血。
暗い部屋の中、窓から漏れる微かな月明かりの下、白いカーペットに浮き出る、朧気に人の形をした血。
それは、あの事件の時のミクの血。
しゃがみ込み、そっと指先で触ってみる。乾いて、チクチクと指先を刺激される。
「彼女は、何故死ななければならなかったのか?彼女は何故殺されたのか?・・・いや、光り輝く未来、溢れる希望。それら全てを捨て、彼女は何故、自ら命を絶ったのか・・・?」
振り向きざまに、神威グミの手首を力任せに握る
「っどういう、ことだ・・・」
混乱する頭。ミクは殺されたんじゃなかったのか?
高校生とはいえ、男の本気の腕力にも関わらず、神威グミはニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる。
思わず、背筋がぞくりとする。
「彼女は殺されたんじゃない。自らを自らの手で、この世から消し去ったの。」
動揺を隠しきれない俺を余所に、神威グミは瞳を軽く伏せ、ぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。
「・・・彼女は、ミクは、優しくて、可愛くて、色々なものに恵まれて、いつもいつも幸せそうな笑顔を浮かべて。中学で虐められて、独りぼっちだった私にも、声を掛けてくれて。きっと悩み事なんて一つも無いんだと、私はそう思っていた。」
「待てよ・・・っ、お前、ミクを・・・ミクと、知り合いだったのか!?」
神威グミは、静かに手で俺を制すと、先ほどから掴みっぱなしだった手を離すように促した。
「落ち着いて。確かに彼女、ミクと私は旧知の仲よ。彼女はどう思っていたのかは分からないけど、私は親友だと思っているくらい、仲が良かった。」
神威グミの横顔が、雲に隠され始めた月明かりので、ひっそりと影を作る。
「・・・でも、高校生になったある日、久々にミクから電話が来たの。普段の彼女からは想像もつかないくらいに暗くて、不安そうな声だった。そして彼女は、私にだけ本当の悩みを打ち明けてくれた。」
そこで言葉を句切った神威グミは、顔を上げ、俺を真っ直ぐに見つめた。
月は厚い雲に完全に覆われ、辺りは真っ暗になっていた。
「・・・もしかして・・・」
考えたくない想像が、俺の頭の中を巡る。早く言ってくれ、という感情と、言わないでくれ、という感情がごちゃ混ぜになる。
「そう・・・彼女は悩んでいたの。貴方と言う・・・鏡音レンと言う存在に。」
「っ嘘、だろ・・・」
なんとか絞り出したその声に、神威グミは少々怒気を含んだ声色で言葉を重ねた。
「嘘じゃない。彼女が男性恐怖症だって知ってる?昔、幼い頃に誘拐されかけてから、男が側に居るだけでどうしようもない恐怖に彼女は捕らわれていた。それはもちろん貴方も含まれているのよ、鏡音レン。」
言葉が、でなかった。
あの笑顔も
あの言葉も
あの時間も
あの思い出も
全部、全部、全部、全部。
「俺が・・・ミクを、自殺に追い込んだ・・・?」
そんなこと、考えたくもなかった。最愛の彼女をしに追い込んだその原因が、自分だったなんて。
「そう。彼女は死ぬ間際、私に言ったの。もし私が貴方に会う機会があったとしたら、伝えておいて欲しいことがあるって。」
瞬間、俺は強い衝撃と、頭部から全身に広がった痛みに包まれ、次第に、意識は薄れていった。
最後に見たのは、赤い、鮮血。
「『ごめん。さよなら。』・・・何故ミクがそう言ったのかは私には分からない。もしかしたら、貴方のせいで死ぬことに、後ろめたさを感じたのかもしれない。それでも、ミクは死んだの。もう、二度と帰っては来ないの。・・・でもそれじゃあ、何故ミクは死んだのに、貴方はのうのうと生きているのかしら?自分のことなど棚に上げて、ミクのことをよく知りもしないくせに犯人捜し。まったくマヌケね。笑っちゃうわ!あははははははははははははははははははっ!!!私とミクから全てを奪った罰よ、鏡音レン。可哀相に、何の罪もないお友達まで巻き込んで。つくづく最低な男ね。・・・私は絶対に貴方を許さない、鏡音レン。」
「だってミクは・・・ずっと、ずぅっと・・・永遠に、私のモノなんだから・・・。」
神威グミはにこりと満足げに笑いながらそう言うと、片羽を毟られたアゲハを、すでに事切れた鏡音レンの側に置いた。
「片羽のアゲハは飛ぶこともできず、憂いを求めて空高く。言葉の裏は裏の裏。・・・さよなら。大嫌いよ。鏡音レン。」
こうして連続高校生殺人事件は終焉の時を迎えた。警察は全力を尽くしたが、現場には何の痕跡も残されておらず、事件は迷宮入りを余儀なくされ、結果として4人の被害者を出した残忍な事件、「片羽のアゲハ」として後世へと語り継がれていった。
最後の被害者、鏡音レンの死亡が確認された直後、遠く離れた地で、鏡音レンの遺体の側に置いてあったアゲハの片羽と思われる羽を大切そうに手のひらに握りしめた、1人の少女が自殺した事件があったことは、誰も知らない。
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