灰色の丘で、ひとり    -名刺裏千年祭①

  丘の上には、墓標があった。風雨に晒され、朽ちかけた、ぼろぼろのかたまり。遠目には苔生した
 塚のような墓石のようなそれは、しかしそれだけではなかった。 

  キィ。……キィ。…………。

  風鳴りのような、錆の擦れるような、軋んだ音がする。何だろうと耳をそばだてても聞き取れず、
 けれど気の所為かと行き過ぎようとすればまた耳につく。途切れ途切れの、微かな微かな。
  ――それは、歌だった。或いは、歌の残骸だった。

  『ぼろぼろのかたまり』の一部となって、ひとりの青年が歌っていた。砂礫の大地に脚を投げ出し、
 崩れかけた墓標に背を預けて、寄り添って。ぴくりとも動かず、オブジェと見紛うばかりになりながら、
 時折ふと思い出したように歌う。
  ……否。彼自身は、ずっと歌っていた。途切れることなく、主の遺した歌を捧げ続けていた。

  歌う人型は、もう動かない。銀の歯車は小さく軋み、終焉を迎えつつある。彼は最早まばたきもせず、
 ガラスの瞳に空を映す。映すばかりで、見てはいない。ただ反射するだけのまやかし。……或いは。

  或いは、そこに空でなく。遠い日の影を、在りし日のまぼろしを、見ているだろうか。
  ごう、と強く風が吹いて、――擦れた歌が、止まった。


 * * * * *
 一番目の彼はボーカロイド。
 歌い奏でるのがその役割。
 すみれの丘で主と共に、
 すみれの丘の主の供に、
 ただただ歌い、捧ぐもの。
 * * * * *

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

千年を繋ぐ、彼らの話 -名刺裏千年祭

先頃ツイッターの一角を賑わせた『独奏歌の裏側(Togetterまとめ http://togetter.com/li/660891)』を元ネタに書いて、6/29開催のカイパラ2(ボーパラ番外編3)で配る名刺の裏にランダム記載したSS6本
……と、その全種を欲しいと言ってくださる方が予想外にいらして妙な方向に凝り性が炸裂した結果『本』になってしまい(名刺成分は消失しました)何故か書き下ろしも追加しちゃったテヘペロ☆←
……と、いうわけなSS+短文7本、あと設定箇条書きのオマケ付です。

Pixivには名刺裏SS本に使った画像をまるっと上げてますので、完成品の雰囲気で楽しみたい方はそちらをどうぞ←
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=44444927

 * * * * *

1本目は「名刺裏」ということでどれくらいの文章量にできるか確認しないと!と即興で書いたもの。
後に続くSSとあまりにそぐわないようなら葬り去るつもりでしたが、平気そうだったのでそのまま使用しましたw
ツイッターが千年さんTLと化した時、最初に脳内に湧いたイメージからのSSです。

閲覧数:950

投稿日:2014/07/03 23:15:29

文字数:670文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

もっと見る

クリップボードにコピーしました