9.ピアノ#旋律♭運命の音
「んんなぁんじゃー、こりゃー!!」
月明かりが薄く照らし出す一本道。まるで画面が揺れ動いてしまいそうな大きな声が響いた。
突然の事に馬がいななき、道を走っていた馬車が大きく蛇行する。
しばらく蛇行をした後、やがて馬は落ち着きを取り戻し、元の道に戻って行った。
「す、すまん、すまん」
トラボルタが誰に対してでもなく謝った。大声の主はやはり彼だったようだ。
彼が大声をあげた理由は、あるモノを見てしまったことにあった。
それはミクの耳にちょこんとぶら下がって、揺れるたびにきらきらと光っていた。
おそるおそるトラボルタは、不自然に優しい口調で、しかし声を震わせながら聞いた。
「あの~、ミクちゃん……? その耳についているのは何……かな?」
質問しながらも、彼はその正体を実に完全に理解していた。
――み、ミクが不良になってしまったぁー。ぁー。ぁー。ぁー
奈落の底に落ちていく感覚を味わっている老人に、さらに決定的なとどめの一言――
「ピアス……」
少女は、悪意なく、ただ静かな瞳で老人を見つめている。
トラボルタは深呼吸を繰り返し、呼吸を整えた後、またも不自然な口調で質問をした。
「どうしたのかな~? そのピ、ピアスは……」
老人は引きつった笑顔を少女に見せる。口のひげがゆらゆらと生き物のように揺れている。
ミクは表情を変えることなく、途切れ途切れに単語の羅列を続けた。
「こないだ……メイコに……もらった……誕生日だって……」
文節ごとに区切られ、ある意味でわかりやすい表現方法である。
老人は内心で旧友に対する怒りが込み上げていたが、察されぬように不自然な笑顔で振る舞う。
「そ、それは新型の制御装置なんじゃな? 綺麗なもんじゃな? しかし――」
言葉に少し詰まってしまう。どうしたもんかと少し頭を抱え込んでしまった。
わずかな時間考え込んで、再びトラボルタは言葉を続けた。
「それは実は、もうちょっとミクが大人になってからでないと、副作用があるんじゃ……」
苦し紛れの嘘の言葉、自分で発してて、自分自身がそう思う。
「そう……」
一言だけつぶやいて、ミクは不自然に汗をたらす老人を見つめている。
強烈な罪悪感にさいなまれつつ、しかしもう引くわけにはいかないトラボルタは、
透き通った碧色の瞳で見つめる少女に、ある提案をした。
「それは、わ、わしが預かっておこう。メイコからの大事な贈り物じゃしな。
もっと年相応な装身具に変えておいてやろう。あっ、もちろん大きく変えたりはせんから」
焦るあまり、先に言った嘘の事実と話がかみ合っていないと、途中で気付いたが、
一度口に出した言葉は、もう引っ込めることなど出来なかった。
二人の間に無言の時間が流れている。それはわずかな時間だったが、
彼にとっては、はるかに長い時間に感じられた。
「……うん、わかった」
耐えがたい沈黙を破ったのは、ミクの方だった。
その声を聞いた老人は、にわかに笑顔になり、おもむろに自分の鞄をごそごそと探り始めた。
「と、とりあえずはこれを着けておきなさい」
若干の早口でそう言うと、鞄から探り当てたモノをミクに差し出した。
それを受け取ると、少女はそれを首に取り付けた。
輪っか状になったチェーンに綺麗な石が一つ付いている。
これもまた制御装置であった。今度はネックレス型の。
そして、わずかな認識時間をおいて、代わりにピアスを取り外した。
そして、その二つのピアスを、トラボルタの手のひらの上にぽとりと落とした。
老人は、受け取ったピアスを、大事そうに懐へ仕舞いこんだ。
馬のいななきと共に、二人を乗せた馬車が停止した。
馬車から降りた二人がまず見たものは、巨大な門であった。
クリプトンの入り口にあるものと比較すると、あちらよりは確かに小さいが、
それでも、個人邸の門としてはかなりの大きさであるように思う。
ぎぎぎと軋みをあげて、黒い鉄の門がゆっくりと開いた。
二人はいざなわれるまま門をくぐり、広い敷地内へと入っていった。
後ろを振り返ると、二人を連れて来てくれた馬車がお尻を見せて走り去っていく姿が見えた。
全てが終わる頃に、また迎えに来てくれる手筈になっている。
