「ねえ、少しいいかしら」
翌日、無言で大広間から出ようとしたミクを、メイコは強引に呼び止めた。
「放してよ」
「いつまで意地を張ってるつもり? 今のままじゃ、私達はバラバラになったままになるわよ」
同じ部屋に居合わせたハクは、ミクにそう言い聞かせた。
「いい加減、きっちりと話し合いをした方がいいんじゃないかと思ってね。カナデンジャーの事」
「……どういう意味です?」
不機嫌そうな顔を浮かべ、ミクはメイコと向かいあった。
「昨日の事、忘れたわけじゃないでしょ? いい加減、リーダーが誰なのか、はっきりさせる必要があるわ」
「……昨日も言ったでしょ? カナデンジャーのリーダーは私。4人の時も、みんなが私をリーダーと認めてくれた。問題ないでしょ?」
「そう……でも、私達3人は、貴方をリーダーと認めたわけじゃないわ」
「何ですって! もう一回言いなさいよ!」
興奮したミクは、メイコの襟首をつかんだ。ハクは慌てて止めようとしたが、カイトがそれを制した。
「2人に、しっかりと話をさせればいい。俺達が出る幕じゃない」
「でも……」
「あれくらいやらないと、リーダーは決まらないよ。それに」
「それに?」
「たった7人をまとめられない人間に、世界は救えないよ」
カイトは全く心配していないといった表情で、2人の様子を見ていた。
メイコとミクはしばらく睨み合っていた。しかし、やがてメイコは少し表情を和らげた。
「どうしてもリーダーは譲れないというのね」
「そうよ! 私が……」
「貴方はリーダーとして、今まで何をしてきたの?」
「…………えっと……」
ミクはしばらく固まってしまった。
「リンちゃんとレン君のけんかを放置しておけばいいなんて言ったあなたは、まだまだリーダーとしての能力がないわ」
「……」
「戦いのキャリアから言えば、私の方が間違いなく上。人生経験もね」
「だから何よ!」
いらだちと不満を隠すことなく、メイコに食ってかかる。
「一度、私にリーダーをさせてもらえないかしら? 貴方が今までほかの3人を引っ張ってきた事はわかる。でも、時には人の指示を聞くのもいい機会じゃないかしら? それに、私が指揮を執るのが嫌だというのなら……」
「何よ?」
「巡音さんにリーダーになってもらってもいいのよ」
「えっ!?」
おそらく、カイトの名前が出るだろうと思っていたミクにとっては青天の霹靂であった。
「ルカが!?」
「そうでしょ? 年齢的にも、能力的にも、彼女ならできると思うわ。私と貴方でけんかするくらいなら、私は喜んでリーダーの座を巡音さんに譲るわ」
その会話を遠くで見ていたカイトは、にやりと笑った。
「……カイト、メイコに何を吹き込んだの?」
「折衷案……って、ところかな」
ハクはカイトの綱渡りの作戦に頭を抱えた。
「さ、そろそろ真打の登場だ」
カイトとハクは、ルカが大広間に入っていくのを見届けた。
「あの、メイコさん。私に何か……」
「あ、ちょうどよかったわ。ルカさん、貴方に相談があったの」
メイコはルカに近くの椅子に座るように促した。それにならって、ミクも椅子に座った。
「私からのお願い。ルカさん、貴方にカナデンジャーのリーダーになってほしいの」
「えっ!? 私が……そんな……」
当然、メイコも予想していた通りの返答が返ってきた。ミクは相変わらず、おもしろくなさそうな顔を向け、メイコとルカの顔を見ていた。
「一度でいいわ。貴方がリーダーになって、カナデンジャーを率いてほしいの。いえ、私よりも、貴方の方が適任よ。ミクさん、ルカさんがリーダーになるなら、問題ないでしょ?」
「……それは……あなたがリーダーになるよりも、何百倍もましよ」
まだ何か言いたそうな顔をメイコに向け、ミクはしぶしぶ承諾した。
「私も異存はないわ。じゃあ、巡音さん、リーダーとしての初仕事、リンちゃんとレン君を仲直りさせないと」
「え……ええ」
戸惑いながらも、ルカはメイコの言葉に従い、リンとレンの部屋に電話をかけ、大広間に呼び出した。
「さ、後は、ルカさんに任せましょう」
メイコは何も言わずに推移を見守ってくれたカイトとハクに向けてウインクをした。
ルカが正式にリーダーとなってから2日が過ぎた。
「リン、もういいでしょ。レンも、いつまでも意地を張らないの」
目を合わせようとしない2人を諭すように、ルカは語りかけた。
「今のままじゃ、カナデンジャーとしても100%の力を出せないわよ。7人全員が力を合わせてこそなのよ」
「……」
