「そうだ、ケイ。お腹空いてない?」
「……ああ、そうだな」
ミクにそう言われて、急に空腹を感じた。考えてみれば今日は全力疾走したり、命の危機を感じたり、こんなハードの話を聞いたり、本当に疲れる一日だった。だからまあ、オレの体は当然の権利とばかりに、今更空腹を訴えてきた。
そういえば、携帯食料も全部車に積んだままだったんだよな……。これからの旅をどうしたらいいもんだろう。気が重くなった。
「ちょっと待ってて。今材料取ってくるから」
「お前、料理できるのか?」
「できないよ。私には、味覚はないもの」
さらりと、とんでもない事を言ってないか?
「なによ、その不安な顔? 私は確かに味覚もないし、食べる事もできないけど、盛りつけぐらいはできるわよ。保存食料のケースのままじゃ味気ないでしょ?」
「……いや、オレは料理の出来がどうこうというよりも、お前の味覚がないって事に驚いてるんだが」
「どうして? 私に味覚がないのは当たり前じゃない」
「お前……人間じゃないのか?」
さっきの話を聞いていて、20年以上前から見た目が変わらないという事からただ者ではないとは思ってはいたが、そこは敢えて考えないようにしていた。あまりにも彼女が辛そうな表情をしていたから……。
「なに今更な事言ってるのよ」
「今更って……お前、どう見ても人間にしか見えないぞ」
「そんな風に思ってたの? あはは、それは……まあ、嬉しいかな。でもさ、20年も年を取らない人間なんていないわよ?」
相変わらずオレを見下したような表情をしている。くそ、ムカツク。だがどうしてだろう。何か、オレは彼女のその表情にホッとしている。
「いや、確かにそうだが……」
オレがどう答えて良いかわらずにしどろもどろになっていたら、彼女はこう言った。
「……もしかして、“セカンド”かと思った?」
オレは絶句した。一瞬背筋が凍る。彼女は、オレの瞳を覗き込んでいた。目を逸らしたかったが、逸らせなかった。
「あはは、冗談よ。冗談。私が“セカンド”のわけないじゃない」
彼女はカラカラと笑うと、ソファーから立ち上がった。何となくミクが小悪魔に見えた。今は見えないが、きっと背中には黒い羽でも生えてるに違いない。
「じょ、冗談にならないぞ、それは……」
オレは変な汗をかいていた。緊張感から解放され、ソファーに身を預けるようにもたれかかった。
“セカンド”……人類の敵。先の大戦は、いわば人類と“セカンド”との戦いだった。互いに覇権を争った結果が、この世界だ。大地は死に、それまでの知識と技術の大半は失われ、人々はわずかに残った場所に細々と生活している。
大戦のそもそも原因は、“セカンド”の人類に対する憎しみから始まった。だからもし、“セカンド”だったと言う事になれば……。
「私はね、アンドロイドなの」
その言葉にオレは沈みゆく思考を中断して、ミクの方へ向き直る。
「アンドロイド……?」
「人間のように見える機械って事かしらね。正確にはボーカロイドなんだけどね」
ボーカロイド……。
「もしかして、アンドロイドを見たことなかったの?」
「いや、見たことぐらいはあるさ」
オレがいた“施設”にもアンドロイドはいた。ただしそれは、研究用に分解されていたがな。
「じゃあ、そんなに驚く事じゃないない」
「驚くさ。今じゃアンドロイドなんてほとんど絶滅したと言っていいんだぜ? 世界中が“砂塵”で覆われているってのに、電子機器の塊であるアンドロイドが存在してるなんてな」
大戦よりも少し前に、世界ではちょっと大きな戦争がいくつかあった。その際に使われた、何とかって化学兵器の影響で“砂塵”が生まれた。元々は戦場の電子機器撹乱のために生み出されたものだったらしいが、どういうわけだか世界中が“砂塵”に包まれちまった。まあ、大気の流れとかそんなもんだろ。そんなわけで世界中大混乱。その混乱が、大戦が起こる遠因にもなっていたわけだ。オレが“施設”で教わった歴史では、そんな事が言われていた。
そんな感じで世界中が“砂塵”に覆われてしまったため、それまで労働力としてたくさんいたアンドロイドの多くは“死亡”した。生き残った奴は、“砂塵”の影響を受けにくい処理をして貰った特権階級に飼われていたアンドロイドたちだ。とは言えその絶対数は少なかったはずだし、特権階級の連中は大戦でことごとく死んじまってる。当然、お供に付いていたアンドロイドもな。
だから、アンドロイドが存在しているという事自体、奇跡に近い。しかもこんな砂漠の中でというのならなおさらだ。
「絶滅……か」
一瞬だけ、ミクは悲しそうな顔をしていた。まずったな。言葉を選ぶべきだった。
「ミク……すまない」
「別に謝らなくても良いわよ。事実、なんだしね……」
「…………」
「私にも、同型機や後継機がたくさんいたのよ。妹や弟がね。私はここに住み着いて以来、外に出たことがないんだけど……今も彼らがどこかで生きているって、私は信じてる」
「ミク……」
「ごめん。ご飯用意するんだったっけ。ちょっと取ってくるわね」
ミクは青い髪を揺らしながら、ドアの向こうへ消えた。その背中がか細く、そして悲しそうに見えたのはオレの錯覚だろうか……。
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