第一章 第四話 


「リンが・・リンがぁあああああ!!!」



―レンの叫び声で、俺の中ですべてが決まってしまった。



 もう二度と、この大事な人たちを傷つけたりしたくない。

 笑っていてほしい。


カイトは力強くこぶしを握った。





++++



「リン、大丈夫?」

「うん。まだ痛いけど・・・。さっきよりは平気だよ!」

「リン、明日は仕事休めよ?俺から言っとくから」

「え!?だめだよ!あたしが休んだら人が足りなくなっちゃう!」

「リンも分俺が働いてくる。だから大丈夫」

「レン・・・」




―これが、俺が君にできる最高の償いなのだから。


レンはそう心でつぶやいた。




「リン、しばらく寝ていなさい。傷に触るわ」

「えー」

「そうだよリン。もっと酷くなったらどうするの」

「・・・はぁーい」




ひょい、とリンをおんぶしてレンは寝室へ向かった。


その背中を眺めながら、メイコは顔をゆがませた。



(大丈夫よね・・・戦争が終われば、ちゃんと医師に診てもらえるわよね?)



いつ終わるかもわからない戦争の終結を考えながら、メイコは天を仰いだ。


「どうして、私たちなのよ・・・」


ぼそりとそう呟き、大きく息を吸ってからメイコは台所へ戻ろうとした。


しかし、その足がある声により止められる。



「めーちゃん」

「カイト・・?どうしたのよ」

「話が、あるんだ」




メイコは顔を青くした。





++++



「ねーレン」

「ん?」

「戦争は、いつ終わるの?」

「・・・わからないけど、きっとすぐだよ」

「どうしてわかるの?」

「うーん・・わかんないけど、きっとすぐに終わるよ」

「あたしね、戦争が終わったら、皆でどこか遠くに遊びに行きたい」

「そうだね、絶対に行こう」

「うん」




レンは布団に隠れているリンの右足辺りを見つめた。


―もう二度と、歩けないかもしれない。


メイコがレンの耳元でつぶやいた言葉。


事実、リンは立つことさえできない。


医者にも見てもらえない。薬なんてない。


そんな状況で、あんなに酷いやけどが治るわけがない。

レンはぎゅ、と力強く目をつぶった。




そんなとき、先ほどまでいた居間から、メイコの声が聞こえてきた。



『いやっ!絶対にいやよ!』



メイコの声は、震えていた。


「おねーちゃん・・・どうしたのかな?」

「俺行ってくるよ」



レンは少しだけ頬笑み、寝室を後にした。



+++

「落ち着いてめーちゃん」

「落ち着けるわけないでしょう!?いやよ!絶対に許さないわ!」

「ちょ、めーこ姉、カイト兄・・どうしたのさ」

「レ、レン・・・」



レンを見た瞬間、二人は黙りこんでしまった。

リンがあんなけがをした後、こんな話はできない、と判断したのだろう。



「なんでもないわ。レンも今日は疲れたでしょう?寝なさい」

「え?それでも・・」

「大丈夫、明日の仕事の話で少しもめただけだよ」

「・・・そう」



絶対にそんな話でもめるはずがない。

と分かっていたが、レンはあえて何も言わず寝室に戻った。



胸の中で疼く黒い感情を押し殺しながら。




「・・・カイト、できるだけ寝室から離れたところで話しましょう」

「わかった」



二人はただ無言で居間を後にした。




++++


「レン、なんだったの?」

「大丈夫、珍しくカイト兄がバカしちゃったらしくてさ、ねーさんが怒ってたんだ」

「そっかぁ」



―リンもたぶん気づいている。

 それでもあえて何も言わないんだ。


レンは作り笑いを浮かべて、「俺も寝る」と言って隣の布団に倒れこんだ。


―あぁ、全部うそならいいのになぁ。

そんな事を考えながら。




+++


「カイト、本気なの?」

「本気だよ、冗談で言えることじゃない」

「・・・・私は、行ってほしくないわ・・」

「拒否権はあるよ。俺はこの家の大黒柱だし・・。レンはまだ幼いしね」

「それなら!」

「でも、それは君たちを守れるのは僕だけって意味なんだ」

「カイト・・・」

「それなら、早く君たちに笑って生活してほしいんだ」



カイトはにこりをほほ笑んだ。

メイコの目には涙が浮かんでいる。

そんなメイコを優しく抱きしめながらカイトはつぶやく。



「大丈夫、俺は死なない。きっと帰ってくるよ」

「ひっくっ・・で、でも・・がくぽだって」

「がくぽだって、行方不明なだけで、生きているかもしれないじゃないか」

「そ・・それでも」

「めーちゃん、俺めーちゃんのことすっごい愛してるよ」

「そんなの・・私だって愛してるわよ」

「リンも、レンも愛してる」

「うっ・・ひっく」

「だから、俺が守りたいんだ」



メイコはそれ以上何も言えなかった。


彼はもう決意してしまったのだ、もう誰も止められない。





メイコは静かに目を閉じた。



幸せな未来を願いながら。

隣で、彼が笑ってくれる日を願いながら。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【オリジナル小説】Il cielo che funziona~走る空~【act1.case4】

なんとか4話・・・!
くそぉおおお!この先が思い浮かばない!((

閲覧数:236

投稿日:2010/07/10 14:27:02

文字数:2,151文字

カテゴリ:小説

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