「三人…ですか?」
ほかに誰かいるのかと、キヨテルはあたりを見渡した。
「ええ、あなた以外にも、私に協力してくれる人がいるの。本当はがくぽさんもそうだったんだけどね…」
遠い目をして、ルカは言った。
「そうなんですか…」
「ま、とにかく、話をしましょう。おーい、ミズキさん!」
ルカは自分の真後ろの、路地の突き当りの物陰に声をかけた。
すると、
「…流石ルカさんですね…分かっていたんですか、私がここに隠れていたことを」
ミズキがひょこっと姿を現した。
「ええ、まあね」
「私にここに行くよう言っておきながら自分自身もきた、ってのはつまりこれが目的だったんですか?」
「ま、そういう事ね。幸い、新しい仲間もできたし、これでまだ手は打てる。何としてもこの争いを、終わらせるのよ」
先ほどまでの微笑みを消すと、ルカは真剣な表情になる。
「そういえば、やけにミクさんの事にこだわってましたけど、それっていうのは…」
「彼女は明らかに自分の欲望で動いてる。現に、もうみんながミクにやられてきている。野放しにするわけには、行かないでしょう?」
「では、リンさんとレンさんは?」
「多分、ミクが味方につけたんでしょう。実際、二人はミクを慕ってるみたいだし、私たちはミク姉のために戦うって、いってたわ…」
「……」
ルカが現状を語る中、ふと、キヨテルが何か思い当たったように考えているのに、ミズキが気付いた。
「キヨテルさん…?何かあったんです?」
「いえ、その割にはリンさんもレンさんも、かなり自発的に戦っていたようにも見えたので…」
「…なんですって?」
「いえ、個人的な見解なので…」
つまり、実はミクはリンとレンの操り人形なのでは…ってことか。確かに、可能性としてはあるかもしれないな、とルカは思った。
「仮に先生の考えが正しかったとしても、私がこれからやろうとしたいことに変わりはない」
「…大体見当は付きます。三人同時に相手するには今までの状況を見るに危ない、ということでしょう?」
「つまりあの固まりを分断しよう、ということですね?」
「話が早いじゃない、二人とも」
ルカは満足そうに返事した。これなら、結構サクサクと話が進みそうだ。
「だから、そのためにどうしようか、今から作戦を立てようと思うの」
「なるほど、そういう事ですか。ところで…」
その前に一つ聞いておきたいと、キヨテルが手を挙げた。もうルカの支えなしでも立てるようになっていた。
「作戦が成功したとして、そのあとはどうするんですか?まだグミさんたちが…」
「ええ…。グミちゃんも、多分欲望で動いてるから止めたい。できれば倒さずに…ね。そのあとは…」
ルカは話しながら、ふとミズキがごそごそしているのに気付いた。
「…どうしたの、ミズキさん?」
尋ねた瞬間、ミズキは振り返った。
その右手には…マイクが握られていた。
「『サイバーサンダーサイダー』!」
光が、三人を包んだ。
「もお、どこに行ったのよ…」
リンが疲れた、と言わんばかりに声を漏らす。
あれからミクたちはユキの姿を追うも、十字路を有効活用され、見失ってしまった。
しばらく周りをさまよってみたのだが、見当たらない。フォンの位置情報からするに、またこのエリアからは動いていないはずなのだが…。
日はてっぺんを過ぎ、ミクたちの陰が大きくなっていく。
ミクはどちらかというと、ユキよりもルカの存在を心配していた。また、私の邪魔をしに来るんじゃないか…そう思って。
「…このままじゃ、らちが明かないな」
レンが言った。
「とはいってもどうするの?このエリア広いし、隅から隅まで探してたんじゃ、日が暮れちゃうよ…」
リンが、今度は面倒くさいといった調子で答えた。
「なら、二人が来そうなところで、待ち伏せしてればいいんじゃないかな…」
ミクがボソッと言った。それに対し、
「…そうか、それだよミク姉!」
とレンが過剰反応を示した。
「どういうこと?」
「駅だよ、駅!簡単にエリア移動する唯一の手段だし、あっちがそれを使わずにエリア移動したってことは徒歩でしかありえないから、こっちが電車使って追えばいい!」