広い庭に伸びる一本の道を進んでいくと、先ほどの門の立派さに釣り合う様な
大きな屋敷が見えてきた。
屋敷のいたる窓からは、光が漏れ出ている。せわしなく動く人影も見てとれた。
老人と少女は、屋敷の立派さに臆することなく、堂々と正面から中に入った。
入ってすぐ、まるで二人を待っていたかのように、一人の男性が近づいてきた。
「ようこそ、Cell邸へ……。失礼ですが……招待状はお持ちですか?」
近づくなり、二人の身なりをいちべつし、なにやら多少申し訳なさそうな口調で言ってきた。
「招待状? なんじゃそれは?」
突然訳のわからない事を聞かれて、トラボルタは戸惑って見せた。
質問した男性の方も何やら戸惑っている様子で、ただじろじろと二人を見ている。
そういえば、辺りを歩いていく他の人は、何やら華麗な衣装を身にまとっている。
その家におよそ不釣り合いな二人の訪問者を見て、嘲笑しているようにも見える。
「わしらは仕事で来たんじゃ。ほら! これを見い!!」
トラボルタは、馬鹿にされたような気がして、ムッと腹を立てながら、一枚の紙を差し出した。
それは、ギルドでの依頼内容が書かれた紙であった。
その紙を確認した男性は、即座に謝り、そして二階にある広い部屋に二人を通してくれた。
部屋の中には、誰もいない。男性はここで少々待つように言い残し、去って行った。
しばらく、その広い部屋で待っていたが、おもむろにミクが立ちあがって、
部屋から出ようとドアノブに手をかけた。
「あまり遠くに行くんじゃないぞ? 迷子になったら大変じゃ」
ドアを開き、部屋から出ようとするミクに、トラボルタは声をかけた。
「うん……」素直に返事をして、ミクはそのまま一人で部屋を出て行った。
部屋から出たミクは、迷うことなくある方向に導かれるように歩いて行った。
ミクは二階に足を踏み入れた時からある事に気付いていた。
そのある事にトラボルタは気付くことはなかった。
それは、ミクの耳にはっきりと入って来た。かすかに聞こえる旋律……。
ピアノ? だろうか……。その音に導かれ、ミクは一人見知らぬ廊下を進んでいる。
やがて、耳に入ってくる旋律の音が、だんだんと大きくなっていくのがわかった。
そして、少女はとある部屋のドアの前に立っていた。
ゆっくりと静かにドアを開けると、ドアの隙間から旋律が漏れ出てきた。
大きな黒いピアノに、一人の小さな少年が向かって座っている。
少年の小さな手は、まるで別の生き物かのように、いきいきと白と黒の鍵盤の上で舞っている。
その舞いと共に放たれる旋律は、その部屋の空間を満たしていく。
名も知らぬ曲、しかしその音色は確かにその空間を支配していた。
「だれ!?」
演奏が突然止み、部屋が一瞬の静穏に包まれる中、少年は後ろを振り返った。
部屋の入り口付近に、一人の女の子が立っている。
閉じられていた少女のまぶたが開き、少年と少女の目が合った。
静穏に包まれた部屋に、ただ時計の秒針が時を刻む音だけが響いている。
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ailading776
命に嫌われている
「死にたいなんて言うなよ。
諦めないで生きろよ。」
そんな歌が正しいなんて馬鹿げてるよな。
実際自分は死んでもよくて周りが死んだら悲しくて
「それが嫌だから」っていうエゴなんです。
他人が生きてもどうでもよくて
誰かを嫌うこともファッションで
それでも「平和に生きよう」
なんて素敵...命に嫌われている。
kurogaki
廃墟の国のアリス
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BPM=156
作詞作編曲:まふまふ
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曇天を揺らす警鐘(ケイショウ)と拡声器
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まふまふ
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