『　ボーカロイドは成長しない　』


だいぶ前に、そんなことを聞いた

誰もが相手にしなかった　噂話


でも

そんな些細なことが

僕にはとても怖かったんだ


――だって


「レンくーん、何してるのっ？」

「…ミク姉。」


好きな子の身長を　一生抜かせないってことだろ？


「あ、歌の練習かぁ～」
「うん。これ、ミク姉とのデュエット曲なんだけど。」
「前にマスターが言ってた曲？」
「そ。」


真剣に楽譜を見つめ始めたミク姉。

いつもこうだ。

いつのまにか、ミク姉の方が真剣になっている。


「ねぇ、レンくんっ。」
「ん？どしたの？」

「一回、音合わせしてみない？」


…なんというか、すごい目がキラキラしてる…

『断る』という権利は無さそうだ…


「いいよ。んじゃ、どこから始める？」
「んー。最初から歌っちゃおっか。」
「分かった。」


大きく息を吸う。

そして２人同時に


―　音を奏でる　―



…はっきり言うと、この曲は歌いたくなかった。


この曲は

「〈♪キミを見上げる　言葉にできない切なさ〉」

俺と似ている部分が多すぎて。


「〈神様は俺を見放したようだ〉」

「〈キスする時　キミが軽くしゃがむ辛さ〉」


俺のパートの後に、ミク姉のフォローみたいなパートが入る。


それがよけい　胸に痛んで―――


ポタッ…


「っつ…!!!」

何でだろう

「…レンくん…？」


ポタポタッ…

「ひくっ…あぁっ、あっ…あぁぁっ…」


俺は情けないことに　ミク姉の前で

　泣いてしまった


「レンくんっ…どうしたの！？ど、どこか痛い！？」


テンパっているミク姉に

俺は変なことを口走った


「なぁ、ミク姉っ…」



「　ボーカロイドが成長しないって…知ってる？　」


空気が一気に変わった気がした――

「え…」

驚いたミク姉に　さらに話しかける


「成長しないんだ。誰かがそう言った。」



「俺とミク姉のたった２㎝差も、変わらない…!!!」



バカみたいに泣いてる俺――

…いや、『みたい』じゃない。


―　本当に俺はバカだ　―


沈黙が続く

その沈黙を破ったのは


ミク姉。


「レンくん…じゃあ、こんな話は知ってる…？」

ミク姉は真剣な顔つきで言った



「　私は、そのままのレンくんが大好きです　」



…え？

「レンくん、そんなこと気にしてたの？」

そっ…！？

「そ、そんなことじゃねぇよっ!!俺には重大だ!!」

「…とりあえず。返事。」


…え。


「…俺さぁ、夢見てる？」
「ううん、現実。」

「…じゃ、幻想？」
「違うってば。」


「じゃ…」


「…現実…？」

「うん。現実。」


…マジでか？



「私はレンくんが好き。身長も関係ない。だって、」




「好きには身長もなにも関係ないから。」


そう言ってキスされた俺―――




――は、この後　顔を真っ赤にして倒れた。

目が覚めたのは２時間後だった…はず。