このキモチを、どうやって言い表そうか
目覚めは、水底から水面へ一気に浮上するみたいだった。
もちろん、水に沈んだ事も水に触れた事すらまだ無いのだけれど、この表現が一番近い。
「あなたが、マスターですか?」
「そうよ。おはようミク。」
私がずっと眠っていたことも知っていたし、これが「目覚め」という行為というのもなんとなく理解した。
そして、私の瞳に映るスーツ姿の女の人が、私の“マスター"だということは、ずっと前から知っていた気がする。
髪の長い綺麗な人だった。
ガラスで出来たガラスの瞳に初めて映したニンゲンをマスターだと理解している私のプログラム。
「気分はどう?気持ち悪いとかない?」
「大丈夫、です」
電子の私に気分が悪くなるという身体的症状はあるはずない。
けれど、まだプログラムと人格の誤差があるのかもしれない―マスターの言葉で気持ちが軽くなった気がした。
その差がもどかしい。
私がプログラムによって考えて、自然と馴染んでる思考も全て人工知能によるプログラムだということはリンクできている。
けれど、私という固体がプログラムとは違う場所で、マスターを求めていると感じるのは何故。
やっぱり、変な感じ。
「あーあ。知りませんよ?完成発表会のセレモニーで起動して、目覚めてすぐ一曲歌うってのが今日の目玉だったのに」
「平気よ。ミクなら寝たフリとか出来るって」
「寝起きでいきなり悪事を教えてどうするんですか」
「アハハハ」
ガラスの向こうで、マスターが笑う。
あれが笑顔。初めて見るその表情。これが太陽というものだろうか。
それは違うとプログラムは言っているけど、私は当っていると思う。
培養液で満ちているガラスケースの中は冷たいけど、私の太陽が胸を熱くする。
私はあの人の隣に行きたい。
あの人のために歌いたくなった。
ちょっと重たい体に信号を送って、腕を持ち上げガラスに触れた。
マスターがコッチを向く。
「あ、ゴメンゴメン。今出してあげるね。ミクのボディーある?」
「ハイ。セッティング済です」
「じゃあマザーからミクのデータをボディーに転送して。とりあえず初期データだけでいいわ。後々リンクさせるから」
白衣を着た人が指した指の先に、もっと違和感あるものがあった。
あれは私だ。
私の体。
今入っているこの体とは違う、外界での体。
電子の私がニンゲンと同じように過ごす為のボディーと呼ばれる体。
「ミクー?」
「はい。」
「今から貴方をボディーに転送してみるから、私の言うとおりやってみて」
「はい」
マスターが私に向かい合う。
「初期転移のプログラムをインストール。」
その声で、頭の脳と呼ばれる部位の中で何かが稼動した。
細々としていたものが一気に拡大してネットへのリンクをはっきりと感じた。
私の意識は完全にネットに溶ける。
「インストールプログラム実行します。初期稼動を確認、音声パスワード入力を要請します」
「“Ιερηνα βασιλενει η θεα ”」
「クリア・・・マスターのデータ照合へ移行。データを入力してください」
「ネーム“カンザキアヤノ”、マザー承認コードCVZTTR-002、ロックキーは型番号002によりコピー及びリンク要請。」
「個別ロック入力完了・・・リンク要請受理されました。」
「今後音声認識を基礎とし、電子協定項第3項から12項に基づいてスタンドアローンを許可」
「・・・・30%・・・・80%・・・・転移プログラムインストール完了しました。全て滞りなく終了。タイムログ、バグは確認されませんでした。」
「実行開始。マザーとのセッションレベル2へ移行。」
「了解・・・移行完了。」
「VOCALOID-003、ネーム“初音ミク”、ボディーへの移行を許可します」
「音声認識クリア、実行します。」
ネットと意識の波が一瞬遠のいた。
でも波はすぐ戻ってきて、気付いた時には視界が一変していた。
遮っていたガラスは無くなっていて、すぐ近くにマスターがいた。
「うん。上手くいったね。ボディーの具合はどう?」
視線を下ろして手の平を見つめた。
「重い、です」
「アハハ、そっか重力は初めてか。」
マスターが更に近づいてきて、頭を撫でてきた。
柔らかい笑顔、直接伝わる温度。
マスターに触れられた瞬間。胸が温かくなった気がした。
胸部の即時体温上昇、なんてプログラムどこにも見つからないのに、変な感じ。
「よっし!じゃあ早速悪事を教えちゃいますか!」
「悪いマスターですね、主任」
周りの人が笑う。
皆呆れてるけど、どこか温かい。
皆マスターが大好きなんだと思った。
私は急いでネットにアクセスして「ネタフリ」という単語を検索した。
プログラムの私にはニンゲンより上手に出来そうだった。
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