●テトさん兄妹に相談

御茶ノ水の駅前のショッピングセンター「らら」にある、「ボイス・カフェ」。
ここで楽しそうに話しこんでいるお客。
ちょっと個性的な3人だ。

いちど見ると忘れられない、不思議な、でもやさしそうな雰囲気の人は、湯栗(ゆくり)さん。デザイナーだ。
席の向かいに座っているのは、テトさんとテッドさん。2人ともクリエイターで、双子の兄妹だ。

「そうですか、この春あそこを卒業されて...」
「そうなんですよー。今度、店を開くんですよー」
のんびりした口調で、ゆくりさんが言う。

「なんといってもー、テトさんはお店の経営者の大先輩ですからー。今後、いろいろ教えていただければ、幸せですー」
ゆくりさんの言葉に、テトさんはやさしく微笑む。


●カフェのマスコット・キャラクター

ゆくりさんは、この春、デザイナー支援施設「ニコビレ」を卒業し、
小さいながら、自分の店を持とうとしている。
今日はその相談で、テトさんたちと会っていた。
3人とも小物やキャラクター雑貨が好きなので、ひとしきり話に花が咲いた。

と、突然、ゆくりさんが目を丸くして声を上げた。
「あらー。この絵は、アザラシの“ぱらちゃん”ねー」
テーブルの上のトレイに描かれた、かわいいアザラシの絵を見て彼女は言う。

「ぱらちゃん?」
テトさんに向かって、彼女は続けた。
「ええ。これ、ニコビレにいる、マコさんがデザインしたんですよー」
「へぇ、マコさんが?」
テッドさんは感心した。

「ふぅん、よくできた、かわいいキャラですね。このカフェのマスコットかな」
「そうですねー。このお店の、ホラ、あの方が」
ゆくりさんはそう言うと、店の隅の女性を見やった。
「あの人、ここの店長なんですけど、この前、ニコビレを訪ねてきたんですよー」

「で、マコさんがデザインに取り組んでたんですよ。もう完成して、使われてるのねー。ヨカッタ、ヨカッタ!」
彼女はトレイをしげしげと眺めた。


●チェック厳しい?

「あー、あの人!」
黙って聞いていたテッドさんが、とつぜん口を開いた。
「たしか、房よみ子さん、っていうんですよ」
「ぼうよみこ?あれ、兄貴、知り合い?」
テトさんは不思議そうに、兄を見た。

「ううん、こないだ、このカフェに寄った時、たまたま名札を見たんだよ」
テッドさんは笑って答えた。
「あらー」
ゆくりさんはイタズラっぽく、テトさんに言った。
「あなたのお兄さん、けっこう、チェック厳しいんですねー」
「いやいや、そんなこと無いですよ」

アッケラカンとした兄の態度に、テトさんは顔が赤くなった。
彼女は言った。
「うむ。あたしもぜひ、オリジナルのキャラクターをデザインしよう」
「あらー、いいですねー」
ゆくりさんは微笑んだ。

テトさんはうなずいて言った。
「よくできた、この兄をデザインして。アホキャラを!」(`ε´)

ライセンス

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玩具屋カイくんの販売日誌 (102) ゆくりさんも店を出す

◎何気ない一言が、きょうだいには結構、恥しいときもあるのですネ。

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投稿日:2011/05/01 20:27:44

文字数:1,207文字

カテゴリ:小説

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