少しだけ切ない話をしよう。

あなたのおはようとおやすみが電話越しではなくなったこと。
綺麗な月をゆっくりとふたりでみていられること。
お互いの髪から同じシャンプーの香りがすること。

特別だったそれらがすべて、当たり前になってしまったこと。


おかしいな。昔はもっと、いつも君のことを考えていたはずなのに。
君の笑顔や声や体温を、思い出しては恋しくなっていたはずなのに。
毎日毎日、あなたと会う日の会話を考えていた私はどこに行ったのか。

きらきらと輝いた感情が溢れかえって、零れ落ちてしまった日があった。
向き合うことに恐れて逃げた弱い心に、ほんの数秒で花が咲いた日があった。
あの日々の私の表情はいつだって落ち着きがなかったけれど、
波打つ心臓の早さはすべて、あなただけのものだったよ。


携帯に二人の写真が増えたね。ぎこちない距離間で写された写真は、いつのものだっけ。
あなたが時々数本の花を買ってきてくれるから、テレビの横には花瓶のスペースが出来たね。

ああ、私があなたと共有した時間は、あなたが私と過ごした時間なんだね。
思い返せば忘れかけているような過去の日も、私たちはきっと、手を繋いでいた。



少しだけな贅沢な話をしよう。

あなたの前髪の寝ぐせを可愛いと思うようになったこと。
約束をしなくてもあなたと今日を過ごせていること。
手を伸ばせばいつでもお互いの体温を感じられること。

当たり前となった風景は、昔は当たり前ではなかったこと。


ありがとう。私の冷えた右手に、あなたの左手の体温を分けてくれて。
あなたのことを考えている意識もなくなるほど、私の中に溶け込んでくれて。
今日の夜も、あなたの優しい鼓動と寝息を聴きながら眠りにつくよ。

あのころの私たちにはどうしても戻れないから、とても懐かしく感じるね。
理想と現実で違いはあるけれど、あなたが傍に居てくれるのならば、それが一番いいな。
傷つけることや傷つけられることに恐れている日々は今も変わらないけれど、
それでも私の隣が一番、あなたが安心する場所だといい。


十年後や二十年後、私たちは何を話すのかな。少しくらいなら皺が増えていても許せるよ。
あなたがおいしいと言ってくれた最初の手料理は、今でも味付けを変えていないの。

ああ、お互いの指に嵌め合ったプラチナの指輪は、もう大分傷ついてしまったね。
細かな傷は私とあなたが共に重ねた人生なのだと思うと、なんだかとても愛おしい。


戻れない日々に感じた切なさは、きっと間違いではないけれど。
それを懐かしさに感じるのは、それ以上に愛おしく、暖かい毎日を知っているからね。

いつもありがとう。
私はとても幸せです。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【曲募集】当たり前の幸福

昨日も今日も明日も、一番大切な人が傍に居る当たり前の優しい日々。

使用キャラクターは特にこだわりはありませんので、もしも曲を付けてくださると言う方は、タグは気にせず選んでいただけたらと思います。
必要に応じて歌詞の加筆修正致しますので、お声かけください。

閲覧数:73

投稿日:2019/03/10 22:25:58

文字数:1,131文字

カテゴリ:歌詞

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