-接触-
 少なくとも、レオンはアンについて何か知っているらしい。あえて追求はしない。レオンは何かを隠し、レンに、そしてランに接触してきているのだ
「嫌な感じがするな」

 夕方の六時、鈴は仕方なくアンを探すのをあきらめ、帰路につこうとしていた。隣には今、用を済ませてアンを探しに来たばかりのレンが何かを考えるように、ブツブツと呟きながら歩いていた。
 先ほどから気まずい空気が漂っていて、どうも話しかけづらい。
 館まで殆ど言葉を交わすことなく歩いた二人は、館の前で立ち止まった。後ろから誰かが声をかけてきたのだ。後ろにいたのは、黒髪の―――
「アンちゃん!」
「お久しぶりです。しかし、私の名はアンではありません」
「どういうこと?」
「私はアンではなくプリマと申します。そしてアンというのが――」
「私です」
 そう言って顔を見せたのは健康的な小麦色の肌に長い金髪の、意志が強そうな目の女性だった。唇にぬった赤紫の口紅は彼女のイメージとぴったりあう、怪しげな色調だった。
 小柄で童顔、清楚な服を着たプリマとは対照的に、スタイルのよい長身に大人びた顔立ちや露出の多い服を着たアンは二人の見たアンとは明らかに違って見えた。
「私達はそれぞれの名を語り、他人を欺いて暮らしていました。私はアン、アンは私の名を。こうすると、住所等の情報が流出するのが遅れるので」
「どうしてそんなことを?」
 やっと話がわかってきたところのリンが問う。
「それは、今、お話しすることはできません」
「なら、何故ここへ来てそんなことを言う必要がある」
「ミク様に…ミク様に伝言をお願いしたいのです。私の名はアンということで」
「お願い、いいでしょう?今はわけあってその子に会えないの」
 横から切実なプリマの言葉を弁護するようにアンが言う。しばらく考えていたリンとレンはそれを拒む理由もなく、ゆっくりと頷いた。一気にプリマの表情が明るくなる。
「ありがとう!『今は会えませんが、元気ですから、気になさらないでください。ミク様も体に気をつけて』と、伝えていただけますか?」
「…わかった」
 頷いて了承したレンを見て、プリマはふと悲しげな表情になってうつむくと、
「お二人は優しい方ですね。私はあんなに酷いことをしたのに」
「困ったときはお互いさま、気にすることないよッ!それにおかげでミクちゃんとも仲良くできそう!」
「そうですか、それはよかった。では…」
「あ、ちょっと待って」
 立ち去ろうとする二人を止めたのはレンだった。
 少しプリマのほうへ近寄り、耳打ちをして何かを質問をしたらしく、プリマはそれを聞いて表情を硬くしたが、それから少し悲しげにレンをみて、
「ええ」
 と答えた。
 それからリンとレンに深く頭を下げて、顔を上げるとアンと共にその場を去っていってしまった。今度はレンがとめることはしなかった。
 その足取りは見ていても重く感じられ、まるで帰るのを恐れるようにも見えた。
 二人の姿が見えなくなるとリンが
「ねえ、何を聞いたの?」
「なんでもない。気にすんな。―さ、中に入った入った」
「あーちょっと、押さないでよー!!」
 質問をまともに聞こうともせず、レンはリンの背中を押して開いた扉の中へと入っていった。

『レオンというやつを知っているか?』
 その問いにプリマは間を置いてだが、明確に答えた。『ええ』と。それが、どんな関係なのかはわからないが、レオンと何か関係があることがわかっただけでも大収穫というものだ。
「――これで謎は一つ消えた…か」
 そう呟いて、館の中へ入っていった。中からは美味しそうな夕飯の香りが溢れているようだった。

 リンを部屋へと押しやって、自分は部屋には戻らなかった。
 まっすぐに向かったのは、客人用にあいている三つの部屋のうちの一つで、今はその部屋を兄が使っているはずだった。その隣の部屋は、ランが使っている。キッチンのほうで昨日のように手伝いをしている様子なかったから、多分はこの部屋でアイスを食べているか、寝ているかあるいは―――
「死亡中?」
 そんなわけがない。
 というか、『中』って何だ。お前の兄は生き返るのか。
 この場にリンがいたら、そんなツッコミを入れたのだろうが、あいにくこの場にはリンがいない。
 木の戸を三回ほどノックすると、中から
「もう夕飯?まだ六時二十三分だけど。七時じゃなかったの?」
 という声が聞こえてきた。大方、ノックをしたのはメイコだと勘違いしているのだろう、夕飯だと知らせに来たのだと思っているらしい。仕方なく、そのまま中にはいっていくと、カイトは少し驚いたようにレンをみていた。
「何?レンが夕飯を知らせに来たの?」
「夕飯じゃねぇよ」
「えー、じゃあ何?…あっ俺のアイスは上げないからね!」
「いらねぇよ!」
「じゃあ、何しに来たの?勉強は教えてあげられないけど」
 そういうカイトにレンは呆れたようにため息をついて見せたが、表情を切り替えると、スクールバックからメモ帳を取り出し、小さなテーブルの真ん中にカイトの方へ向けておいた。あの箇条書きで書いた、メモだ。しかし開いたページに書かれていたのは、箇条書きのメモではなく、ある程度整った堀の深い――レオンの似顔絵だった。
「これ、レンが書いたの?上手だなぁ」
「ふざけてる場合じゃないんだって。カイト兄、聞きたいことがあるんだけど、いい?」
 
 しばらくレンはカイトとの話に夢中で、時間を確かめることをしなかったため、夕飯の時間が迫っていることに気がつかなかった。
 いきなり戸が開いてランが二人を夕飯に誘いに来た。
「カイト兄、レン、晩ご飯。…あれ、その絵の人…私、この間あったよ?」
「あっいや、これは…転校生が変わってたから…その似顔絵!ランがみたのとは別人だって、絶対」
「えー。でもー」
「…晩ご飯、行こうか。二人とも行くよ。あ、レンは着替えてね」
 そういうとカイトはランを連れて部屋を出て行ってしまった。その場をどうにかするために、カイトが気を使ってくれたのであろうことは、レンにもよくわかった。
 メモ帳をバックの中に滑り込ませ、自分の部屋へと着替えに戻っていった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

鏡の悪魔Ⅲ 4

こん…ばんは、で良いんでしょうかね?
お久しぶりです、かえって来ました。
今回の話を要約するとですね、
『カイトが死亡中』…あ、嘘です。これはレン君のジョーク…え、レン君マジだったの?ごめん、だってあれはありえな…ごめんなさい。
要約するとですね、
『晩ご飯の時間』
です。だって、カイトが晩ご飯…。
じゃあ、また明日!

閲覧数:777

投稿日:2009/08/08 19:15:42

文字数:2,581文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

    その他

    みずたまりさん
    こんばんは!
    え、あ、はい。カイトは死亡中ですよ。
    その変換だとメタボみたいですね(汗)
    アンがプリマでプリマがアン、プリマがアンでアンがプリマ、プリマがプリマでアンがプリマ…!?
    私もわからなくなってきました(←何で?)
    次回からの展開をお楽しみに!

    2009/08/09 21:25:24

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