」


少女は語った。
少女はある貴族の家に生まれ、大事に育てられた。
両親は優しく、時には厳しく、少女にいろいろなことを教えた。
少女はわがまま一つ言わず、両親の望む通りに育った。

そんな少女には二人の使用人がいた。
一人は紫の、もう一人は青い髪の執事だった。
二人の執事は少女を守る盾であり、同時に『ともだち』であったという。
少女は幸せだった。

しかしある日、家が火事になった。
屋敷は全焼し、父親と使用人が数人死んだという。
生き残ったのは母親、少女、一人のメイドだけ。
しかし母親は大怪我で病院に入院、少女は左目に火傷、メイドは右手に火傷を負った。
二人の執事はどこかの医療施設へ運ばれたが詳細はわからず、今は行方不明らしい。
つい一ヶ月前の出来事だった。


「前に住んでいた家が焼けたので、もう一つの家に移った。それがここ」
「普通に屋敷だったのか、ここ…」


道理で広いわけだ。

ただ…何か引っかかる。
俺が目覚めたのは一ヶ月前。火事が起きた日と一致する。
そして俺の記憶のはじまりは医療施設。
医者にいろんなことを聞かれたが、俺は何も答えることができなかった。

そして、それはカイトも一緒だったらしい。
俺と同じように、何かを考え込んでいた。


「私は偶然訪ねてきたあなたたちを見て、あの二人に面影を重ねた…だからあなたたちを」
「ここに置いた?」


少女は頷く。
なるほど。人違いかもしれないけど、大切な人に会ったから離れたくなかった、と。
離れてしまうのなら、いっそのこと――


「!?」


待て…俺は今、何を考えた?
思い出そうとした瞬間、俺を襲う激しい頭痛。
頭の中にノイズ交じりの映像が流れる。






――『ほら、花がきれいだよ!』――

 黒いゴシックのドレスを着た少女

――『大切に育てた甲斐がありましたね』――

 少女の傍に、二人の男

――『うん』――

 無邪気に笑う姿に、胸が締め付けられるような感覚 


 漆黒の世界、壊れそうな衝動を押さえつけ…






「――さん、神威さん!」


少女の叫ぶような声に、我に返る。
カイトも驚いたような顔をしてこちらを見ている。
なんだ?何があった?


「どうしたんだよ?様子がおかしかったぞ」
「急に頭をおさえて、顔も青ざめていたんですよ。大丈夫ですか?」
「え?あ、あぁ…今は。ただ何か…映像が、見えて」


激しい頭痛はするのに、映画を見ているような感覚だった。
セピア色に染まった映像、ノイズ交じりの音声、どこかで見覚えのあるような情景。
あれはいったい…?




*




俺とカイトは、少女の使用人としてここに住むことになった。
記憶がなく精神が不安定になっているかもしれないと、少女が心配してくれた。
使用人室がいくつか空いていたので、俺はその中の一室に住むことになった。
もちろんカイトもである。

使用人室といえば、俺たちが来る前からここには一人だけ、使用人がいた。
火事で唯一生き残った使用人である彼女は、ずっと少女を支え続けてきた。


『初音ミクです。これから宜しくお願いしますね』


初音ミク。
少女を守り続けた、この屋敷唯一のメイド。
右手に火傷を負ってはいるが、仕事に支障はないとのこと。
どんな厳しい人かと思ったのだが…


『お嬢様、ずっと寂しがっておられたんですよ。それに…私も使用人が私だけじゃ、心細かったんです』


ミクは涙目になりながら、俺とカイトの手を握ってぶんぶん振り続けた。
結構涙もろいようだ。

そしてミクは、俺たちにいろいろなことを教えてくれた。
この屋敷で、使用人として生きていくための知識も。
おかげでなんとか仕事ができそうだ。




「神威さん。始音さん見ませんでしたか?」


俺が洗濯をしていると、ミクが箒を片手に聞いてきた。
さっきから周りをキョロキョロ見てる。
ふとミクの後ろに視線をやると、ちょうどカイトがやって来るのが見える。


「さっき箒渡すの忘れちゃって。ずっと捜しているんですが、全然見当たらなくて」
「どうしたんです?」
「うぇいっ!?」


カイトに後ろから話しかけられ、ミクは驚いて箒を落とす。
驚いたミクにカイトも驚く。
ミクはやっぱり気づいてなかったらしい。


「…え、何その驚き方。僕ってそんなに驚かれることしたの?」
「い、いえ!ちょっとびっくりしただけで!決して心臓が口から飛び出そうになるほど驚いたわけではないですよ!!決して!!」


しかも本音がダダ漏れだ。
こんなにわかりやすい奴あんまりいないよな…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【VanaN'Ice】背徳の記憶~The Lost Memory~ 3【自己解釈】

Q.前に投稿したのいつだっけ?
A.一年半ぐらい前です…

長期停止していました。本当にごめんなさい。
中々書きづらいシリーズでして←

本家様 http://www.nicovideo.jp/watch/sm16321602

閲覧数:1,130

投稿日:2013/07/20 18:34:58

文字数:2,798文字

カテゴリ:小説

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