霧の夜
水上(みなかみ)に月満ち満ちて、
図南(となん)の志あり
田畑(でんぱた)に
紅(あか)き花は散りて
穢土は清められん。

 昔々、荒れ野を行く勇士は
 ある時三本の分かれ道に出会ったそうな。

 “右に行けば富を 左に行けば名誉を 
 真ん中に行けば愛を差し上げましょう
 だけどもそのどれにも代償が付きます
 そうあなたの『何か』を頂きます”

 御伽話の賢い勇士は
 嘘を見破って何にも得なかったそうな。

 “けったいな、所詮 すべては青い幻想さ”
 かくしてその三叉路(みち)には墓碑銘だけが残った
 時は流れ新暦、ふと一人の勇士が
 その墓碑銘に差し掛かった

 それも今となっては遠い遠い昔話

 行こう、朽ち果てた お決まりを捨てて
 運命の鎖の結び目(ループ) 晴眼の剣で断ち切り
 最初から書かれてた結末を
 よくある話だねと、笑ってみせたのさ

天凪ぎて
呼ばしめん、勇士を
烏鷺(うろ)冴え冴えに、
夜光に翔(か)けて
苦土(くど)の鐘の音、
茫洋に消ゆ。

九頭竜屠(ほふ)られ五穀
野に青々たり
長月の白影が、
凱路を照らし
勲(いさおし) 今得たりと
夜見(よみ)の戯言

 新暦の勇士は、ふと考え
 その中の一本を選んで行ったそうな。

 “右に行けど幻想 左に行けども幻想
 真ん中を選んでもすべて結末は同じ
 ならば行きましょう、どうせ意味のない
 現世(うつしよ)の遊離にももう飽きました”

 ああなんて愚かなことをと、周りの人々は憂えた

 白い山河は嗤う、いつか見返すと
 幾多の流した汗血に 赤い聖十字(ロザリオ)は錆びて
 麦色の槍も折れました、
 もういいでしょう、十分楽しかったよ。


 所詮人の子だ、いつかは終わるだろう
 閉じ込めた宝物を、今開く時さ
 東西南北勇士たちの末路
 世界の中心は結局どこでしょう

 ああ、実によくある話だねえ

 よくある話だねえ・・・


 その昔、愚かな新暦の勇士は
 幻想の三叉路で望むものを得たそうな。

 自分の命を、神に差し出して
 墓碑銘にある言(こと)を加えて、歩み去ったそうな。

 よくよく耳にすればどこかで聞いたことのある話 そうこれは僕と君の物語です

 “いつか失われることは 悲しいことじゃない”
 僕は愚かだから、気づくのに千年かかったよ
 一人で往くと決めた日に
 閉ざした宝箱には、大事な言葉が入っていた

 “永遠”がこんなにも 儚いものだったなんて
 君がいたから、全部 かなしいほど愛しくなる
 青い幻想(ゆめ)は広がって、やがて世界を潤した
 なので彼を遣った神様も、
 それでいいかなと、笑ってみせたとさ

流浪(るろう)の時、
果てなむこの国に、
王侯楽土叶ひて、今
若月の麗しき夜、
終(つい)の夢の間で
ただ、君に言う


 “ありがとう、さよなら”

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

愚行致命士トリヴィアル -millenary ballade-

――――千年の夜明け

「100年バラード」のそのさらに番外編ともいえる未来のお話。
運命の忠告に逆らった勇士が、お決まり通りこの世から去ることになった日のお話。

ロシア民話の「三本の分かれ道」をモチーフに書きました。「トリヴィアル」とは「三本道」から来た、「つまらない、些細な」の意味。
今の世の中じゃ、つまらないと思われるような話。それでも彼は満足だった。

こっそり縦読みが隠されていたりします^^

閲覧数:108

投稿日:2013/07/28 22:26:37

文字数:1,199文字

カテゴリ:歌詞

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