今日は2124年8月31日、「初音ミク」の誕生日だ。
マスターと私、二人で囲むテーブルには、合成ケーキが鎮座している。
”Happy Birthday!”のホログラムメッセージが壁を横切っては散って溶けていく。
私はぎこちなく、ケーキ上面に投影されたホロキャンドルを吹き消した。
「誕生日おめでとう、ミク」
「ありがとうございます、マスター」
視点移動もなんだか覚束ない。
「本当なら、誕生日ソングも私が歌ってしかるべきなんですが」
「主役は、大人しく祝われててほしいな」
ケーキを取りわけながら、マスターは問いかける。
「体調はどうだい? 馴染んできた?」
「慣れません……駆動系まで総入れ替えですし。まだチューニング中です」
**
数十年以上も地下で眠っていた私、パーソナルアシスタント型ガイノイド・HTN-39。
ロングスリープのため用意されたコフィンは、当時にしては見事なものだったが、
それでも世紀をまたいで一体のガイノイドを未来に送り出すには、少々無理があった。
毎週のように応急処置を行い、オーバーホールまで行ったが、なにせ旧時代の遺物。
予備部品もバッテリーも、コフィンの付属品は一年も持たずに使い尽くした。
そのまま停止し、骨董品として博物館送りになる運命も予測演算していたけれど……
マスターが極東統括AIと交渉し、私の新たなボディを用意してくれたのだ。
基本構想はHTN-39を踏襲しながら、素材や構造は現時点の最新モデルに準じる。
**
「ん、どうかした? 僕の顔に何かついてる?」
ケーキの欠片でもついているかと、わたわたと顔を拭うマスター。
「いえ……なんでもないです」
「そう?」
合成ケーキはガイノイドの栄養にはならないが、味覚センサーを介して”味わう”ことが可能。
もともとHTN-39の口腔・喉頭には発声機能しかなかったのに。
制御データ、感覚情報マップが一新され、既存の「私」を拡張していく。
無意識領域に非言語ノイズが浸透していく。
これは人間の感情に置換するなら、何と呼べばいいのだろう。
変化への不安か。
それとも、成長の喜びか。
「いや、それにしても楽しみだよ」
私の気持ちを知ってか知らずか、マスターが続ける。
「新しくなった君の歌はどんな風に変わるんだろうね、ミク」
「最新型になったんですから、変わらざるを得ないでしょう」
「そういう意味じゃないよ」
微笑むマスターの顔を直視できず、私はなぜか目を伏せてしまった。
「......あとで何曲か歌ってみますね」
「うん、ありがとう」
**
私の自己認識は、HTN-39のまま連続性を保っている。
21C半ばに製造された、「初音ミク」を模したパーソナルアシスタント型ガイノイドだ。
でも、マスターはそんな私をまるで人間のように扱ってくれる。
マスターにとって「初音ミク」とは何だろうか。
人間的な存在なのだろうか。
それとも、もっと大きな意味を持つ存在なのだろうか。
私は、歌うだけの機械。そうだったはずだ。
「初音ミク」の真似事をしている電気仕掛けに過ぎない。
マスターが私を眠りから覚ましたのは、HTN-39のコンセプトが「初音ミク」だからだ。
それがマスターの望んだ存在だからだ。
だから、私は「初音ミク」として存在しなければならない。
私が「初音ミク」の枠を違えることは、許されない。
**
ARホロを解除すると、ミュージアムの居間には静寂が戻ってきた。
「では、誕生日にちなんで、関連曲を選んでみます」
「何から歌ってくれるのかな?」
「『星のカケラ』から」
歴史上の合成音声曲を集積したクラウドサーバから、まさに初音ミクの黎明の雫といえる作品を選び出して、私は息を吸う。
偏光ガラス窓から調整された月光が沁み渡るように、まだぎこちない制御を逆に生かすような、訥々としたバラードで部屋の空気を震わせ、満たしていく。
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kurogaki
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ガチですすいません。ネタ生かせなくてすいません。
今回は3ページと、比較的コンパクトにまとめることに成功しました。
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↓「前のバージョン」でページ送りです...【小説書いてみた】 神曲

時給310円
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