こんにちは!高橋一大です。
誰もいなくなった真白な部屋の片隅で、小さな小鍋を火にかけている想像をすることがあります。鍋の中で溶けていくのは、どこかの空から落ちてきた固い星の結晶です。フツフツと泡を立てながら甘い匂いを放つそれは、やがてドロリとした濃い紫色へと姿を変えていきます。
私たちが毎日見上げている空の向こうには、誰も触れることのできない冷たい静寂が広がっています。けれど、その果てしない静けさの欠片をそっとかき集めて、小さな火で煮詰めてみたらどうなるでしょう。きっと、喉を焼き切るほどに甘くて、ほんの少しだけ苦い、特別な毒薬のようなものが完成するはずです。
日常の中でカメラを構えていると、時々世界がピタリと動きを止める瞬間があります。光と影が交差し、いつも見ている景色が全く別の意味を持ち始める瞬間です。それはまるで、沸騰した甘い液体から立ち上る湯気の中に、見たこともない幻影が浮かび上がってくる感覚に似ています。
たとえば、使い古された銀色のスプーンを太陽にかざしたとき、その曲面に映り込む歪んだ世界をじっと覗き込んでみてください。自分の顔も、背景の街並みも、すべてがぐにゃりと曲がって新しい形に生まれ変わります。正しくて綺麗なものだけが美しいわけではありません。歪んでしまったものや、溶け崩れてしまった形の中にこそ、人の心を惹きつけて離さない妖しい魅力が潜んでいるのです。
言葉にできない寂しさや、理由のない不安。そうした胸の奥に澱のように溜まっている感情を、鍋の中にひとつずつ投げ込んでいく。そして、光の粒と一緒にじっくりと煮詰め、ひとしずくの鮮やかな物語へと仕立て上げていくこと。それが、私にとっての表現であり、世界とつながるための唯一の方法なのかもしれません。
冷えて固まった甘い記憶は、やがて結晶となり、誰かの夜をひっそりと照らす光になります。どれほど深く沈んだ場所であっても、そこには必ず小さな煌めきが隠されています。その輝きを見逃さずにすくい上げることができたなら、世界は今よりも少しだけ美しく見えるはずです。
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