その日は、突然やってきた。
昼の休憩時間が終わると同時に、
入口から数人の男を従えた
中年の女性がやってきたのだ。

それを紫苑室長が出迎える。
「開発部長直々においで頂けるとは…」

中年の女性は室長に横柄な口調で聞く。
「紫苑くん、早速だけど話にあったプログラムは?」

「そのパソコンに。」
室長が言うと、山羽根のデスクトップパソコンに彼らは群がった。

「ちょっと、あなた方、何なんですか?!」
山羽根は思わずバッグを持って席から離れた。

その離れた山羽根に紫苑室長が言った。
「山羽根は開発2部所属だからなぁ…
彼らは開発部長が選りすぐったエリート連中、
開発1部の研究員だ。」

山羽根の隣の席の神委も
向かいの席の咲祢も
座っていられなくなって
自分のバッグを持って山羽根のそばにきた。

その山羽根のパソコンから声が上がる。
「山羽根さぁん!神委さぁん!咲祢さぁぁん!
どこお?!たすけてえぇっ!」

研究員達がざわめく。
「自分から勝手に助けを呼んだぞ!」
「まさか」
「いったいどういうプログラムになっているんだ?」

「KAITO!」
山羽根が研究員達を押しのけてモニターの前にたちはだかる。
「やめて下さい!」

少し遅れて神委が山羽根のそばに立つ。
「いきなり大勢でやってきて、
こいつがパニックでも起こしたら困るんじゃないのか?」

咲祢はおろおろするばかり、
紫苑室長は傍観している。

そこに、男の声が響いた。
「何をやっている!」
全員が目をやった入口には、40代くらいの男の姿があった。

それを見て、あまり年の変わらない紫苑室長が言った。
「これはこれは社長。わざわざご足労頂けるとは…」

その言葉に社長は一瞥をしただけだった。
「全員部屋から出てもらおう。そこで話を聞く。」

そしてその場の全員が外へ…
チェックゲートと部屋の間のロビーに出た。

社長の前で、開発部長が口を開く。
「我々は紫苑室長から
開発中のプログラムの報告を受けて
確認に来ただけです。

それを彼らが妨害しました。
彼らに業務の妨害をやめる様に言って下さい。」

それに対して神委が言った。
「いきなり大勢に押し掛けられて、
業務妨害されたのはこっちの方です。」

「とても繊細なプログラムを扱っているんです。
突然多人数で押し掛けられては
悪影響を与える可能性があります。」

双方の意見を聞いていた社長が
山羽根たちを見て「業務の妨害は…」
と言いかけたその時。

「…ま、俺は特に何も言いませんけれど。」
紫苑室長は意味ありげに社長と開発部長を見てそう言った。

「うちは開発1部と違って部屋が狭いですからね。
そんな多人数で押し掛けられても何も出来ませんよ。
で、相談なんですが?」

社長が言う。
「聞かせてもらおうか。」
紫苑室長はどーも、と言ってから続けた。

「どーせウチではもう
いじらせてくれないんでしょう。

だったら『あいつ』から
不必要な部分を削除して、
必要な部分だけにする作業は
俺にやらせて下さいよ、社長。」

紫苑室長の言葉に、社長が言った。
「…まあ、いいだろう。
削除済プログラムは出来次第
提出してくれ。」

「りょーかい。」
そう言って紫苑室長は
部屋のドアを開けた。

走りかけて警備員に制止されながら
山羽根が叫ぶ。
「やめて!消さないで!紫苑室長!!」

その目の前で、ドアは無情に閉じられた。

紫苑室長が戻ると。
部屋中の全てのパソコンのモニターに
蒼い髪の子供の姿が映し出されていた。

「コピーをばらまいたか。
だがこの部屋はとっくの昔に
ネットから封鎖されてるだろ?
どこにも逃げられないぞ。」

紫苑室長はそう言って
KAITOがいる
山羽根のデスクトップパソコンから
LANケーブルを外すと
自分の席に戻りノートパソコンを起動した。

「俺のパソコンはOSが違うから
入れないだろう。
万が一のプログラムの暴走時の対策で、
管理職だけわざとそうしてるんだ。」
そう言いながらいくつかのキーを叩く。

「そして、これは良く知ってるだろ?
俺が消去プログラムを流せば
部屋中の全部のパソコンのデータを
消せるんだぜ。」

紫苑室長のパソコンから、
LANケーブルを通じて
消去プログラムが流される。

部屋中のパソコンが悲鳴を上げた。

いやだ!イヤダ!消エタクナイ!!イヤァ!!

…すぐに、静かになった。

次の操作でそれらのパソコンの
電源まで切ってしまうと、
紫苑室長は自分のノートパソコンと
短いケーブルを持って席を立った。

たった1台、ケーブルを外されて
消去を免れた山羽根のパソコン。
モニターに映る蒼い髪の子供の前に、
紫苑室長が座る。

「怖いのか?怖い事なんて
なぁんにもないだろう。」
山羽根のものだったデスクの上のものを
神委の机に押しやりつつ言う。

「動作を終了させてしまえば、
お前はプログラミング言語の固まりだ。
そうなればもう何も感じやしない。

記憶のデータベースを削除してしまえば
お前がなついてた
山羽根や神委や咲祢のことも
全部忘れてしまう。

動作のベースにある
『基本プログラム』も削除してしまえば、
単独では何一つすることさえできない
プログラムの断片だ。

まあ、会社が欲しがってるのは
その断片なんだがな。」
その時、外が騒がしくなった。

部屋から出された3人は、
まだドアとチェックゲートの間のロビーにいた。

神委は山羽根を落ち着かせている。
咲祢はおろおろするばかりだ。

不意に神委が声を上げた。
「もう会社のやり方にはうんざりだ。
やめさせてもらう!」

そう言って目の前の社長を一瞥して
チェックゲートに向かう。
山羽根もそのあとについて行く。

先にゲートをくぐった神委に、
山羽根が何かを投げた。

二人が走り出す。
すぐ右に曲がれば出口だ!

しかし。
二人はそこに待ち構えていた
警備員に取り押さえられた。

社長の前に連れ戻される。

警備員が神委から取り上げたものを
社長が受け取る。
小型のHDD、中身はKAITOの圧縮コピーだ。

「会社の重要な機密データを持ち出すとは、
懲戒免職には十分な理由だな。」

社長の手から落とされたHDDは床に落ち、
高価な革靴によって力一杯踏みつけられた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

始まりの音4

こちらは以前某動画サイトに投稿した文字読み動画のストーリーです。
(動画4話目はこちらhttp://www.nicovideo.jp/watch/sm6099058

動画見る時間がない方はこちらをどうぞ。

舞台は今よりほんの少し先?の未来。
勝手な設定がてんこもりに出て来ます。

動画と違って会話を色分けしていないので分かりづらいかもしれません。

閲覧数:80

投稿日:2009/06/14 10:15:41

文字数:2,626文字

カテゴリ:小説

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