「マスター……」
なんとも情けない声に、俺は半ば呆れながら、持ち帰っていた仕事の手を止めた。
「何だ」
彼が言いたい事の察しはついているが、一応訊いてやると、先ほどの声に負けず劣らず情けない表情で、カイトが見返してきた。
「めーちゃんって、何をあげたら喜んでくれるんでしょう……」
やはりか。
こいつは、本当に予想を裏切らない奴だ。
裏切らなさすぎるのも、つまらないのだが。
―Happiness―
前編
普段なら、ある事ない事吹き込んだ上で、高みの見物を決め込むのだが……。
生憎、今の俺にそんな余裕はない。
「お前が誕生日にもらった物のお返しって考えればいいだろうが」
「だって、指輪のお返しはもうあげちゃいましたから……」
「あぁ……そういえばそうだったな」
適当に返事をしながら、俺は目の前の仕事に戻ろうとした。
「マスターは、好きな人から何をもらったら嬉しいですか?」
「何故俺に訊く?!」
仕事モードに切り替わりかけていた頭が、一瞬で元に戻る。
好きな人、とぼかしてはいるが、それが誰の事か、カイトは知っているはずだ。
言いたい事があるならはっきり言え。
……いや、言わなくていい、それはそれで困る。
「俺の感覚がそのままめーちゃんにも適応されると思ったのか?! 俺は男だぞ?!」
「わかってますよ、でも……」
「大体な、俺がどういう状況か見ればわかるだろ。そういう事は他の暇な奴に訊いてくれ」
「すみません……」
いかん、八つ当たりしてしまった。
すっかりしょげてしまった彼に、俺は少し後悔する。
カイトだって、必死なのだろう。
めーちゃんの誕生日は、もう明日だ。
それなのに、今日まで何もできなかったんだ、焦るのも仕方ない。
だからといって仕事の邪魔はされたくないが……。
「はぁ……」
1つ盛大な溜め息を吐くと、元から小さくなっていたカイトが、さらに縮こまる。
そんなつもりではなかったのだが。
「そうだな……もらえるなら何でも嬉しいけど……それじゃダメだよな」
「え?」
「お前な、自分で訊いておいてそれはないだろ」
まったくこいつは。
時々やたら鋭いくせに、頭がいいんだか悪いんだか……馬鹿なんだろうな、やっぱり。
「好きな人から何をもらったら嬉しいか。知りたかったんだろ?」
「あ……」
忘れてたのか。
天を仰ぎたくなるが、それはなんとか堪える。
「何でもいいっていうのは……高価だったり、手が込んでなくても……手元に残るものでなくてもいい」
「……?」
「そういう事は、お前もちゃんとわかってると思ってたんだがな」
何をもらったら嬉しいか。
そんな事、俺がわざわざ言うまでもないだろうに。
「そもそも、俺が具体的にこれだと言って、それでカイトは納得するのか?」
「……いいえ」
「だったら、自分で考えろ」
諭すように言った自分に、内心で苦笑する。
まったく、いつから俺はこんな偉そうな口を叩けるようになったんだ。
「……マスター」
「今度は何だ?」
遠慮がちな声に、俺はなるべく厳しい声にならないように気をつけながら、訊き返した。
「お願いがあります」
真剣な顔でそう言って、カイトは"お願い"を口にした。
「……なるほどな」
にやりと、唇の端が上がるのが、自分でもわかった。
本当にこいつらは……見ていて微笑ましいことだ。
「解った、そっちはなんとかする」
「あ、ありがとうございます」
「そんな礼を言うほどの事じゃないだろ。……頑張れよ」
「はい!」
その返事を聞いてから、俺は今度こそ仕事に向き直る。
「ほら、もう遅いんだから、お前はもう寝ろ」
「はい、おやすみなさい。マスターも、早めに寝て下さいね」
「ああ、おやすみ」
そう答えると、ドアが開く音が微かに聞こえてきたが、すぐに静かになった。
「……さて、ちゃっちゃと片付けるか」
自分の士気を高めるべく、そう口に出して言った。
それにしても……明日どうなるのか、楽しみだ。
この目で見られないのが少し残念ではあるが、まぁいいだろう。後からカイトを問い詰めればいいだけだ。
考えながら、俺は自然と笑みを浮かべていた。
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