「此処?」
先程から少し強くなった風に髪を靡かせ、リンは蒼に問う。「そう、此処」と蒼は応え、再び廃墟と化したビルを見据える。それ程月日は経っていないのだろう、リンは想像してたよりも随分と新しいな、等と暢気な事を考えていた。
銀と金は先程までの無邪気な笑顔が消え、厳しい表情でビルを睨み付けていた。レンも少なからず何かを感じている様でそんなに熱いという訳でも無いのに背中を嫌な汗が流れた。
「・・・何か・・・悪いモノが一杯いる様な気がする・・・」
思わず震えた両腕を抱き、レンは独り言のつもりで呟いたのだが蒼には聞えていて、「やっぱりレンは分かるんだね」と言った。
「私が思った通りだ。レン、リンはそう言う何かがいるって言う気配を感じない子。だから、この子、連れて行って」
そう言うとレンが何かを聞こうとする前に蒼は懐から人型の形をした紙を取り出した。そして小さく何かを唱えるとフッと息を吹きかけた。フワリ、と紙は宙を舞い、地面に着きそうになった時、紙が白い煙に包まれた。煙は段々と人の形になっていき、そして、その煙が晴れると、
「主、お呼びでしょうか」
ス、と騎士が忠誠を誓う様に片膝だけで立ち、右の手の平を拳にして地面に付けるとその声の主は言った。その姿は、『初音ミク』の亜種、亞北ネルにそっくりだった。
「式ちゃん・・・いい加減その堅苦しいの止めて、て言ってんのに・・・」
蒼が少しウンザリした様な表情で言うと、亞北ネル、もとい式神は「そんな事は出来ません」とキッパリとした口調で言い放った。
「私は式神なのです。主に仕えるのは当然の身。主に敬意を示さずして何になりましょう」
「・・・・・・ごめん。悪かったよ・・・。あ、式ちゃん、今日は私の手伝いは良いからリンとレンの守護をお願いするね」
「ハイ、主の仰せのままに」
立ち上がっていたのを再び片膝立ちになり、一礼をすると立ち上がり、レンとリンの方を向き、フワリと優しく微笑んだ。
「始めまして、レン様、リン様。私は主、蒼に仕える式神です。お気軽に御好きな様にお呼び下さいませ」
そう言うと式はきっちりと背筋を伸ばしたまま深々とお辞儀をした。つられてレンとリンもお辞儀をし返す。
「式ちゃんは私の最初の式神なの。かなり頼れるよ」
「主、買い被らないで下さい。私のチカラなど、紫音様の式神の足元にも及びません」
「紫音ちゃん?」
リンが首を傾げると、ビルの方からパリン、とガラスを割る音が聞えた。その前に蒼や銀、金に式はビルの方を向いていたが。
「主、気配がします。かなりのチカラの持ち主の様です」
「分かった。銀ちゃん、金ちゃん、行くよ!」
『承知!』
言うが早いが三人は着物(式服)を着ているにも関わらず、かなりの速さで駆けて行った。
「私達も参りましょう。何かあったら私が御二人を御護りします」
そう言うと式も三人の後を追うべく走り出した。レンとリンも其れに続く。レンは走りながら何か悪い事が起きない様に、と願った。
「天兵来たりて、我を助け、符神を作らせよ。急々如律令!」
フ、と宙に現れた紙にス、と指で何かを書き記し、それを宙にいる”何か”に気を乗せて飛ばす。シュウウ、と何か溶ける様な音がして、”何か”が消え去った。
「此れより先に行ってはいけません」
不意に立ち止まり、式はス、と片腕を伸ばした。
「えー、何で? 良いでしょ、式ちゃん」
「いけません」
先程よりもキツイ口調で式は言う。そして三人が呪符を放っている様を見て、
「思ったよりもチカラはありませんね・・・。雑魚ばかりです。あれは子供・・・? まだこの世に未練でもあるのでしょうか・・・。あ、こっちのは・・・此処で自殺した人ですか・・・未練がましいですね・・・ああいうのが結構性質が悪いんですよね・・・。あ、あれは・・・」
「いや、言わなくて良いですから! 見えてますし!」
ブツブツと霊の種類について呟いている式に耐え切れなくなり、レンはグイ、と式の腕を引っ張った。それでハッとしたのだろう、シュン、と叱られた子供の様に項垂れ、「すいません・・・」と謝った。
「主との行動時は良くこういう風に私が霊の性質を言って手助けする形なモノで・・・。今日はレン様とリン様を御護りせねばいけないのでしたね。申し訳御座いません」
「いや、其処まで攻めなくとも良いんですけど・・・・・・て・・・・・・リン?」
「リン様?」
ハッとして二人は(一人はボーカロイドでもう一人は式神だが)周りを見回すが、リンの姿は何処にも見当たらない。
「リン、レン、式ちゃん! 終わったよ・・・!」
大して疲れた風でもない蒼が二人の元に駆けて来た。そして直ぐにリンがいない事を悟ると、
「やっぱり・・・ね。何か起こりそうな予感はしたんだ! あぁ、もう! 私の所為だ! さっきまで二人の後ろにあった大きな気配に気付いてたのに! 早く退治しておけば良かった! ・・・! 移動してる・・・。・・・屋上!」
ハッとして先へと駆けて行こうとしたのを「ちょ、ちょっと待って下さい!」と言うレンの言葉と共に腕を捕まれそれを阻止された。
「ちょっと、話が読めないんですけど! 移動しながらで良いんで説明お願いします!」
「・・・そっか。そうだったね。ごめんね、今一番リンの事心配なのはレンなのにね。焦りすぎちゃったよ」
それじゃ、行こう。 皆に語りかけ、蒼を先頭に駆け出した。行く場所は――屋上。
[オイデ・・・オイデ・・・]
「ねぇ・・・誰? 貴方・・・誰?」
[オイデ・・・サア、コッチダ・・・]
カンカン、と階段を上れば上るほどに声は大きく、ハッキリしてくる。リンはその声に突き動かされるかの様に、階段を上って行く。
「・・・で、マスター、さっきまで俺たちの後ろにあった気配って何ですか? 俺、何も感じなかったけど・・・」
「私もです。お恥ずかしい限りですが・・・」
「相手はかなり大きい相手だからね・・・。しかも“アレ”・・・呼び出されたモノだよ。何者かによって、術で」
「術・・・?」
「でなかったら・・・レンはともかく式ちゃんが気付かない筈ない・・・! 相手もかなりの遣い手みたいだね・・・。何が目的か知らないけど・・・私のボーカロイドに手を出した事・・・後悔させてあげるんだから・・・」
最後の方は黒い笑みを浮かべながら蒼は残酷にもそう言い放った。・・・黒い笑みに関しては誰も突っ込みを入れなかったが。
「さあ、もう一仕事、頑張りますかな!」
そう言って蒼は階段を駆け上がる足に力を入れた。
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