「ねぇ見てあの二人」
「田中と加藤?」
「そう、田中君と加藤君、めっちゃ良くない?」
「…なにが」
「すっごいお似合いじゃ〜ん!」
学校からの帰り道、俺の横で花咲がはしゃいでいる。
「あれれ? もしかして妬いてる??」
「…うるさい」
「可愛い奴よのぅ」
花咲はいつも花が咲いたように笑う。
「心配しなくても、浮気なんてしないからね」
そんな花咲を見て、俺はいつも言い表せない感情を抱くのだ。
☆
趣味に走る花咲は、いつも俺の知らない顔をしている。
見ている限り花咲の趣味に関しては、良さがわかる気はしないけれど。
それでも知りたいと思うし、わかりたいって思うんだ。
…思うのだが、詳しく聞いても「妬いてるの?」としか言われない。
確かに少しは妬いている。
それは否定できない。
でもそれ以上に知りたいって思ってるのに、当の花咲はといえば趣味友とばかり盛り上がって、俺は仲間に入れないのだ。
★
「そりゃさ、話が合う相手と盛り上がることはあると思うよ。でもさ…」
「ぎゃははははは!!」
「うっわお前健気〜!!」
俺の愚痴に笑いを堪らえる気がない悪友達。
「で? そのカノジョとは上手くいってんの?」
「いつも趣味に夢中」
「漫画とかの趣味だっけ? お前は読まねーの?」
「…あんまり教えてくれねぇ」
「あー、ほっとかれて拗ねてんだ」
「…うるせぇ」
わかってる。その通りだ。
そろそろ覚悟くらい決めるべきだ。
花咲の笑顔が脳裏に浮かぶ。
次のデートで本屋とか巡って、オススメを聞こう。
コミケとかだって花咲が行くなら行ってみたいし。まぁ浮くだろうけど。
それでも、花咲が居る場所なら外野でいたって悪くないと思うのだ。
花咲は俺が浮気を心配してると思ってるのかもしれないけど、違う。
俺は花咲と同じ景色を見たいんだ。
『同じものを見て一緒に笑いたい。』
いつも言い表せなかった感情が形を帯びた気がした。
☆
けれどその『次』は来なかった。
感染症のパンデミックが起こったからだ。
皆ゾンビになった。
花咲もゾンビになった。
★
「うわぁ!!」
「やべっ、走れ!!」
中学生くらいの男子二人が逃げていく。
まだ生きている人がいたのか、と俺はぼんやり思った。
それでも食べたいとか思わない辺り、俺はまだ『人』なのだろう。
「こーら、他の人のトコ行くんじゃない。困っちゃうだろ?」
俺は逃げた男達の方へ行こうとする花咲を、繋いだ手に力を入れて引き留める。
「あぅ、あ゙ー、あ゙ぁぅ」
「ねぇ俺ともっと一緒に話そ? ね?」
俺には花咲が何を言っているのかわからない。
それでも一緒に話したいと思っているわけで、できれば普通に喋ってほしいものだ。
☆
街は静かだ。
時折何かが崩れたような音がする。
花咲は俺を見ない。
俺はいつも花咲のことを見ている。
花咲はいつも笑っている。
俺の知らない顔をする花咲を、少し怖いと思うときがある。
そういう時は、いつもそっと軽く口付けを交わすのだった。
★
花咲はたまに街を練り歩く。
他のゾンビ達も同様に、集団で徘徊するのだ。
俺はいつも花咲に付いて回った。
繋いだ手を離さぬように、決して離れないように。
俺が花咲と同じように話せたら、きっと二人仲良く生きられるから、
だから俺がそっちに行くまではどうか君は同じままで。
☆
俺ではない誰かを追う花咲きを見て思う。
例え今俺の目の前に花咲以外の、まぁ可愛い娘がいたとしても、俺は絶対に襲わない自信がある。
二人きりになろうが誘われようが、手を出したり、ましてや食べたりなんてしない。するわけがない。
「なぁ、他の奴ばっか見んなよ…」
花咲はもう俺の声に振り向かない。
他の奴の声には反応するのに。
「なぁ、俺はもう用無しなの?」
首筋の傷がずきりと痛む。
片手で触れてみれば、未だに傷口は塞がっていないようだった。
ぬらりと光る、赤黒い血の付いた手を眺める。
「…俺だったら、また噛んでもいいよ」
もう片方の、花咲と繋いだままの手を引き寄せる。
「他の奴はどうでもいいだろ?」
花咲は、俺を見ない。
「…俺が一生一緒にいるから、離れないから、」
だから、今度また噛んでよ。
★
「…同じ言語を話せたら、また二人一緒に笑えるのかな」
ぽつりと呟く。
しかし俺の声は静まり返った街に吸い込まれて消えた。
花咲の見つめる先は、ずっとずっと遠い。
俺には花咲に見えている景色を見ることは叶わないのだろうか。
どこか遠くへ行こうとする花咲を、俺はぼんやりと見つめる。
もう夢のような話だ。
噛み合わない視線がまた合うことを、俺はずっと焦がれている。
ずっと感じていた痛みも空腹も苦しみも不安も、その全てがもう思い出せない。
ただただ何かを必死に探している。
狂おしいほどに求めてる。
「…俺はどんな花咲でも愛してる」
今のうちに言っておくよ。
☆
花咲は今日も街を歩く。
俺は今日も付いて歩いた。
その日は珍しく、いつも俺のことを奇異の目で振り返っていたゾンビ達は何の反応も見せなかった。
噛まれそうになることも、引っ掻かれることも無い。
だけど心は俺のままだ。
俺はずっと花咲の仲間にはなれないのだろうか。
たとえそうだとしても、俺はずっと離れないから。
★
『いやだ、私…! きっと私も化け物になる…!』
『大丈夫だ! 俺がずっと一緒にいるから!』
『ずっと…?』
俺を見上げた花咲の、今にも泣き出しそうな顔を見て、俺は笑ってみせた。
『ずっと手を繋いだままなら、絶対に離れないだろ?』
『…いいの? 逃げないの?』
『たとえ花咲が俺のことを噛んでも、俺も花咲も化け物になったとしても、何もわからなくなったって絶対に離れない』
『…そんなの、』
『俺はずっと、忘れないから。』
だから、笑ってくれ。いつものように。
☆
ふと、花咲が振り返って、笑ったように見えた。
ずるり。
アレヱット何ダッケ…
【小説】俺の彼女が腐ってた。※公式二次創作※
【MV】俺の彼女が腐ってた。/ 松香恋 feat.重音テト
https://youtu.be/QVq978fr-NI?si=fZ422krOsZp4xEDm
https://nico.ms/sm39990118
※二次創作です。他の解釈もアリよりのアリです。
解釈の一つとしてお考え下さい。楽しんでいただければ幸いです。
MADやイラストなど作っていただけるとめちゃくちゃうれしいです。
他解釈の作品もめちゃくちゃうれしいです。
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