「……」
リンとレンはメイコとミクによって、強引に向きあわされた。
「さ、仲直り」
ルカの言葉に、2人は少し照れくさそうに、
「ごめん」
「ごめんなさい」
と、いって、頭を下げた。
「さ、もう恨みっこなし。これからは……」
ルカが言いかけた時、突然アラームが鳴った。
「また、狂音獣よ! 今度は工場地帯だわ」
モニターを見たハクが6人に声をかけた。
「……みんな、行きましょう」
ルカの言葉に残りの5人は力強く頷いた。
「それと、今日からの約束。メイコとカイト、それにハク」
「何かな?」
ルカは3人に向かいあい、一呼吸置いて声を出した。
「これから、ミクとリン、レン、それに私に対して、さん付けで呼ばないでください。いつまでも他人行儀なのは良くないです」
ルカがそう言うと、カイトはゆっくりと彼女の前に立った。
「これは、カナデンジャーのリーダーとしての指示か?」
カイトとルカの間で、沈黙と重苦しい空気が流れた。
「はい」
ルカの返事に、カイトは笑顔を見せた。
「了解!」
カイトの元気のいい声が大広間に響いた。
「了解、ルカ」
メイコはそう言うと、ルカの手を握りしめた。
「久々に、暴れてやるぞ!」
リンの言葉に、ミクとレンは頷いた。
「さ、行きましょう!!」
ルカはそう言って、広間から出ていった。それに続くように、5人が外へ走り出した。
「……これで一安心ね……」
ハクは、今日の戦いは絶対に勝てる。そう確信をもって6人を送り出していった。
「腰ぬけども、今日は出てきたみたいだな」
あの、音楽室にある肖像画が飛び出してきたような姿をした、ヘルバッハが指揮棒を振りかざし、ザツオン達に指示を出していく。
「今までの私達とは違う。しっかりとそれを見せてあげましょう」
ルカはそう言うと、メイコに向き直った。
「戦うときは、メイコ、貴方に指揮をゆだねます。それとミク」
メイコの隣に立つミクは、ルカに声を掛けられ、慌てて彼女の方を向いた。
「貴方は、メイコを助けてあげて。貴方ももっと頑張れば、メイコに負けないくらい強くなるわ」
「わかった。ルカに認めてもらえるように、私も頑張るわ」
目の前には、ザツオンが群れをなして襲いかかってくる。
「さ、行きましょう」
6人は左腕を前に突き出し、メロチェンジャーに手を添える。
「コードチェンジ!!」
掛け声とともに6人は光に包まれ、カナデンジャーへと変身した。
「思いっきり暴れてあげるわよ!」
リンはすぐさま両手に拳銃を持ち、ザツオンに向けて攻撃を始めた。
「……もう少し協調性を持ってやってくれればいいのに」
レンはダガーを両手に持ち、迫ってくるザツオンを蹴散らしていく。リンとレンの活躍で、あっという間にザツオンの数が減っていく。
「あいつは、私がやるわ!」
「ちょっと、リン! 待ちなさい!!」
ヘルバッハの姿を見つけたリンは、ミクの制止を振り切って、走り出した。
「リン、勝手に動いちゃだめだ!」
「リン、レン!深追いは……」
レンは慌ててリンのもとへ走り始めた。それを制止しようとルカが声を出したが2人には届かなかった。
「……また、ザツオンが……」
メイコはリンたちのもとへ駆けつけようとしたが、大挙して押し寄せたザツオンに行く手を阻まれてしまった。リンとレンは振り返ることなく、ヘルバッハのもとへと走っていった。
カイトは弓矢をヴァイオリンに変えた。それにならってルカは鉄扇を竪琴に変化させる。ミクは立ちはだかるザツオンに向けてファイティングポーズをとった。
「……そのようですね。メイコ、カイト、それにミク。一気に片をつけましょう」
ルカの言葉に4人は頷くと、一斉に走り出した。
「大したことないじゃない? あんたの操る狂音獣は、今日はお休み?」
リンは、ヘルバッハの前に立ち、銃口を向ける。ヘルバッハは、持っていた指揮棒を双刃の剣に変えてリンの前に立ちはだかる。
「一人で私を倒そうと思っているのかね」
「……貴方なら、私一人で十分よ」
リンの銃が光に包まれる。
「一気に決めるわ。ソニックアーム! ブラスバズーカ!!」
トランペットに口をつけると、そこから光の弾がヘルバッハに向かって飛んでいく。しかし、彼はそれをよけようとはせず、
「甘いわ!!」
と、一喝し、双刃の剣で真っ二つに切り裂いた。
「ウソでしょ!?」
「いい事を教えてやる。己の能力を過大評価する者は、早死にするという事をな」
「リン!」
ヘルバッハの刃がリンを襲う。その瞬間、レンはリンを突き飛ばした。
