20.それは凶気といふ名の男
巨大な爆発音と共に、目の前にオレンジ色の火柱が上がった。
地面が激しく揺れ動き、ライムは思いがけず地面にひざをつけた。
少年の心の中は、それ以上に激しく揺れ動き、動揺している。
さっきまで自分たちが居た場所、いや、それだけではない。
産まれた瞬間から、ほんのさっきまで僕の――。
彼を優しく守り、育ててくれたモノは今や散り散りに吹き飛び、炎に包まれ、面影はない。
心臓が冷たく握り締められたように苦しい…… しかし、苦しみの声すら出てこなかった。
熱波がこちらにまでやってくる。肺の中まで熱い。
彼の心を支配しているのは、暗く冷たく響く音だった。
まだ幼い彼は、その音を理解できない。ただ聞き入るばかりである。
なにかの欠片が炎に包まれて、放物線を描きながら、辺りにたくさん降り注いできた。
カランカランと軽い音をたてて、地面へと転がり落ちてくる欠片。
その中にたった一つだけ、鈍い音をたてて地面へと到達したモノがあった。
ソレは地面に太く不格好な一本の線を描いた後、少女と少年の近くで止まった。
丸っぽい物体からは、それぞれ二本ずつ手足が伸びている。
少し煙をあげているその丸いモノが低いうなり声をあげて、もぞもぞと動き出した。
先程確認した二本の足で立ち上がり、二本の手で体に付いた黒いすすをはらった。
そこに立っていたのは、トラボルタであった。
どうやら、後方から襲ってきた爆風でここまで吹き飛ばされてきたようだ。
何メートルも飛ばされて、なおかつ地面に頭から激突したのにもかかわらず、
何事もなかったかのように、平然とその場に立っている。
しかし、彼の頭頂部からはツーと一つの線を描くように、赤い血が垂れている。
老人の平静を装う涼しい顔と、その血のラインとのコントラストがなんだかおかしくて、
ライムは不謹慎ながら、ふきだしそうになった。
気がつくと、心の中の暗い音は止み、目の前に立っていたミクの姿も目に入ってきた。
少女はココロ乱されることなく、眼前の凶気をじっとにらんでいる。
「ふへへぇ、どうだぁ? 気に入ってくれたか? これで帰る場所も無くなっちまったなぁ、
てめえは俺についてくるしかなくなっちまったってわけだ?」
凶気の男は、絶望の熱を背中から感じながら、とても気持ちよさそうな顔をしている。
「きっ、きさまは?!」
突然、大きな声をあげたのは、トラボルタだった。
老人は男を指差している。なにやら、老人は男を見知っているといった風に見える。
「きょ、狂人…… デッドボール……」
名を呼ばれた男は、ニタリと笑った。
「ほう、俺様の名を知ってるたぁ、ただの爺さんじゃねぇみたいだな……」
ライムは男の名前を聞いても、ピンと思い浮かばない。
「有名な人なんですか?」
少年は小声で老人にささやいてみる。
「狂人デットボール……。日の国、第零師団、特殊任務専門部隊の隊長さんじゃったかのぉ。
まあ、特殊任務といても奴が主に請け負うのは、”暗殺”じゃな」
”暗殺”という言葉を聞いて、少年は背筋から冷たくなっていくのを感じた。
老人は、かまわず説明を続けた。
「有名なのかと聞いたのぉ? 答えはノーじゃ。じゃが理由がある。
奴と対峙した者は、奴についての情報を他者に伝える前に皆殺されてしまうからじゃ。
なので奴に関する情報は限りなく少ない。
よって、世間の多くの者はその名を知る機会がほとんどないわけじゃ」
長い説明が続いているが、デッドボール本人は動かず、老人に説明の時間を与えている。
非常に非合理的であるが、それもまた彼の特性の一つであった。
「よう、爺さん。なんで、てめえは俺の事知ってんだぁ?」
それまで黙って説明を受け流していた男が、突然口を開いた。
「わしは、お主に会った事があるからじゃ。わしの名はトラボルタじゃ」
デッドボールに聞こえるように少し大きな音量で彼に話しかける。
「……とら? 覚えがねぇな。だいたい月の国のやつは皆、暗殺対象でしか知らないしな。
暗殺をミスったことのねぇこの俺を知ってる奴なんて……。いや……、一人いたな。
名前は確か……」
「シンデレラ――」
相手に考える時間を与えることもなく、老人はすぐに男に回答を与えた。
「そう、シンデレラ。いや、あれはいい女だったなぁ。
確かにあれは俺が唯一、暗殺を失敗した女だ。……そうか、その時の連れか……?」
男は、疑問が解け、とても満足げな顔をしている。
「そうじゃ、お前さんがあっけなく、奴に返り討ちにされるのを目の前で見とった者じゃよ」
老人に痛い所を突かれて、デッドボールはとたんに苦々しい表情になった。
「しかし、もう暗殺業からは足を洗ったのか? 人さらいなど……」
なるべく相手より優位な位置で話を進めるべく、高圧的な言葉を続けてはいるが、
トラボルタの心中に余裕など皆無であった。
日の国―― そして、特殊任務となれば……
その狙いはミクに他ならないだろうと、彼は考えていた。
理由は未だ不明だが、彼女が日の国から狙われていたことは、
例の”あの日の事件”からもまったくに明らかな事であった。
実のところ、現在の状況下では、目の前にいるこの男に圧倒的な優位が存在している。
こちらは、お坊ちゃんに、今日が初仕事の女の子、そして……ただの老いぼれが一人。
対する相手は、たった一人とはいえ、戦闘のプロ中のプロ。
彼は選択肢の限られる中で、この非常に困難な状況を突破する方法を必死に模索していた。
「そうなんだよ……、仕事とはいえ、何年間も人探しってのは、ほんっとにつまらねえ。
まあ、それも今日でようやく終わりだ。やっと見つけた俺の獲物をな……」
会話上で相手側に取られていた優勢を一気に引き戻し、彼の目つきがいよいよ変わった。
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「死にたいなんて言うなよ。
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そんな歌が正しいなんて馬鹿げてるよな。
実際自分は死んでもよくて周りが死んだら悲しくて
「それが嫌だから」っていうエゴなんです。
他人が生きてもどうでもよくて
誰かを嫌うこともファッションで
それでも「平和に生きよう」
なんて素敵...命に嫌われている。

kurogaki
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