金色だった少女は、姉の命を救いたいばかりに悪魔と契約をした。

約束を交わした天使を思って涙を流し、それでも唇を強く噛んで堪えようとしながら、自らの右腕を切り付けた傷の血で魔法陣を描いた。

召喚したのは、闇紫を纏う大悪魔。薄く、悲しげに笑った悪魔は、自らの眷属に成ることと引き換えに姉を助けた。

対価。契約を結ぶ事で、願いと釣り合う代償を払えば悪魔の力は働く。
これは、天使では出来ない。

欲を満たすのは邪神や悪魔の穢の力でなければならない。神や天使の出来る事は、世界の均衡を守り戦う事だけだ。


闇紫の大悪魔は憂いていた。悪魔の力を借りて欲求を満たす人間を。
それは、彼の悪魔が自身を呪い、人を愛し人に成りたいと願う者であったからだ。

姉を助けたい一心で自らの全てを捨てうる覚悟をも迷わぬ金の少女を、その悪魔は大層憐れんだ。そして、大切にした。
幾星霜の時を生きた悪魔は人に成る事をもはや諦めていたが、少女にはまだ戻れるかもしれない希望があった。

少女の身体は、まだ穢とは同化していない。未だ青のままの瞳までもが黒く成ってしまう前に、穢を除けばあるいは。

しかしそれは、悪魔には出来ぬ奇跡。穢を払うのは神。取り除くは天使だ。
大悪魔は、無力である事に嘆いた。






しかし。奇跡は起こる。

少女が地上に残した魔法陣から、白い何かが堕ちて現れた。

美しい天使だった。
金色の髪と強い覚悟を持った青の目が、少女を思わせた。
血で染めて尚燦然と輝く純白の翼に、大悪魔は敬意を表し天使と向かいあった。

「天使よ、ここは魔界であるぞ。穢に喰われ命を捨てに来たのか。」

内腑は焼けているであろう。しかし天使は凛と立ったままに、口を開いた。

「…金の少女。彼女との約束を果たす為に」

「……約束、とは?」

悪魔の問いに、天使はついと目を伏せた。

「次に会い見えた時に、再会の歌を。それから、」

再び悪魔と視線を合わせた天使は、微笑んでいた。

「彼女の厄を取り除き、守ると定めた自分の為に」

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黒い天使と金色の悪魔の物語Ⅵ

次かその次で終わりそうです。

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投稿日:2009/09/30 21:42:47

文字数:858文字

カテゴリ:小説

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