1、鏡音レン



「俺をさ、甘く見てると痛い目見るよ……?」





舌なめずりをして言ってみた。
リンの顔が青ざめてる。
こうやってリンと向かい合うのは久しぶりだった。
よく見ると、リンは俺とは違った。
俺のかたい体じゃなくて、リンはやわらかく丸くなっていた。
今、俺に抗おうとするリンの両腕だって余裕で俺は阻止することができる。
昔は、リンのほうが強かった。
いつから、こうなってしまったのだろうか。
「レン……………。」
恐怖に渦巻いた唇から出るのは泡のような俺の名前。
俺はリンの両腕から手を離す。
そして
「あははは!リンのバカ!アホ!…………もしかして信じてた??………うわ!本当のバカだ!!!」
俺は気づきゃ笑っていた。
リンがぽかんと口を開ける。
「いやさ、カイト兄だって男だろ?こう言ってリンを襲うかもしれないから注意しろよと思って言ったんだけどな。まさか、そんなに信じるとは思わなくてさ…!ゴメン。」
そんな嘘まで口から出ていた。
もちろん嘘だ。
本当は、このまま襲ってもよかった。
アイツのものになるくらいなら、その前にリンを汚して二度とアイツに会えなくしてしまえばいいと思った。
「レン…………。」
「何?」
その瞬間、リンの右手が俺の左ほほを思い切りたたきつけた。
思春期男子並みの力で叩きつけてきたため、俺はそのまま倒れこんで床にたたきつけられた。
そして、俺を見降ろすような姿勢のまま、俺に聞いてきた。
「レン。最近、おかしいよ。どうしたの?昔はこんなことしなかったのに。ねえ、何で?」
あなたが好きだからです。
そして思春期だからです。
「それに…………、カイト兄はレンみたいなことしない。カイト兄は紳士だもん!レンみたいに嘘でも襲ったりしない。」
厳しい視線を俺に向けたまま、部屋を出て行った。
いつから、こんな壁ができていたのだろう。
ベルリンの壁級の壁と言ってもおかしくないくらいの壁ができていたのか?
いや、違う。
生まれた時からもうできていたんだ。
成長という大きな壁が。
「はあ、俺どうしてあんなこと……。」
昔は良かった。
本当に仲が良くて、いつも一緒で、いつも隣にいて。
よく似てるからよく入れ替わって。
でも、今は
「入れ替わりなんて、もう、できねえよな。」
もう、リンとは違う。
成長しなきゃいいんだ。
いつまでも、あの時の俺らでいたかった。
でも、そんな願いがかなうことがないなんて、十分分かってる。
「レン。」
誰かが俺を呼ぶ。
振り向くと
「カイト兄…………………。」
カイト兄はいま、夏用の薄い青のストールと(なぜか兄は夏でも首に何かを巻く。熱くないのか?)
春秋用のちょっと薄い青マフラーを持っている。
「ちょっと、相談があるんだ。今日、リンとデートなんだけど、どっちつけていけばいいかな?」
笑顔でさらりと質問されても、今はあまり答える気になれない。(特にお前の場合)
「さあ、今日の気温知らねえから分からねえよ。メイコ姉とかに聞いたら?」
「めーちゃんは、今日からミク達と仕事でいないんだよ。ルカも朝から仕事で…。頼むよ…。」
恋敵が困ってる所は結構いい気分だが、頼みこまれると、仕方ないなあって思わせちゃうのはこいつの特権だろ。
「仕方ないなあ。」
きっとリンもそこが好きなんだ。
『仕方ないなあ。』
いつも、こいつを見て、傍にいて、いつも一緒にいて。
俺とつないでた手を、パッて放して。
「まあ、今日の気温見ないと話になんねえ。気温見て来いよ。」
「今日の気温は、20度だって。」
「じゃあ、春秋用のでいいと思う。」
「そう?じゃあ、それにする。」
そう言って、部屋から出て行った。
笑顔で見送った後、俺は床に座り込んだ。
「本当、バカだよな。俺………。」
俺はただ、ひとりぼっちの部屋の中で、自分を、自嘲する。
「最低だな。俺って。」
………………………………………本当に俺ってヘタレだな。
ピロリン♪ピロリン♪
携帯が鳴った。
電話だ。
誰からだろう?
俺は携帯を開く。
「もしもし、メイコ姉。」
相手はメイコ姉だった。
『あ、レン?アンタ、今日リンデートでしょ?いいの?行かせちゃって。』
メイコ姉はどうやら心配してくれてるようだ。
心遣いはありがたい。
だけど
「うん。リン、幸せそうだったし……。リンが幸せなら、それでいいよ……。もう」
この恋は終わりにする。
『いいの?あんなに想ってたのに。アンタ、正気?』
電話の向こうからメイコ姉の焦ったような声が聞こえる。
「いいんだ。リンの笑顔が一番だから。」
そんな、本心にもないような事言ってる俺は
本当に、ヘタレだな。
「それじゃあ、また。仕事頑張って。」
『あ!ちょっと待ちな……!!』
ツーツーツー。
メイコ姉の言葉を遮るように電話を切った。
そして、俺は携帯の電源を切った。




