――――――――――#13

 鏡音レンは病室のベッドの上で、たこルカと遊んでいた。

 「うー……うー、……うー♪」
 「ほえほえほえほえ」
 「うー♪あー!wwwww」

 たこルカの頭を撫でてやる。たこルカとは落書き見たいな顔を書いた丸い物体に毛の生えたようなもので、ギリギリ紅色に見える極薄い色の球体から、赤紫がピンクがかったような毛が生えた物体だ。一応はMMDという軍事兵器に分類されるらしい。

 「ほえほえほえほえ……、ねえ、戦況はどうなってるの」

 何回目かのチャレンジである。レンはたこルカから情報を引き出す試みを行う。

 「うっうー。かがみね れん たいさは たいきを めいじられています」
 「だよね。ほえほえほえほえ」
 「うー。うー。」

 怖い。おもむろにタイムラグを伴って軍事兵器になる所が、特に怖い。諦めた後も不機嫌そうな顔でうーうー言うのは、恐らく自我に近い仕組みを持っていてただの分岐制御でない判断で、警告という行動を自立して実施するアルゴリズムを持っているのだろう。まさに人工知能だ。

 「はいはい。かがみね れん たいさは たいきを めいじられました」
 「うー!かがみね! れん! たいさに! たいきを! めいじます!うー!」
 「うーうー」
 「ううー!ううー!」

 固有の性格もあるのか、こいつは癇癪持ちである。気に入らないと髪の毛?でぺしぺしとレンを叩いてくる。もっとも、最初に屋上でレンを拘束した時は冷酷な自律MMDらしい、殺気の固まりであった。

 HATUNEMIKU――――――――――僕達の楽園は すでにある世界

 突然、ショートエコーが響いた。たこルカが反応する。

 「りりっくこーど を けんしゅつ だいにしゅ こうげきこうどう」

 ショートエコーが飛び交いだして、リリックコードが混じる度に分析する。だが、『ダイニシュ』とはどういう事だろうか。ずっと『ダイイッシュコウゲキコウドウ』だったので、今回は第一種ではなく第二種であるのだろう。

 「第二種って、」

 思わずベットから飛び上がるようにして降りた。

 AKITANERU――――――――――やべぇ!!!!
 YOWANEHAKU――――――――――ちっ、新造した用水路も駄目ですか!!!

 用水路。そういえば、ネギ畑に近づかせると不味いと言う様な事を言っていた。

 「もしかして初音司令は」

 HATUNEMIKU――――――――――同じ過ちを 繰り返さぬ為に

 レンは最後まで言い終わらずに、背後から床に捻じ伏せられた。

 激しい爆轟が。病室の外で。旅団本部付主計衛生棟の床を震わせて。ネギ畑の方から。音が響いてきた。

 ――――――――――ふざけろ、復讐なんかしなくていいよ。僕はお前より賢いから、死ぬ時はちゃんと理由があって死ぬんだ。お前みたいな間抜けな死に方はしない。

 「あああ、」

 呻き声と共に涙腺が崩壊して、目が濡れて目から下が濡れる。手で押さえようとしても掌からあふれて、拭おうとしても顔中がベタベタして気持ちが悪い。

 「うああ、うああ」

 いつのまにか起き上がっていて、しかし立ち上がれはしなくて、膝で這いずり回りながら前後不覚になりかけても、それでも今のこの心を、形容し難い惨めな、あの時確かに何も出来なかった無力さを、ふと認めた、この心を読まれたくなくて。

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 どぅ。壁に頭を打ち付けた。

 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 どぅん。壁紙の向こうは分厚い耐力壁で、ただただ痛い。頭がどうにかなりそうだった。

 「かがみね れん おちついて!」
 「うるさい!」

 どが。拳でたこルカの額を叩きつける。防御する動作は見えたが、なんとなく見切った。

 「うっうー いまのだげきは えーくらすそうとう です こんごも しょうじんをおこたらぬよう」
 「誰も腕前とか聞いてない」
 「おしえることは なにもない さいごのてきは いつでも じぶんじしんだ」
 「うん。そうだね」

 額の痛さと、たこルカの的外れな切り返しで少し気分が落ち着いた。かなり強烈な攻撃と、エルグラスの惨劇とを重ね合わせて、危うくフラッシュバックが起きる所だった。

 「ねえ、エルグラスの攻撃も、第二種なのかな」
 「えるぐらす は かこに だいさんしゅの こうげきを うけています かがみね れん は とうじ えるぐらす で だいさんしゅの こうげきで ひさい しています」
 「ありがとう。秘密と言う程でもないんだね」
 「たいさは えらいのです おきになさらず」

 大佐は偉い。その言葉に、閃く物があった。もしかすれば、世界の真実に等しい何かがすぐ近くにあって、手に届くのかもしれない。

 「じゃあ、僕は今から自分で行動する。非常事態だから、問題はないね?」
 「うっうー! たいきしてください! めいれい に したがわなければ せいあつします!」
 「その命令を出した人は誰かな?僕は偉いんだから、誰か分からない人に従う義務はないよ」
 「うー。 よわね はく じゅんしょう です」
 「ふーん。状況分かってるのかな。その准将、今ピンチだよね?」
 「う?う?う? うー。うー。」

 強気で揺さぶりをかけた結果、たこルカが迷っている。畳み掛けるとしたら今だ。

 「そのうーうーいうのをやめなさい!君が判断できないなら、僕は現状が緊急を要する状況と判断して、自分で行動する!」
 「uh-♪」
 「英語で発音した!?」
 「しんしんせいじょう と はんだん かつ げんじょうにおいて かがみね れん たいさ の はつれい を そきゃくする せいげんは そんざいしません ので」

 たこルカがドヤ顔でウインクした。

 「You Are Freedom♪」
 「ごめんわるかったよ」
 「うー♪うー♪」

 色々と深い事を考えていた気がしたが、僕は痛さのあまりに錯覚していたのかも知れない。

 「じゃあ……、僕行くから」
 「うっうー。 たいさ おとも いたします」
 「そう……ご自由に……」

 二重の意味で頭が痛い。主に物理と精神で、すごく錯綜していた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

機動攻響兵「VOCALOID」第6章#13

久しぶりに登場する主人公(錯乱)

閲覧数:181

投稿日:2014/01/27 23:43:23

文字数:2,761文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました