2~過去最高速の夜
泣き疲れて眠った愛花の寝顔を見て、ため息をつく。
それは愛花の事が心配なのもあったが、自分の立場というのもあった。
自分は臨床心理士だ。患者にプライベートのことを知られてはならない。
電話番号、メールアドレス・・・。
ましてや患者を家に連れ込むなんて、即刻首が飛ぶ事態だ。
過去最速の夜が明ける・・・。
コーヒーをたてると、パンをトースターで焼いて卵はフライパンで焼く。
朝の光が異常な位に眩しい。
僕は全く寝てなかった。
リビングの奥でばさっと音がした。
愛花が起きたのであろう。
愛花が上半身を起き上がらせてこちらを見た。
「おはよう、愛花ちゃん」
愛花はキョロキョロ周りを見ている。
「あの後寝ちゃったんだよ、ほら、朝ご飯できたよ。あ、パンだから朝ごパンか」
ゆっくり立ち上がってこちらへ来た。
「食べよ食べよ」
テーブルに2人、向かい合って座った。
愛花は美味しそうに食べるものの、会話は一向に交わさなかった。
「これ食べ終わったら先生仕事だから、家に帰ろうよ」
愛花は首を横に振る。
「先生困るよ」
僕がそう言うと、愛花が首を振りながら僕の袖を掴む。
顔は今にも泣きそうである。
いかんいかん。ここははっきりさせないと。
「こんなことが知れたら先生クビなんだよ?」
こうして僕と愛花はマンションの玄関で別れた。
心の奥底では心配でたまらないが、病院に連れて行くわけにもいかない。
彼女の家まで送って行く時間もなかった・・・。
1日中寝不足と心配で診察もままならなかった。
話を聞いてもカルテに書き忘れたり、誤字脱字が増えた。
さらには「先生話聞いてます?」と怒られたりもした。
ずっと上を向いてポカーンとしていた。
帰りの自転車を漕いでいても集中できない。
今にも事故を起こしそうだった。
ふらふらとマンションに向かう角を曲がった。
すると。
「!?」
マンションの玄関に体育座りしている愛花の姿があった。
ブレーキを握りしめて、彼女の前に自転車を停める。
「あ、愛花ちゃん?」
愛花が泣きそうな顔で抱きついてくる。
「家に帰らなかったの?」
胸の中でコクっと縦に首を振った。
もう、考えることはなくなった。
彼女の手を引き歩き出す。
行先は愛花の家だ。
彼女の家は豪邸であった。
チャイムを押す。
〈はい・・・〉
「あの、西生会病院の松田です。愛花ちゃんをお連れしましたが・・・」
愛花の母らしい声がしらっと言う。
〈あんな子、うちの子じゃありません〉
「何故ですか?大切なお子さんじゃないですか!!」
必死に止めようとするが次の言葉で凍りつく。
〈とにかく、あの子はもううちの子じゃないんです!!松田先生が引き取ってください!!あんな子!!〉
「あ、あの・・・」
インターホンが切られ、沈黙が走る。
その後何度もチャイムを押すが、返事は帰ってこない。
後ろで泣いている愛花の姿があった。
・・・どうしたものか。
とぼとぼ僕と愛花が歩いていた。
夕闇の中で街灯が道路を照らし始めていた。
「・・・地点・・・行くあてを失った現在地・・・あなたの名前はなんですか・・・」
後ろでかすかな歌声がすることに気づいて後ろを振り返ると、愛花が涙を流しながら歌っていた。
「愛花ちゃん・・・」
優しく愛花を抱きしめてやる。
僕が出来る限りのことをしてやろう、そう思った瞬間だった・・・。
トリノコシティから始まるストーリー~その2~
トリノコシティから始まるストーリー第2話です。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
前回より極端に短い文章になってしまいました。
と、いうより前回が異常に長すぎたというのが正しいでしょう。
この小説書いていて辛いです。1925の時は楽しく書いていたのに。
途中でこのシリーズ打ち切るかもです。
・・・なるべく頑張るのでよろしくお願いします。
応援のメッセージ、ご意見ご感想心よりお待ちしております。
トリノコシティから始まるストーリー
リスト→http://piapro.jp/bookmark/?pid=tyuning&view=text&folder_id=198731
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Messenger-メッセンジャー-
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BPM=156
作詞作編曲:まふまふ
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poki
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