レンが得意そうに解説。
「おおー、さすが我が弟!」
「はは、…ってかリン、今までおまえ、そんな知恵出したことあったっけ?」
「えー、沢山あるよ?」
「例えば?」
「えーとね、うーん…。…ま、まあ色々あって思い出せないや!」
「…絶対ないだろ、おい」
「にゃはははは」
双子が微笑ましいやり取りを始めたので、ミクもリンにつられて笑った。
ホント、二人はこんな状況になってもいつものリンレンだ。お互い戦いあいたくないっていうのも、分かる気がする。できれば二人を…ずっと一緒にいさせてあげたいな。
「さ、行きましょうか」
なおも言い合っている二人に、ミクは声をかけた。
「「はーい!」」
素で異口同音に返事する二人を見て、ミクはさらに笑った。
そして、駅に向かって歩き出した。
だが、周囲への警戒は怠らない。いつ、どこから、誰かが襲ってくるのか分からないから。現にいま、グミとリリィ以外の生存者は、このエリアに集結している。油断は…脱落を招く。
そんな緊張感を保つ中、三人は一応は順調な歩みで駅へ向かっていた。
「…ん?」
そろそろ駅に近い大通りに入ろうとしたとき、ミクは誰かの足音を聞いた。当然、リンとレン以外のもの。
「…いるね」
リンにも聞こえたのだろう、足音が聞こえた方向をじっと見据えた。レンも周囲の警戒に入る。ミクはマイクを取り出し、いつでも歌えるようにした。
一体…どこから出てくるのか。歩くペースを落とし、慎重に、慎重に…。
「あ!」
声を上げたのは…レンだった。数瞬ではあったものの、走っていく二人の姿を、確認した。反射的に後を追う。
それに気づいたミク、リンが、レンの後を追う。
「走るよ、駅まで!」
レンは叫んで足のスピードを上げた。十字路を曲がると…。
「いた!」
ユキとミキの姿を、とらえた。
そのレンの声を聞き、ミクもリンをその姿を確認しようと急いだ。
路地の先には駅。ユキたちは後百メートルほど。
「リン!」
「…うん!」
リンとレンが、歌う。
「「『麻雀中毒』!」」
光線はそれぞれユキ、ミキめがけて飛んでいく。
ユキたちは振り向きもしなかったが歌声で攻撃してくることが分かったのでユキは右に、ミキは左に。標的を失った二つの光線は駅の入り口を破壊。
「ミキお姉ちゃん!」
「うん!『浮かれた大学生は死ね』!」
ミキが歌った。…空めがけて。
「ええ!?」
ミクは思わず変な声を発した。今のには一体何の意味があるのだろうか。
ユキたちは駅に入り、ちょうど来ていた電車めがけて走る。
「逃がすかよ!」
レンもコンマ数秒遅れて駅に。さらにミクとリンが駅の中に入ろうとした時だった。
「「…きゃあああ!」」
二つ分の悲鳴が上がった。いきなり空から攻撃が降ってきたのだ。
…そう、それはミキが先ほど打ち上げたもの。足止めを狙ったものだったのだ。
「…ミク姉!?リン!?」
レンがそれに気づいたのはすでに電車に乗り込んだ後。
戻ろうとしたとき、無情にも電車のドアが閉まった。
「くそっ…!」
電車は、プラットホームを滑り出した。
「ははは、大成功!」
呆然としていたレンに、一つの笑い声。
「ユキちゃん…!」
そして、もう一人。
「まさかここまでうまくいくとはね…。形勢逆転、かな?」
「…ミキさん…!」
レンは歯を食いしばる。
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「そうして距離を作って、こうやって三人組を分断しよう…と?」
「そ。乗り込んできたのが一人だけ、しかもミクさんじゃないのはホントにラッキーね。…さて」
ユキ、ミキがマイクを構えた。
「さて、手合せ願うわ、レン君。この狭い中で、二人相手に、どう戦うかしら?」
「…分かったよ」
俺だって…一人のボーカロイドだ、やってやる。
レンは強くマイクを握りしめた。
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