「ほう……なかなかやるではないか」
「…………」
「ダガー1本で私の刃を止めるとは」
レンのヘルメットは割れ、顔の左半分が露出していた。
「死に急ぐことはなかろうに」
「…………ブレイブロッド!」
レンの掛け声とともに、ダガーが長い棒へと変化した。
「うおおおおおお!!」
気合を入れ、双刃の剣を押し返そうとするが、ヘルバッハの力に及ばないのか、次第に押されていった。ついに、レンの体が壁に押し付けられた。レンも必死に力を入れて押し返そうとするが、全く通用してはいなかった。
「少しは骨があるかと思ったが、遊びにもならなかったな」
ヘルバッハは剣をそのままレンの胸にめがけて突いた。
「レン!」
異変に気がついたカイトが声を出すが、矢をつがえる時間がなかった。
「レーーーン!!」
その時、光の弾が真横からヘルバッハを襲った。
「リン!」
「レン、大丈夫!?」
マスク越しからでもわかるくらいリンの瞳から涙がこぼれていた。
「……大丈夫だ。それよりも……」
ヘルバッハがまだ迫ってくる。今度は剣を構え、リンとレンに向かって走り始めた。
「2人の技を同時に当てれば、何とかなるかもしれない」
「うん、タイミングを外さないでよ」
リンはブラスバズーカを、レンはブレイブロッドを構える。
「行くぞ、ブレイブ・スラッシュ!!」
レンのロッドから、光の刃が飛んでいく。
「ノイズ・バスター!!」
リンのトランペットから光の弾丸が放たれる。
「無駄だ!!」
ヘルバッハは再び、双刃の剣でたたき落とそうとする。
「今だリン!」
レンを踏み台にして、リンは高く飛び上がり、ヘルバッハに向かってノイズ・バスターを放った。
「お前の負けだ!!」
レンの持つブレイブロッドが光り、リンの放った光の弾丸をヘルバッハにたたきつけた。
光の弾丸はヘルバッハに直撃し、大爆発を起こした。後ろにあったコンテナと建物は粉々になり、遠くからでもわかるくらいの衝撃が伝わった。
「リン、レン!!」
助けに来たメイコ達は、元気な二人の姿を見つけ、安どの表情を見せた。
「……よくやったわ。それで、あいつは……」
周囲を見回したが、どこにもヘルバッハの姿はなかった。
「ここだよ」
ヘルバッハは無傷でメイコ達の後ろに立っていた。
「……いつの間に!?」
「少しはやってくれるようだね。でも、まだまだだ。今日はザツオンがいなくなったから、帰らせてもらうがね」
「負け惜しみかしら」
リンは銃を構える。しかし、それよりも早く、ヘルバッハの双刃の剣がリンの胸元に突き付けられた。
「……次は、なぶり殺しにしてあげよう」
そう言い残し、ヘルバッハは姿を消した。
「…………」
急に力が抜けたのか、持っていた拳銃を地面に落した。
「命があるだけましよ。リン、無理はしないで」
ルカはリンに声をかけた。リンはしばらくの間、言葉を一言も発することなく、立ち尽くしていた。
「いただきます」
何日かぶりにレンが腕を振るい、カレーを作った。カレーだけではなく、ハクも手伝って、たくさんの料理がテーブルに並んでいた。
久々に大広間ににぎわいが返ってきた。だが、リンは一人うつむいたままだった。
「あれ、リンは食べないの」
ミクは隣に座るリンに声をかけた。リンはスプーンを手にしているが、それを口に運ぼうとはしなかった。
「…………ちょっとね……」
今日の戦いの事を思い出したのか、食が進まないようだった。
「リン、せっかくレンがカレーを作ってくれたんだから、食べないともったいないわよ」
レンは頭に包帯を巻いたままの姿で、リンの正面にすわていた。
「……リン、せっかく作ったんだから、豪快に食べてくれよ」
「……レン」
「あの、ヘルバッハとかいうやつは、必ず俺達で倒す。だから、それまではしっかりと力をつけていこうぜ」
「……そうだね。そうだよね」
リンは久しぶりに笑った。その姿を見て、みんなが笑顔になった。
「さ、今日は新しいリーダーの就任を祝って、祝杯をあげるわよ!」
メイコはどこからか持ってきた、一升瓶を手にしていた。そして、いつの間にか乾杯の音頭を取っていた。
この後、賑やかなパーティーが夜遅くまで続いたのだった。
つづく
光響戦隊カナデンジャー Song-08 リーダーは誰だ? Bパート
カナデンジャー第8話です。
内容はコラボにアップした作品と同じです。
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