「二年か…思えばずいぶん経った」
「二年の間、あなたが私を放っておいたものね」
彼は苦虫を噛み潰したような顔で、まぁそれは…、と呟く。
久しぶりに見たその顔がとても懐かしくて、小さく笑った。
二年前、私は彼と七夕祭りに来ていた。商店街のあちらこちらに吹流しや笹が飾られて、沢山の人が目の前を通り過ぎてく。そんな中、私と彼は花火を見に行くために、人ごみの中を走っていた。彼はいつも通りの格好だからいいものの、私は浴衣なので、とても走りにくい。人の波を掻き分けて走っていると、足の速い彼から遠ざかってしまう。そのたびに彼は私を待っていてくれるが。
どうにか空が見える場所に着いたときには、もう花火は打ちあがっていた。適当なところに座り、顔を上げると、大輪の花が夜空に咲いていた。次の瞬間には光の花は線を描き消えていく。
横には、花火を見上げる彼。子供のように空を見つめる彼が、あどけなくて少し笑う。すると彼は、不満げな顔で私に顔を向けた。
「何だよ」
「いや、別に。なんでもないよ」
彼はまだ納得していないような感じだったが、まぁいいや、と呟き目線を夜空に戻した。
星を散りばめたような空は、手が届きそうなほど近く、花火が上がるたびに周りからは歓声が聞こえる。
「あのさぁ、大事な話があるんだ」
突然、彼が真顔でこちらに向く。
「何?」
「俺、実は――
ドン
花火が上がった。さっきよりも一際大きい歓声で、大きな花火だったことに気付く。
低く大きな音に紛れながらも、彼の声ははっきりと私の耳に届いていた。
『実家に戻らないといけないんだ』
「どうして、行ってしまうの…?」
「母さんが肺の病気で倒れてしまったんだ。父さんはもういないし、親族もいない。だから、俺が行くしかないんだ。それに、もう一回向こうに戻って、将来のこととか話してくる」
「いつ…帰ってくる?」
「分からない。母さんの病気の重さにもよるし、向こうでやることもできるかもしれない。出来るだけ、メールとか手紙とかで連絡はするから」
「分かった。もし帰ってこなかったら、実家に殴り込みに行くから」
「うん、お前ならやりそうで怖い」
「あはは」
言った瞬間にぐらりと視界が傾き、背中に手が回されていた。
「…待っていてくれ」
耳元で聞こえた彼の震える声音がくすぐったくて、私も彼の背中に手を回した。
「うん、いいよ。絶対に、帰ってきてね」
肩の感触で、彼が頷いたのだと分かった。
大きな音と歓声が聞こえた。
「彦星でも二年も待たせないよ?どれだけ待ったと思ってるの」
「…ごめんなさい」
二年前と同じような景色。とても懐かしい。そういえば去年はここには来なかった。一人だとどうしても空しさを感じてしまうから。
「まぁ、いいや。今年ちゃんと帰ってきてくれたし」
「いくら俺でも二年以上待たせたりしません」
「そうだね」
空には大きく綺麗な花。次の瞬間には光のすじを描き、消えてしまう。だけど、それも美しいと思った。
「また来年もさ、来れたらいいね」
「そうだな、じゃあ、約束」
「破ったら承知しないからね」
「毎回思うけど怖い」
私と彼は、小指を交わす。
二年前よりも大きくなった手は、私とは大きな差がつき、声も低くなっている。あぁ、もう二年が経ったんだな、と今更ながらに思った。
花火が上がり、周りで歓声が起こる。
「好きだよ、リン」
昔とは違う声に聞こえるけれど、ずっと変わらない優しい声。
「私もだよ、レン」
大きな花火が二人を祝福するように、咲いた。
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ご意見・ご感想
kanpyo
その他
けっこう前に読んでいたのですが、感想を書かせてください。
情景がとても美しく、キレイに浮かぶ素敵な作品でした。
イントロからエンドまでキレイなまとまりがある秀作ではないでしょうか。
私、胸キュンです。
花火の爆発する「ドン」のところの余韻、良いな~と。
とてもセンスを感じました。
作品を多く手がける美里さんには、いつも感心します。
一箇所だけ、気になる所がありました。
6行目「私と彼は花火を見に行くべく」のくだりですが
『行くべく』は全体の文体から見てちょっとだけ、引っかかりというか
違和感を感じました。「のどに刺さるニシンの骨」程度の引っかかりですが。
言葉がココだけ硬い言い回しになってるなと。
これは、個人的に感じた事なので、気に触ったら、申し訳ないです。
以上ですが
とても素敵な作品で読めてよかったと思います。
またこういうの、書いてください!
でわでわ。
2012/08/01 22:32:14