!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
胎児内胎児。双子として生まれるはずだった一人の体内に、もう一人が取り込まれた状態、と言えばもっとわかりやすいかもしれない。
両親はそのことを知らなかったそうだけれど、自分の中にあるもう一人の感覚は、本人には確かな感覚として伝わっていた。だから、『もう一人の自分』が出てきた時も、それが『自分の中にいる兄弟』なのだとすぐにわかったという。そして彼が兄だということも最初から知っていたと、彼は言った。
「これで、彼と僕の話はもう詳しくはしないけど・・・別に構わないね?」
最低限のことを話し、彼は少しばかり首を傾ける。視線を向けられたカイトやルカさんは、小さく頷きを返していた。
過去の話の中でも、それは必要のない話に思えるけれど、実はそうではない。あの事件を語る上では・・・彼のことを語る上では大事なこと。
彼は私へとうかがうように視線を向けてくる。言っても大丈夫かい、と優しく問いかけられたようで、私は震える手を握りなおして頷いた。
「僕の名前はさっき言ったね?」
「はい・・・竜一さん、ですよね」
頷くルカさんの隣で彼に返事をするカイト。
ドクドクと心臓がうるさい。
――呼んではいけない。知らず知らずのうちに声に出せなくなった『それ』。けれど、彼が口にするなら、きっと私もこれからは口にできる。
少しの期待と、押し潰されてしまいそうなほど重い不安を抱えたまま、彼の口から出る言葉を待った。
「――苗字は、上条なんだ」
上条竜一、と付け足す彼。ルカさんはほんの少し驚いた顔をして、カイトが真ん丸な目で私の顔と彼の顔を見比べている。きっと予測ぐらいはしていたはず。こんな私が身近にいる誰かのせいでこうなったとわかっていたなら、彼が何者であるか予測するのは難しくない。
カイトは苗字が同じということが何をさしているのか、わかっていながら信じられないという顔をしている。今まで黙っていた司くんはその反応に小さく笑っていて、刑事さんは相変わらず我関せず。
皆の様子に曖昧な笑いを作ろうとした時、隣から伸びた手が私の頭を優しく撫でた。
「僕は、律の父親です」
その言葉に、誰かが息を呑む。微かに力が入った自分の両手。決して恐怖ではなくて、呼んでもいいんだってわかって嬉しかったからだった。
初めて愛した人で、初めて愛してくれた人。大好きな、大好きな・・・男の人。
(・・・お父さん)
口の中だけで呟くその言葉は、多分自分にしか聞こえなかっただろう。今その言葉を言ってしまったら堪えきれずに涙が溢れてしまいそうで、ぐっと耐える。
呼びたくてもいつも閉じ込めてた。だから、いつまで経っても竜一さんであり、あの人であり、彼だった。
(もう・・・お父さんって、言っていいんだ・・・)
禁止されていたわけではないのに、改めてそう認識することですごく安心した。けれど、その空気はお父さんが口を閉じたのと同時にやってきた緊張感に押し込まれてしまう。
「律・・・少し辛いかもしれないけど」
優しい声が心配してくれるのに、小さく身体が震えた。けれど、それに抵抗して軽く首を振り、大丈夫だという意思表示をする。覚悟はしてたから、と目に力を込めると、お父さんはゆっくりと前を見据えた。カイトが少し心配そうな顔をしていたけど、にこりと微笑みを返す。
「大丈夫です。いつかは事件のことも話さなくちゃいけなかったから」
例えば、それがこの胸の傷を抉ることになっても。
手に力を込めると、司くんがよく言ったとばかりに口元に笑みを浮かべてくれた。
「俺と律は、竜一さんとよく一緒に遊んでてな。俺が渡米するまでは仲良くやってたんだ」
暗い声色を極力明るいものに変えて、司くんは切り出す。司くんは私があの日全てを話したから、話した時の私が余程の状態でない限りは全てを知っているはずだ。私が知っている範囲のことは。
