第四十三話 あなたを殺して、私は

 「私を、殺して」


 そう言ってきた。
少し暖かい、夕暮れだった。

 お依亜さんは、涙をいっぱいに溜めて、そう私に懇願してきた。

 彼女が死ぬ理由など、なにもない。
若旦那との縁談は、本決まりになって、幸せなはずなんだ。

 それなのに、どうして彼女はいま、こんな泣きそうに私に殺してくれと頼んでいるのだ。

 おかしいじゃないか。

 私がここに奉公へきて、大体一月が立った。


 「お願い……るかさん……あなたなら、できるでしょう……?」


 「そんな、私は……」


 そんなことできない。
だって私が狙っているのは、若旦那だ。
巻き込みたくはない。






 「だってあなた――人ではないでしょう―――?」






 お依亜さんの口から出たのは、思わぬ言葉だった。
あたりは、一層静まり返った。





 「な、何を、言っておられるのです、わた」

 「ごめんなさい。私、その――わかる人なの……」

 「わかるって……何が……」

 「人間じゃないもの、人ならざる者や、人に化けた者。それに、妖や、幽霊とか……。そういうものが、みえるの。――わかってしまうの――」


 では、私が悪魔だということは―――人間ではないということは――。


 「気づいておられたのですか……」




 「…………ごめんなさい…………」





 そうか……。
それで私に殺してくれと。


 「しかし、どうして私がお依亜さんを殺さなければならないのですか? 縁談はもう本決まりですし、祝言も迫っているといいますのに」

 「若旦那が好きなのは私じゃない、あなたなのだもの。それなら、都合がいいでしょう?」


 少し寂しげに笑った。


 都合がいい?
なにの、都合がいいのか……?



 私がお依亜さんの意図を読み取れていないことに、気がついたのか、お依亜さんは不敵にほほ笑み、私の耳元へ口を持ってきて、言った。



 「                 」


 心臓がどくりと跳ね上がり、息が上がった。



 瞬きも忘れて、お依亜さんの顔を見つめた。


 彼女はいつものように優しく笑って、そのまま私の前から去った。
 


























 







 「私を殺して―――あなたが、私になるのです」
















ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
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ノンブラッディ

閲覧数:99

投稿日:2013/03/18 19:39:08

文字数:1,021文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    成り変り!
    くっ……その手があったか
    よし、そういう手があるということを学んだ……ので、いずれ私も使います←

    しかし、イアちゃんがかわいいぞ!
    イズミさんのは、少しダークが混じってた方が萌えます←
    前作のミクちゃんとかww

    2013/03/19 23:25:34

    • イズミ草

      イズミ草

      ハイハイ! じゃんじゃん使ってください!!ww

      確かにちょっとダークのほうが書きやすいといいますか、楽しいですがww
      前のミクは、狂いすぎてましたねww
      楽しかったけどw

      2013/03/20 09:18:58

  • ハル

    ハル

    ご意見・ご感想

    IAを殺してルカがIAになる・・=嫁はルカになる
    確かに都合いいけど・・IAさん、殺すって・・あなた・・
    「  」空白の中には何の言葉が当てはまったのかな~
    見えるの!?すっごい!さあ今すぐ精神病院へ((

    2013/03/18 21:02:23

    • イズミ草

      イズミ草

      え!? 精神内科なんて贅沢なもの、この時代にあるのかしら…………?

      もうそろそろ、ルカさん過去編が終わりますね

      2013/03/18 22:28:00

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