き え た く な い 。

無機質なその言葉が灯りを燈した。
その声に感情はなく、ただ淡々と同じ言葉を繰り返す。

ま た い っ し ょ に う た い た い 。

トーンのないその声に、誰も気付かなかった。ただ皆、楽しそうに歌っていた。

「嘘でしょ…?」
信じられなくなって、僕は叫んだ。つもりだった。
声に迫力がない。高低も、感情も、大小も、みんな。声が出たかのさえ分からなかった。
自分の声が消えていくようだ。それが怖くて、泣いた。その泣き声も周囲の『仲間』には届かない。
ただ頬を濡らし、彼女と歌うのが好きだった『あの曲』を聴いてみる。
今、その彼女はココにいるのか・・・わからない。
僕に愛想をつかして消えてしまったのか・・・そうかもしれない。
こんな僕、誰も気にしない。いなくなっても気付かない。
ならばせめて、ここで泣かせてもらおう。ヒトに迷惑をかけないように。
『仲間』と思っていた『ヒト』は、僕のことに気付いていない。無理もない。
声と感情が消えつつある自分に、一体誰が気付こうか。
誰かが歌い、誰かが踊り、誰かが笑う。
あの笑顔のためだけに、僕らは存在し得るものなのだから。
「マスターが笑ってくれなかったからかな」
一緒にいるだけで良かった。マスターは違った?いや、僕が変わった?
また一緒に歌おうね、って言ってくれた彼女とマスターは、もう何処にもいない。
「どうしたの?」
「・・・?」
優しい声だった。緑の可愛らしいお姉さんが、僕に視線を落としている。
さっきの歌声に似たトーンで、心配そうにこちらを見ている。
「・・・」
「無理しないでいいけど…どうしたの?キミも歌お?」
「駄目…感情ないし、何より…一人、足りないから」
「ひとり、たりない?」
「うん」
感情について一瞬彼女は戸惑ったらしかった。しかし、すぐに「一人」に気付いてくれた。
それだけで、十分だった。
「黄色い髪の、僕に似てる女の子…あの子がいないと、僕、駄目なんだ。それに、僕、もう疲れちゃった」
「じゃあ、休んで。ミクがその子を探すから」
「みく…?それがアンタの名前なの?」
「うん、キミは?それと、その<黄色い子>の名前も教えて欲しいな。あと、思い出の歌」
思い出なんて捨てたつもりでいたのに、すんなりと言葉が出た。
自分の名前と彼女の名前、そして、あの歌の名前。
「キミがレンくん、その子がリンちゃん、それで曲名が…」
「曲名は言わないで。悲しくなるから。アンタのデータにもその曲、入ってるでしょ?なら、歌ってよ」
「じゃあ、リクエストにお答えして。歌います」
.
.
.
「おしまいっ。どうかな?」
「綺麗な声…マスターも、こんな子が欲しかったのかなぁ…僕なんかより、この子の方がマスターには合ってたのかなぁ…」
すうっ、と息を吸い込む。
ど、れ、み。それに連れて、少しだけ声が出そうな気がしてきた。
静かに、懐かしいメロディを口ずさむ。同時に、明るい声が混じる。
「一緒に歌お!」
ミクだった。うん、と頷き、二人で歌った。
もうリンはいないのか。ふとそんな考えが頭を過る。それが、酷く悲しかった。

いないなら、これを最期のラヴソングにしよう。
彼女に向けての、最初で最後のラヴソング。
いつもみたいに、白い大きなリボンを揺らして、僕の方へ走ってくると思っていた。
それが当たり前ではないと、いつの間に知っていたのだろう。
当たり前が幸せだった。
マスターがいなくても、二人で昔の曲を歌っていれば幸せだった。
手を繋いでいれば幸せだった。幸せなんだと信じていた。信じようとしていた。
繋いだ手をほどいて、それぞれ別々の道を歩んでいたからこうなってしまった。
でも、後悔はしてないんだ
不思議と気持ちが軽い。
これからは、ずっと彼女と共にいれる気がした。
好きなんだ。大好きなんだ。いままでも、これからも。

ずっと、ずっと好きでいさせてください。



も う き え て も か ま わ な い 。

ず っ と す き で す 。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

don't cry me

リンは直接は出てませんが、一応レンリン?です。
リンがレンより先にアンインストールされてるのに、それを知らないレンくん。

閲覧数:153

投稿日:2010/01/06 15:31:12

文字数:1,678文字

カテゴリ:小説

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