そのまま続きも喋ってしまいそうな司くんを制止して、お父さんは目を伏せて言葉を繋げる。
「始まりは・・・彼が渡米した2年後、妻が巻き込まれた事故・・・いや、事件からだった」
カイトの聞き返す声とともに、足元から頭上へと悪寒が走り抜けた。手の震えが大きくなる。
気持ちが悪い。覚悟していても、まだ思い出すだけで息が詰まりそうになる。
「事件というのは・・・?」
張り詰めたルカさんの声に、お父さんが私の不安を代わりに吐き出すような息をついた。お父さんが言い直した言葉に違和感を覚えたルカさんはさすがだと思う。カイトもルカさんのその言葉ではっと気付いたようで、お父さんからの返答を待っていた。
「最初は事故として片付けられたんだよ。でも、その1年後だ。
偶然僕が・・・いや、竜二が犯人の会話を聞いてね」
私はその日のことを、詳しくは知らない。ただ、帰って来た竜二さんが、もう既に事を起こした後だったということは、知っている。
お母さんは、殺された。お父さんが死のうとした遮断機近くの駅で、ホームから突き落とされて電車に撥ねられた。
『――なあ律。美希は、犯人の暇つぶしで殺されたんだ』
竜二さんは私を閉じ込めてそう言った。
とても怖くて、その怖さを忘れるほどとても悲しそうな目をしてた。
『もう俺には・・・俺たちには、律しかいない。だから、お前はずっと一緒だ』
今でも鮮明に覚えている。
「あれは、無差別殺人だったんだ。
犯人の男は、誰でもよかったと仲間に言っていたよ。僕らが聞いているとも知らずにね」
優しかったお母さんを思い浮かべているのか、お父さんの顔は酷く辛そうだ。
私の記憶の中にいるお母さんはいつだって笑顔で、とても優しい。お料理上手でおしゃべり上手でほめ上手で愛され上手。美人で、だけどとても可愛くて、自慢のお母さん。お父さんととても仲が良くて、きっとどんな夫婦よりもお父さんとお母さんは一番仲良しなんだと思ってたし、実際そうだっただろうと今でも思う。
でも、だからこそだった。だからこそ、歪んでしまった。
愛していたからこそ、その存在がなくなった穴が大きすぎて埋められなくて、代わりになるものを探したけど見つからなくて・・・その穴が周りを崩して全ての歯車を狂わせた。
「その話を聞いてすぐ、危ないとわかったんだよ・・・でも、抑えられなかった。
僕は自分の体をコントロールできなかった」
淡々と事実だけを述べるお父さんの声。それはただ私の胸を締め付ける。その言葉がお父さん自身も、そして私や司くんや刑事さんまでもを・・・容赦なく傷つけるとわかっているから。
刑事さんは手持ち無沙汰なのだろう、空になったカップを両手の中で転がしながら、無表情を決め込んでいる。司くんは真剣な表情のまま。
秒針が緊張感をほぐすように軽快に鳴っている。けれど、空気は緩むことなく張り詰めたまま、刑事さんが持ったカップを丁度テーブルに置いた時――その言葉はお父さんの口から飛び出した。
「竜二は、犯人の男を」
ぎゅっとかたく閉じた目の裏側でチカチカと何かが点灯する。それはあの日見た救急車の赤い光のよう。お母さんが消えてしまったあの日の、あの絶望の光。
お父さんが気持ちを落ち着かせるように一つ息をつく。
「律の母が殺された駅のホームで」
私がいなくならないように、私が消えてしまわないようにと竜二さんは言いながら、私を追い詰める。私の名前を何度も繰り返しながら、愛してるよと囁くように嘯きながら。
『もう美希を殺した奴はいねぇ。何故なら、俺が』
花瓶を徐に持ち上げて口端を吊り上げる。
「――殺したんだよ」
『――殺したからだ』
ガシャン、と耳の奥で床に落ちた花瓶が悲鳴を上げた音を聞いた。それは、今誰かが何かを割ってしまった音だったのだろうか。それとも・・・記憶と今が混ざって、私の中の何かが悲鳴を上げたのだろうか。
私には、わからなかった。
→ep.43
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