!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
形あるものは、いずれなくなってしまう。それをあんな酷い状態で突きつけられて、竜二さんは変わってしまった。大切な人はいつかいなくなるのだと、残された私もそうして誰かの手で簡単に壊されてしまうのだと思い込んでしまった・・・ううん、正しく言えば違う。本当のことを理解していながらも、自分が制御できないところで暴走してしまったんだ。他人に壊されるぐらいなら、自分の手で壊してしまえばいいと。自分しか見えなくなればいいと。そしてきっとその果ては、自分が最期に見た人間であればいいとまで思ってしまったのだと思う。
私を可愛いと言いながら、その手で引きずり回す。人に見えるほど痣や傷ができるようなことはあまりなかったけれど、痛い思いもした。押入れに隠れても、屋根裏に隠れても、いつだって無駄で・・・引きずり出されては全身の骨が悲鳴を上げるほど、きつくきつく抱きしめられた。
怖かった。綺麗だった家が廃れていく。花瓶が割れて、飾られていた絵画が落とされて、カーテンが破かれて、電話線は切られて、竜二さんが変わっていく。触れられるのが怖かった。
どこにも逃げ場なんてなかった。竜二さんの顔を見て、逃げられるわけもなかった。だって、嫌な笑顔を浮かべるその顔に、時折とても辛そうな表情を浮かべるということを、私は知っていたから。これでもしも私まで竜二さんの傍からいなくなったら、きっと竜二さんは完全に壊れてしまう。そう思うと、逃げられるはずもなかった。助けを求めながら、私は竜二さんの傍にいようとしてた。
『リツ・・・リツ、律・・・』
うわ言のように耳元で何度も何度も囁かれる。涙が頬を伝って、痺れるような痛みに唇を噛んで耐えた。竜二さんに比べればとても小さな私の身体は、その腕に締め付けられて悲鳴を上げる。私の必死の抵抗はと言えば、唇を噛むことと震えを止めること。痛みも苦しさも全部感じないふりをした。
『お前だけは、俺が――』
不穏な空気だけを感じさせる声が落ちる。
きっと私はこの人の手で逝くのだろう。毎日そう思っていた。この優しかったはずの腕で、強く強く締め付けられながら逝くのだろう、と。そして最期にこの目に映るのは、この人なのだろう、と。
夜眠る時、このままきっと死ぬんだろうと思いながら眠り、朝目を覚ますたびにまた同じ恐怖を味わうのかと身震いした。逃げたい衝動と、けれど竜二さんを放っておけないという感情。
親はどこにいたって親で、私はどこにいたってこの人の娘。それに、逃げたとしても、きっとまた見つかる。竜二さんは全てお見通しだと知っているから。
本当なら私は、お父さんも竜二さんも・・・ずっと信じているべきだった。信じてじっと耐えていたら、いつか元に戻ってくれたかもしれないのに・・・私は途中で逃げ出したんだ。竜二さんを暗い場所へ追いやって、司くんと幸せに暮らすことを選んでしまった。忘れられるはずがないことだったのに、忘れてしまった。
誰よりも、大好きだったのに。
「沈められていた僕がすぐに代わっていれば、律に危害を加えるなんてことはなかった」
ふと手に触れた温かな感覚に、私はいつの間にか自分の世界に入り込んでいたことを知った。視線を上げたところにはお父さんが申し訳なさそうな顔で笑っている。それは、酷く後悔している表情。私だって同じように後悔してるのに、どうしてお父さんと竜二さんを置いていったんだろうってずっと思ってるのに。
「で、でも・・・私、そんなに痛い思いは・・・っ」
「させたはずだよ。小さかった律には辛かったはずだ・・・精神的にも肉体的にも傷つけてしまった」
発せられた言葉に、思わず口を噤んだ。それがその言葉を認めることになるとわかっていても、どうしても言葉を飲み込むしかなかった。
「・・・竜一さんにも、その時の記憶があるんですね?」
聞こえたカイトの声は、いつになく私の体を跳ねさせる。そこには痛いぐらいの敵意と共に、確かな怒気が込められていた。悪いのはお父さんじゃないと言っても、聞いてくれないだろうと思えるほど。
