-招待-
 全速力で、全神経を集中させて逃げても、逃げても追ってくる悪夢は獲物を追う狐のように素早く、狙われた黒兎はそれから逃れるすべを持たない。怯えた黒兎は追ってくる狐を避けるために別の狐に付け入って、狐同士が戦っている間にその場から逃げ去ってしまう。そうして黒兎は囚われた仲間の金兎を助けて逃げようとするのだ。その後ろに残った狐が居ることに、気付きもせずに。
 それか、今、プリマが置かれた状態だった。
 目の前には捕らえられたアン、後ろには酷く無表情なレオン。
逃げることはできない。黒くてもいくら可愛らしくても、所詮兎は兎、狐のように動物の肉を喰らう生物のえさとなることしかできないのだろう、と兎は覚悟を決める。
「レ…オン」
「プリマ、何をしているんだ」
「見て…わかりませんか?」
「いや?一応は弁解の余地をやろうと思った。ついさっき俺は言ったばかりだぞ?次はない、と」
「ええ、分かっています。しかし、私は貴方の計画に賛同はできませんね。そうやって力でねじ伏せているのでは、私たちが受けた暴挙と何が違うといえましょうか」
 優しげなプリマの敬語は崩れないままでも、その声はかすかに震えているのが分かってしまうのだ。それでも声を絞り出して、目の前の相手に屈しないように。それは、狐と兎のようで、紫と黒のドレスを着たプリマはふわりとした兎の毛並みのように温かげだった。
 その後ろで壁にもたれて俯いたまま気を失い、まるで鳥かごのような牢に閉じ込められているのは、金兎のようなアンだった。口紅の上に赤黒い血が固まって、赤紫色の紅はほぼ隠れてしまっていた。
 小柄なプリマは長身なレオンを見上げる形で立っていたが、次第に視線を足元に落として俯いた。
「…私は、貴方の計画を実行して傷つくのよりも、誰かを傷つけて自分の傷をえぐるより、今のままでずっと静かに暮らしていたいのです!」
「ここまで来て、そんなことが許されると思うのか?」
「思っていません。ですが、貴方が目を覚ませば…」
「目を覚ます?何を言っているんだ。俺は目覚めている、眼を覚ます必要もない」
「貴方の考えは間違っています」
「間違っているのはお前たちだ。どの世界にいても認められない、誰もが好奇の目で見るんだ。それを正そうということの何が悪い?」
「違う!貴方のしようとしていることはそんな綺麗事ではない!貴方がしようとしていることは、侵略、そうでしょう?」
「侵略?人聞きの悪いことを言うな。俺はこの世界の――人間界も魔界も、この聖界もの全ての狂った差別を無くそうとしているだけだ!」
「嘘を言わないで!貴方がなんと言おうとも、私は貴方に従いはしない!」
 二人とも声を荒らげて叫び倒すかのように声を出す。
 切れ始めた息を整えてレオンへと目を向けると、今更ながら体中が言うことを聞かずに震えが止まらなかった。
「あ…っ」
「要らない道具だな。…だが、利用価値はある。お蔵入り、といったところか?」
 そう言ってレオンは不敵な笑みを浮かべた。

 土曜日の昼間はもっともレンが外に出るのを拒む日であった。と、言うのも、特に大きな理由もなく、ただ土曜日は休みなのだから休みたい、という理由なのだが。
 あれから、カイトとランは帰ってしまってレンも疲れが出ているのだ。しかし、リンにしてみれば、そんなことはどうだっていいことで、レンと遊びたい!
「レン、散歩いこう。ほら、いい天気だし!」
「なんでだよぉ…まだねーむーいー」
「四の五の言わない。男でしょ」
「じゃあ女でいい」
 駄々をこねるレンの手を引いて、無理やりに外へと飛び出した。
 いつもと同じはずの町並みが、どことなくざわめいて不安げな空気もあるように思え、これから何かが起こると、予知しているようでもあった。
 どこへ行くわけでもなく、ただその辺りを歩いて少し話して、近くにカフェがあったからそこで軽くお茶をして、また少し話をした。
「あんなところにカフェがあったんだね、ちょっと得した気分じゃない?」
「…ふぁ…」
「もう、レンったら!」
 少し怒ってから顔を背けたリンを気にもせずに、レンはすたすたとあるきだしてしまって、リンはしぶしぶそれについて歩いていった。
 またしばらく歩いていくと、段々レンの目が覚めてきて、
「あ…?ふぁ…俺、何やってンの?」
「散歩!」
「ああ、そうそう。…帰る?」
「まだ出てきたばっかりだよ」
 そう言って、また歩き出そうとしたときだった。
 すらりと長身で色黒の誰かが、リンとレン、二人の前に立ちはだかった。
「レオン君?」
「ねえ、散歩?ならさ、家が近いんだ。来ない?昨日、紅茶を買ったんだけど、美味しくて、誰かに飲ませてみたいんだ」
「へえ!レン、いこうよ。お昼までに帰れば、大丈夫でしょ」
「え。いや、俺は――」
 そこまで言いかけて、やめた。
 ここでリンをレオンに渡してしまって、大丈夫だと、無事で帰ってくるという保障はどこにもない。それどころか、今までこんな風にレンと一緒に誰かに誘われたとき、二回とも『何かが起きている』。それを考えれば、やはり危険を覚悟でもいくしかないだろうか?ああみえてリンは一度決めたことは誰であろうと絶対に譲らないタチだ、説得しようとしても、無駄だろう。
「レン?どうしたの」
「いや、なんでもない。…行こう」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

鏡の悪魔Ⅲ 6

こんばんは!
今回もかる~く要約!今回は~?(ドドン!)
『レンは土曜日低血圧』
ですね。え、あ、ハイ。曜日によって血圧が変わるなんて事ないですよね。
すみません…。だって、きっとそうだから…ね!
そういえば。また一日一回投稿が崩れそうなので予告。
十二日に別の親戚のうちに行くので、投稿ができません。
その家ではネットがつながるので、着いてからは良いんですが、どうも遠いモンで。疲れて死にそうになってしまうので…。それから、十四日?も帰るので多分できないかと。その辺りはちょっとあいまいですが…。
ごめんなさい><
では、また明日★

閲覧数:524

投稿日:2009/08/10 23:00:01

文字数:2,226文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連動画0

  • リオン

    リオン

    ご意見・ご感想

    みずたまりさん
    こちらも何だか要約するほうが楽しくなりかけているリオンですが。
    明後日は投稿できるはずなんですが…明日と明々後日ですね。投稿できないのは。
    みずたまりさん、毎回見ていただいて、アリガトウございます!!

    2009/08/11 20:08:31

ブクマつながり

もっと見る

クリップボードにコピーしました