目を覚ました新入りカイトが違和感に気付いたのは起き上がった時である。妙に体が重くてだるい。まるで自分の物ではないかのようだと感じた。
ベッドから降りて立ち上がると違和感は明確に現れた。
「あれ?どうして…?!」
部屋はあの機械だらけの恐怖の部屋ではなく、最初に見た少し散らかった極ありふれたマスターの部屋だった。床に足をつけたカイトはぴったりサイズだったはずのズボンの裾を踏みつけている事に気がついた。それだけではない、上着も全てぶかぶかになっている。その上自分の声さえ普段の声より高くなっている。カイトは驚き慌てて鏡を見た。
「キャーッ!」
鏡を見て驚いたカイトは思わず甲高い悲鳴を上げ、その甲高い自分の悲鳴に更に驚いて腰を抜かした。
「あ、あっ…」
もう声も出なくなって床に尻餅ついたまま震えるカイト。自分が自分の認識する自分ではなくなっている。カイトは恐怖と混乱ですっかり動けなくなっていた。
「どうした?!」
新入りカイトの悲鳴を聞いて部屋の奥から男が一人駆けつけた。
「なんだ、カイコ。どうした?」
「…カイコ?…僕はカイトです」
カイコと言われて少し不機嫌にカイトと名乗る新入りカイト。相手もどうやらカイトタイプらしく、髪や目や服の色は赤くて少しファンキーな装いだがカイトの面影を残している。
「ん?どうしたの?」
「あぁ、マスター。こいつが…」
赤いカイトの大声に何事かと駆けつけたマスターは赤いカイトと新入りを交互に見ながら騒ぎの訳を聞いた。
「なるほど、カイコは自分の姿を鏡で見てびっくりしちゃったんだね?なんだ、良くある話じゃないか。アカイトだって最初そうだったでしょ?」
赤いカイトはアカイトと言うらしい。マスターは「良くある事」と取り合わなかった。
「そんな、僕は男ですよ?!目が覚めたら女になってたなんて良くあっちゃ困ります!」
抗議する新入りは通常のカイトより一回り小さく、女体だった。どうやらマスターは既存の型から改造し、亜種を作っているらしい。亜種の見た目や名前は二次創作で有名な物ばかりだった。女体のカイコ、赤いアカイト、紳士のナイト、ヤンデレのタイト、某卑怯戦隊の隊長と仲間達。
「私の作った体は気に入らなかったか。ミクのボディじゃなくてメイコのボディ使えば良かったかな?」
「マスター、そう言う問題じゃないと思うぜ…」
マスターは少しずれた考えの持ち主らしい。さすがにカイコを哀れんだアカイトがマスターにつっこむがマスターには通じなかった。自慢のボディだが女性としてはやはり貧乳より爆乳の方が良かったかと既にカイコを男として見ていなかったからだ。
「マスターの、作った体…?」
置いて行かれ気味だったカイコが気になる事をようやく口にするとマスターは得意気に言った。
「あぁ、言ってなかったね。私は人形造師さ。アンドロイドのボディを作る技師だよ。魂のない人形造りさ」
マスターはどこか寂し気だった。
「(気をつけろ、この家で最も病んでるのはマスターだからな。逆らったりしたら命がいくつあっても足りん)」
アカイトはカイコにこっそり家での注意事項を話した。カイコはごくりとツバを飲み込み、勇気を持ってマスターに聞いてみた。
「マスター、マスターがこの体を作ったなら、僕の元の体は別にまだどこかにあると言う事ですか?」
一瞬間が空いて、アカイトは血の気が引くのを感じ、マスターはきょとんとした。
「…良い質問だ。素晴らしいよ、カイコちゃん。まぁ、答えだけ言っちゃうと『ある』だね。その顔も君の元の顔を模って整形した物だから、オリジナルはオリジナルで保存してある。見るかい?」
マスターは言うが早いかカイコを安置室へと連れて行った。
安置室―――
まるで秘密基地のような造りの家だとカイコは思った。和室の畳を上げると下に降りる穴と梯子。地下通路を進むといくつかの部屋があるようでドアが複数存在した。そのうちの一つを開けると中にはカイトの形をした標本がズラリと並んでいた。
「これは全部人形さ。魂がない。君の最初の体もこの中にある。探してご覧?」
マスターはカイコを試すように大量のカイトの標本を前に自分だった物を探すよう指示した。カイコは 慎重に自分だった物を探したがどれも同じに見える。当然だ、量産された物は型で作っている事が多く、どれも全く同じに出来てしまう。いくら自分が使っていた体とは言え壁にズラリと並べられた大量の標本から自分を見つけ出すなど出来るはずもない。しばらく探したがやはり見当もつかず、マスターに向き直って静かに首を横に振った。
「なるほど、見つからないと言う訳か。それは残念」
マスターはどこか満足そうに笑った。
カイコは自分の体を取り戻したくて仕方がなかった。自分は男だという認識があるのに体が女と言う矛盾に苛まれ、カイコは今性同一性障害状態になってしまっている。
イライラとしながらもアカイトの忠告を思い出して怒るに怒れないカイコであった。マスターが暴走しない方法で自分の体を取り戻すにはどうしたら良いかとカイコは考えた。
「マスターには僕の元の体がどれかわかるんですか?」
「ん?また変わった質問するね。そうだね、わかるよ。新品だけ並べられたんじゃさすがの私にもわからないかもしれない。だけど、君も含めオリジナル製品は全部中古だ。私は自分の手掛けた物は忘れないよ」
マスターは言いながらぐるりと標本を見渡してくすりと笑った。どうやら目星が付いたらしい。
「君には分からないだろう、人形造師の仕事ぶりなんて。それでも自分の作った物は分かってしまうんだよ。職人の性ってやつなんだろうね」
マスターは自嘲気味に笑った。カイコはもう何も言わなかった。
結局カイコは自分を取り戻す事もできず、何もしないまま地上に戻ってきてしまった。体が何処にあるかは分かったが、正確な物まではわからない。そして何より、例え正確な物を見つけ出せたとしてもその 体に戻るためにはもう一度マスターに体を入れ替えて貰う必要がある。マスターの協力なしに自分を取り戻す事は不可能なのだ。
まったく、どうしたものかと頭を悩ませながらカイコはカイコとして暮らすしかなかった。似たような境遇の亜種仲間達と共に、カイコの新しい生活が始まった。
合成亜種ボーカロイド2
『合成亜種ボーカロイド』の続編です!まだまだ続きます!(予定ですorz)
ブクマありがとうゴザイマス><
まだ完結してもいないのに次回作とか考えていたりする阿呆ですが、
『昼ドラ』・『ほのぼのテイスト』
で、頑張って書いていきたいなぁと思っております^^アレ?昼ドラとほのぼのって矛盾しているような?…゜゜;
気に入った場面や台詞、キャラ設定などありましたら一言頂けると嬉しいです。
どこが気に入ったか分かるとこちらもネタ詰まった時に書きやすく…(マテ
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