「さよなら、大好きなリン。」




もう、これでおしまいさ。
この恋を終わらせて、リンを幸せにする。
もがく俺に残された最後にできること。
覚悟はできている。
今から、リンは
”俺の姉”だ。

2,初音ミク

「ミク、アンタ、レンに告白したの返事帰ってきた?」
レン君との電話を終えてホテルの部屋に帰ってきたメイコ姉が聞いてきた。
「ううん。貰ってない。でも、たぶん、ふられるし、貰って、傷つくなら貰わない方がいい。」
そう、口が言うのに、でも、心の底では、もしかしたら、振り向いてくれるんじゃないかって期待しちゃうの。
そんなはずないのに。
レン君はリンちゃんが好きなのに。
「レンがね、リンを想うのやめるって。」
え……?
「もう、嫌になったのかな?まあ、他の男になる女が笑顔になるために身を引くとか本当、アイツヘタレよね。バカみたい。奪っちゃえばいいのに、できないのよね~。」
何で?レンくん。
あんなに好きだったのに、リンちゃんの事。
「ミク、チャンスじゃない?」
メイコ姉が私に向けて怪しげな笑みを見せる。
本当だったら、チャンスのはずなのに、でも、どうして?
なんか、辛いの。
心が痛いの。

3、鏡音レン

「おい!カイト!」
俺はメイコ姉との電話を終えた後、覚悟を決めた。
玄関で靴を履こうとしてる兄を呼びつける。
「あれ?レン君が僕を呼び捨てにするなんて、珍しいね。どうしたの?リンなら一応、駅前で集合だから今いないけど。」
カイトが動きを止める。
そして、俺を真正面から見つめる。
「何かあったの?」
俺にほほ笑みかける。
「リンを……」
「リン?」
きょとんとした顔で俺を見る。
これを言ったら、もう戻れない。
「リンを、本当に幸せにしてくれるんだよな?お前は!リンの笑顔を守ってくれるんだよな!?」
ちょっと、大きかったかなってぐらいの声で言った。
驚いた顔で俺を見ていたカイトは、やがて首を縦にコクンとふった。
「約束する。僕はリンをきっと幸せにする。レンのためにもね。」
優しい顔ではっきりと言われた。
よかったな、リン。
「よろしく頼む!」
俺は頭を下げた。
「レン………。」
カイトは頭を下げっぱなしの俺の頭を優しくなでてくれた。
「レン、ありがとう。」
俺は満面の笑顔で、カイトを、見送る。
「行ってらっしゃい!カイト兄!」
「うん!行ってくるよ!」
そう言って愛用の自転車に乗ってリンのもとへと向かう。
カイト兄が見えなくなった。
俺は家の中へ戻る。
そして
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
涙は枯れ尽きた。

4、鏡音リン

私はいま、最高に幸せなのかもしれない。
デートはものすごく楽しいし、
笑いあってることはとてもうれしいし。
でも、ひとつ気がかりなのは、今朝のレンの行動。
『俺をさ、甘く見てると痛い目見るよ……?』
レンが別の男の人に見えた。
どうして?
何で?
レンの事がこんなに気になるの?
私はカイト兄の事が好きなのに。
どうして???
「リン、どうしたの?」
気づけばカイト兄が、私にアイスを差し出してくれてる。
「あ、ありがとう。」
「どうしたの?ボーとして。」
「ううん。ちょっと考え事、ごめんね。アイスありがとう。頂きます。」
パクッと一口。
あ、これ、バナナ味だ。
バナナか、レン、バナナ好きだよね。
てか、この遊園地、いつも、レンと一緒に来てた遊園地だ。
他の誰かと来たのは初めてだ。
しかも、このアイス、レンがここに来るたび買っていたアイスだ。
『ここのアイスはマジでうめぇんだよな~。』
よくそう言っては食べていた。
夏でも、冬でも。
年がら年中。
それだけ、いつも一緒にいたんだ、私たち。
……………………………しょっぱい。
気づけば涙が一筋、右目から流れていた。
それが私の口にまで、来ていて、しょっぱい涙の味がした。
「え?リン!どうしたの?おいしくなかった?」
カイト兄があわててる。
「ち……違うの…………!!ただ………、これ見てたら、レンこれ好きだったなと思って。そしたら……涙が出てきちゃったの。本当!それだけだから!気にしないで!」
涙を拭きながら、答える。
涙は、一筋だけだった。
カイト兄が優しく微笑む。
「そう、じゃあ、今度はレンとこようか。それにめーちゃんやミク、ルカも一緒に。ね?」
「うん!!!」
今度はレンにもこれを食べさせてあげたいの。
「じゃあ、食べおわったら、あのジェットコースター乗ろう。ちょうど今空いてるみたいだし、早くいかないとまた混んでくるから。」
「うん!」
これは本当の気持ち。

