(※ホラー風な童話ですので、ほんのりとグロテスク・猟奇表現注意。)
あるところに、街がありました。
豊かで、賑やかで、人々の笑い声が絶えない街がありました。
街の中心にあるのは、高く美しい時計塔でした。
荘厳な金色に塗られた長針が十二を指し、鐘の音が鳴るたび、人々はその澄んだ音色に心を震わせながら、時計塔を見上げるのでした。時計塔には大きな窓がついていて、塔の中の部屋から街を一望できました。その部屋は時計塔を管理するための部屋でしたが、それ以外にも街の人で集まってパーティーをしたり、誰かがふとやってきてぼんやりと過ごしたり、様々に使われていました。時計塔は誰も拒むことがありませんでした。
薄明るい夜になると、時計塔には決まって、可愛らしい少女が訪れていました。
少女は遊び疲れておうちに帰るその前に、少しだけ寄り道をするのです。二つに結った緑の髪を跳ねさせながら、時計塔の部屋へと続く階段を駆け上がります。そうして、大きな窓から身を乗り出すようにして、くりくりとした愛らしい瞳で街を見下ろすのが、彼女の日課でした。
六時ぴったりになると、少女は響く鐘の音に包まれて、幸せそうに微笑みました。街の人もそんな少女を見て、あたたかな気持ちになりました。
そんなある日のことです。
平和なはずの街に、それはもう恐ろしい男が来てしまいました。
男は人の心を持っていませんでした。まず初めに、男は街じゅう響く鐘の音に対して、しかめ面をして、やつあたりとばかりに周囲の人を殴りつけました。いいえ、殴るだけではすみません。穏やかな街の人には思いもつかないような残虐な方法で、多くの人を殺してしまいました。全てが全て、気に食わなかったから、というただそれだけの理由でした。
その恐ろしい男は、一刻も早くあの耳障りな鐘の音を消してしまおうと、時計塔の中の階段に足を踏み入れました。すでに先客があの素敵な部屋へ行こうとしていたのですが、男はその人達をお構いなしに殺してしまって、転がる死体の上を踏みつけて進んで行きました。
時計塔の部屋には、その日もいつものように、緑の髪をした可愛らしい少女がいました。
少女は街を見下ろしていました。
周りでは鳩達が楽しそうに鳴いていました。
時計塔の窓からは、男の非道な行為は見えませんでした。
やがて、男が少女の元に辿りつきました。
少女は窓の外から目を離して、笑顔で振り向きました。
そうして、笑顔のまま、首をはねられてしまいました。
鳩は飛び立ってしまいました。
男は見せしめのように窓枠に少女の首を置くと、さっさと時計塔から出て、街に火を放ち、満足そうに出て行きました。残されたのは、流れる血で見るも無残な姿になってしまった、時計塔だけ。街にはもう、誰もいません。
けれども、街の人達は未練がありすぎて、身体は無くとも心が地上に留まってしまいました。これではお空に昇ることができません。穏やかに眠ることができません。
首だけになった少女がこう提案しました。
「辛いことを忘れるには、楽しいことをすればいいのよ。いっぱい笑っていれば、いつかお空にいけるはずだもの。だから、皆でパーティーをしましょう!」
街の人は優しい人ばかりでしたから、たとえ幽霊になってしまおうとも、あの男を恨むことはありませんでした。皆が皆、少女の考えに賛成しました。
そうして、街ではいつまでもパーティーが続きました。
赤と金の混じり合った時計の針は動かなくなりましたが、彼らのパーティーが終わることはありません。六の刻を指して時を数えるのをやめてしまった時計塔の元で、毎夜、賑やかなパーティーが始まるのでした。
時計塔は誰も拒みません。
誰もがみんな、御客様。生首も幽霊も鳩も、そこ行く見知らぬ方までも。
だから、そう、あなたも――
ご一緒に、パーティーに参加致しましょう?
おしまい
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