……一年というのは早いものである。










気づけば木枯らしが吹き、昆虫は姿を消し、俺は生き甲斐を失い、どっぐちゃんは自らの髪にくるまり、ルカさんは灰色のコートを着て出勤するようになる。



師走―――――12月とはそんな時期だ。人肌恋しくなるぐらい寒く、それ以上に忙しい。





そんな冬の時期――――――――――





どっぐちゃんと話し合って。










ここはひとつ、年収めの挨拶をいろんな人にしてみようかと思った。





そんなわけで。





今年最後の、ヴォカロ町とかなりあ荘の物語です。










『……………いじゃない……ちゃん』

「……ん?」


部屋の外で、何やらぼそぼそと話し声が聞こえる。どうやらしるるさんのようだが……。


「……ん、これは……!」


ピン、と耳を立てたどっぐちゃんが、机の引き出しからシルルスコープを引きずり出して俺に手渡してきた。


「……いるのか?」

「うん。リア充も真っ青の2828モードだよ」


小さく笑った俺は、シルルスコープを装着して部屋の外に出た。




『し、しるるさん……いつまで引っ付いてるんですか～?』

「いいじゃない～。冬は人肌が寂しくなるものなのよ」

『いや、それならむしろ他の人のほうが……』

「清花ちゃんがいいのー！　もちろんつかさ君やイズミさんでもいいんだけど今は清花ちゃんがいいのー！」




案の定だ。しるるさんが清花ちゃんをホールドしている。抱きしめているとか抱き付いているとか、そんなレベルではない。包み込むようにホールドしている。


「やっぱりあんたらですか、しるるさんに清花ちゃん」

「あ、ターンドッグさんやっほー」


がっちりと全身で清花ちゃんをホールドした状態のまま俺の呼びかけに答えるしるるさん。

それに対して、清花ちゃんは顔を真っ赤にしてしるるさんから離れようとする。


『し、しるるさぁん……恥ずかしいからもう……』

「だって離れちゃったら清花ちゃん見えないもん」

『ううううう……』


どうやら噂は本当のようだ―――――ネルに頼み込んだ結果、清花ちゃんに触れるようにシルルスコープを改良した結果、可視範囲が手の届く範囲ぐらいまで狭まってしまったというのは。


「仲がよさそうねー……」

「……！　ネル!」


後ろからした声に振り向くと、そこにはネルが立っていた。


「あの失敗作『スターダスト』のおかげであれほど仲が良くなれたっていうなら、少しは救われるわ」


『スターダスト』とはしるるさんのスコープにつけられた名前。いわば型番のようなものだ。

ネルはこれまで作った幽霊可視スコープに全て名前を付けているらしい。

例えば、一番最初に作った試作1号機は『ネルネル・ネルネ・ネルウォッチャー』。

次に作り、そして稼働実験で大破した試作二号機は後付の名前として『ネルウォッチャー・メガンテ』と名がついている。

続いて作られた試作三号機―――――すなわち以前しるるさんが持っていたスコープは『シルルスコープ・ゲンテン』と呼んでいたらしい。ネーミングセンスがなぜかここだけ皆無だ……。

量産型一つ一つにも名前を付けてあるらしく、スカウター型の俺のはまんま『シルルスコープ・スカウター』。ゆるりーさんのリングの髪留め型は『シルルスコープ・メガリング』。

そしてあのしるるさんの新型、試作四号機が―――――『シルルスコープ・スターダスト』なのだそうだ。


「しかしなんでまた『スターダスト』なんだ?　星形イヤリングだから『スター』はわかるが、『シューティングスター』とかでもよかったんじゃ……」

「あんな失敗作に『流星』なんてもったいないわよ。『星屑』で十分」

「はは……」


手厳しい娘だ。流石は商売人ともいうべきか。


「それはそうと……これからヴォカロ町に寄ろうと思うんだが、ネルはどうするんだ?」

「ん?　あたしはもうしばらくかなりあ荘をうろつくよ。セール期間中だし、改造を頼んでくる人もいるかもだしね」

「そっか。じゃ、またあとでな。それじゃしるるさん、清花ちゃん、よいお年を」

「ちょっと早い気もしますが、よいお年を~」

『よいお年を』





三人に別れを告げ、俺とどっぐちゃんはヴォカロ町へと向かった。