5、初音ミク

ピロリン♪ピロリン♪
「あ、電話だ。」
誰だろう?
「あ、」
掛けてきたのはレン君だった。
「もしもし、レンくん?」
『あ、ミク姉、いや……………ミク。』
え??
「レン………くん……?」
いきなり名前で呼ばれた。
『ゴメン、きっと、リンへの気持ちは恋じゃなかったんだ。そうじゃなきゃ、こんな簡単に諦められない。気づいたんだ。』
……………………レンくん?
『ミク、こないだの告白、喜んで、受けるよ。』
え………??
なぜ?
素直に喜べない。

6、鏡音レン

「そういうことだから、じゃあ、続きはまた帰ってきたら。」
『え?ちょっ!!』
ツーツーツー
メイコ姉の時と同じように乱暴に通話を切った。
電源もついでに切った。
これでよかったんだ。
俺に恋人ができたら、リンは俺じゃなくてカイト兄をまっすぐに見ることができる。
ミク姉の事、結構好きだし、これでいいんだよな。
「ごめんね、ミク姉。」
今は、キミの事恋愛対象として好きじゃない。
本当に好きな人は、さっき封印した恋心にそっと眠らせたから。
絶対、ミク姉の事好きになるから。

7、鏡音リン

「あー!楽しかった!カイト兄!次!行こう!観覧車でも!」
ここの遊園地の目玉のジェットコースターに乗って、テンション上げ上げの私に頑張ってついてくるカイト兄。
どうやらかなり疲れたようだ。
「あ……、ゴメン…。どこか、休もうか。」
「いいよ、リン、今、”楽しい”んでしょ?」
優しい顔でカイト兄は言う。
でも、絶対無理してる。
「カイト兄、本当に無理しなくていいよ…。」
「え?無理?してない、してない。楽しいからいいんだよ。さあ、行こう。観覧車でしょ?」
ああ、本当、カイト兄は優しいな。
「うん!」
私たちは観覧車へ向けて歩き出した。

8、初音ミク

「………………………………………ミク?アンタどうしたの?さっきからおかしいわよ。」
メイコ姉が声をかけてくるが私は無視。
確かに、ずっと俯いて座ってる私を見たら心配する気持ちも分かる。
でも、返事を返すような余裕はいまの私には無い。
レンくん。
どうして、リンちゃんじゃなくて私を選んだのか。
その理由が聞きたい。
「アンタ、もしかしてレンに振られたの?」
メイコ姉がまた聞いてきた。
「ううん、その逆。OKだって。」
メイコ姉の顔がぱあっと明るくなったような気がした。
「よかったじゃない!アンタ!レンと付き合えるなんて!」
メイコ姉が私の体を思い切り揺さぶる。
「その逆だよ!!」
私はメイコ姉を両手で突き飛ばす。
「レンくん、リンちゃんのこと本当に好きで、リンちゃんを第一に考えてたの。でも、私を選んだの。」
「いいじゃない。気が変わったんでしょ?」
メイコ姉が口をはさむ。
「違う!レン君のリンちゃんに対する想いは、こんなことで消えるようなものじゃなかった!何で!レン君は私を選んだの?」
メイコ姉は言葉を返せないようだ。
少しの沈黙。
「あのね、ミク。」
そう言って、私の両肩をしっかり持つと真正面から真剣な表情で言った。
「レンの、リンへの想いがいくら強くても、リンの思い人はカイトなのよ。レンもそれに気付いたのよ。」
メイコ姉は続ける。
「これを機会に、ミクと付き合って、新しい恋、しようとしてるんじゃないの?いいじゃない、好きじゃ無かったってところから始まったって!本当に好きになってもらえるようにミクも努力すればいいのよ!ね?」
本当に好きになってもらえるように…。
「うん…。そうだね!私頑張るよ。」
笑顔を見せると、メイコ姉が安心したように笑った。
「じゃ、早く帰りましょ。レン、待ってるんでしょ?」
「うん!そうだね!」
早く帰りたい。
それで、一秒でも早く私の事本当に好きになってもらいたい。
レンくん。
大好き。
     <デート編、後編に続く>
(お詫び、ピクシブでは6000文字以上入力できるのですが、ここはできないのですごく不自然な形です。続きはデート編の後編へ行ってください。余った部分だけ載せてます。)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

鏡の中のお姫様(プリンセス)★デート編 前編★

この前の前編→http://piapro.jp/t/KTD7の続きです。結構衝撃の展開だと思います。お詫び:ピクシブではデート編の後編は存在しませんが、ここでは字数オーバーとなってしまったので、後編をうpしました。すみませんが、そちらもよろしくです。メッセージお待ちしてます。

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閲覧数:848

投稿日:2011/05/02 16:42:44

文字数:5,630文字

カテゴリ:小説

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