一度口を引き結んだお父さんは、静かに小さく口を開いた。
「そうだ。君が思っている通り、僕がやったことで間違いないよ」
重たい沈黙。ぞっとするほどの冷たい空気。
このままだと、お父さんと竜二さんはカイトに憎まれたままになってしまう。嫌だ、と思った時には、言葉が喉をついて出ていた。
「ちがっ・・・違うの、カイトさん! お父さんも竜二さんも悪くないのっ! 悪いのはっ」
「わかってるよ、マスター」
穏やかなその声は驚くほど私を拍子抜けさせた。今までの敵意や怒気は一体何だったのだろうと思うほど、その名残すらない。
司くんとルカさんが安堵したような表情をしていて、お父さんが苦笑している。
「ただ、俺たちが許しても自分が許さなければ意味がない。
あなたは・・・自分を許してないんでしょう?」
そんな言葉に、お父さんを見る。その目は真っ直ぐにカイトを捉えていて、強い意思を秘めた瞳だった。言葉がなくても、それはカイトに対する答え。
「・・・安心したよ。君みたいな人が隆司くんの他にいるなら大丈夫だね」
落ち着いた声が、優しく言葉を紡いでいく。それは気持ちを落ち着かせるような声だというのに、喉から悲鳴が出てきそうだった。
いつもなら気にならないはずなのに、刑事さんが息をつく小さな音が耳に障る。司くんは静かに目を伏せていて、ルカさんは少し悲しそうな表情。カイトは下唇を噛んでどこか悔しそうで。
「律を変えてしまったのは僕だから、もう一度やり直したいんだ」
「そんなこと・・・っ・・・」
続きそうな言葉は、その笑顔と優しく頭を撫でる手の温かさにかき消された。
傍にいて、なんて言えるわけがない。
ゆっくりと立ち上がるお父さんは何だか清々しい表情をしていて、本当に行ってしまうのだということが嫌でもわかった。
「すみません、お待たせして。もう大丈夫ですから」
息が止まってしまいそう。向けられた笑顔はとても優しくて、撫でてくれた手が離れていくのが寂しい。けれど、安心して行ってもらわなくちゃと思うと、笑顔を作るしかなかった。
ちゃんと笑えていたかはわからないけれど、お父さんが満足そうに笑ったから、きっと大丈夫だったと思う。
「いいのかい? 俺のことを気遣ってんなら・・・」
「いえ、構いません。律は強い子ですから」
刑事さんにそう言ったお父さんは、司くんやルカさん、そしてカイトに笑みを向けた。目を閉じて一つ深呼吸。
もうきっと何を言っても無駄だから、私は大人しく帰りを待つしかない・・・・・・これは、さよならじゃないんだ。
「カイトがいるから大丈夫ですよ」
「隆司さんもルカさんもいますしね」
笑い合って返答する二人に、ルカさんが「あらあら」と笑い、お父さんも安心したように目を細める。刑事さんに連れられて歩き出したお父さんの後姿が以前よりもどこか小さく見えるのは気のせいだろうか。それとも、それだけ私がお父さんに追いついたということだろうか。
司くんたちがお別れを言っている。
ああ、いつの間に玄関まで見送りに出たんだろう。
刑事さんがパトカーのドアを開けて、会釈してくれる。お父さんがそれを横切り乗り込む。
このまま行かせたくない。このままお父さんが行ってしまったら、私はきっといつまでも後悔する――そう思った瞬間、自分でも驚くほど大きな声が出た。
「お父さんっ!」
お父さんは振り返らない。今の言葉に、竜二さんの名前ものせたのをわかってくれただろうか。
言いたいことは山ほどあって、ありがとうもごめんなさいも、何一つ伝えていなかった。でも、時間は待ってくれないから、一つだけ・・・あの日言えなかった言葉を叫ぶんだ。怖くて何も言えなかったあの時とは違って、今なら言えるよ。
「行ってらっしゃい・・・!」
吹っ切ったような晴れやかな声に、空気が和らぐ。返事をする代わりに軽く手を挙げてパトカーに乗り込んだお父さんは、そのまま振り返ることもなく行ってしまった。
→ep.44
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