「好きだよ」
君の口からその言葉が聞けたら、どんなに幸せなんたろう。
「………まぁ、無理だよね。」
鏡音凛は、教室で頭を悩ませていた。
「どうしたの?何考えてんの?」
そう声を掛けてきたのは、2歳離れた幼なじみの初音未来だった。
「ん?海斗先生のこと♪」
「…また?」
嬉しそうに凛が答えると、未来が呆れた。
「だってだって、カッコいいんだもーん!歌だって、先生達の中じゃ、ぜーったい1番上手だもん!」
プンスカしながら答える凛を、未来が宥める。
「凛、ここは“そういう”学園なんだから、先生達皆、歌が上手いってば。」
―――私立歩歌呂(ボカロ)学園では、未来のヴォーカリストを育成する学校である。
もちろん教師達も皆、プロのヴォーカリストばかりの、言わば『ヴォーカリストのエリート校』なのだ。
かといって、歌だけでは無く、普通の公立校と変わらず、国語や英語といった普通教科も勉強する。
初等部から高等部までエレベーター式の学校で、凛は中等部2年、未来は高等部1年。
彼女達もまた、将来プロを目指す卵であった。
「はぁ~~~…早く海斗先生の授業にならないかなぁ!」
凛は、手を組んで目をキラキラさせる。
因みに、先ほどから会話に出てくる海斗先生とは、今年の春に、この学園に来た教師で、担当は国語。
モデル並みのルックスと優しい性格。更に、少し低めのイケメンボイスで、初等部から高等部までの女生徒からの人気は絶大なのだ。
勿論、凛も海斗先生が大好きな女生徒の1人だ。
「凛、国語嫌いでしょ。去年までは『国語なんか敵だーっ!』って言ってたくせに。」
「うっ…か、海斗先生が教えてくれる国語は好きだもん。」
「へぇー…」
「はぁ…」
〈海斗先生と…もっと近づきたいなぁ…〉
キーンコーンカーンコーン…
その時、予鈴のチャイムが鳴った。
「あっ、チャイム鳴っちゃった!私、教室に帰るね。」
「うんっ。未来姉ちゃん、また後でねー!」
未来を見送って、席に着こうとした時、一枚の水色のハンカチが落ちた。
「…あ、これって未来姉ちゃんのハンカチ…忘れていっちゃったんだ。授業終わったら、届けにいこうっと。」
そして授業終了後…
「えーっと…高等部の校舎は、確かこっちに…」
凛が、未来を探して高等部の校舎へ行こうと校舎をさまよっていると。
ドンッ。
「きゃっ!?」
曲がり角で、不意に誰かとぶつかって、凛はしりもちを付いた。
「だ、大丈夫ですか?」
「!!!」
声の主に、慌てて顔を上げると。
〈はうあっ!!愛しの海斗先生!!〉
「ケガはありませんか?」
手を差し出す海斗先生。
凛は、おずおずとその手を掴み、立ち上がる。
「大丈夫ですか?ケガは?」
「いっ、いいえ!こっちこそよそ見してて、すみませんでした!」
凛は、顔を真っ赤にして、頭を下げる。
「ハンカチ、落ちてますよ。」
「あっ!」
凛が慌ててハンカチを拾う。
「それ、君のですか?」
「あっ、いえ…高等部の未来姉ちゃんの忘れ物で…」
「もしかして、届けにいこうとしてました?」
「はい…あの…」
「?」
「もう1つ、ハンカチが…」
「あぁ、僕も落としてたのか。」
はにかみながら、ハンカチを拾う。
「じゃあ気を付けて。」
「あ、はい!」
海斗先生は、そのまま立ち去った。
凛も、未来の所に急いだ。
*****
「未来姉ちゃーん!」
「あ、凛!」
「これ、私の教室に忘れてたよ!」
凛が、ポケットから水色のハンカチを取り出し、手渡す。
「はいこれ。」
「………これ、私のと似てるけど違うよ。」
「え!?でも、あれは確かに未来姉ちゃんの…」
「私のハンカチは、周りに白いレースが付いているわ。それに…」
「それに?」
「刺繍も入ってない。」
「刺繍?そのハンカチ見せて!」
未来からハンカチを借りて、よく見ると、青の刺繍糸で『K』と刺繍されている。
「海斗先生の…」
凛が、ボソッと呟いた。
「え?」
「さっきぶつかった時、間違えちゃったんだ!!」
「何?どういう事??」
訳が分からない未来は、ただ呆然としていた。
「さっき、中等部の校舎で海斗先生とぶつかったんだけど、その時に、お互いハンカチ落としちゃって…!」
「それで取り違えた?」
「そう!」
凛が力強く頷く。
「私、海斗先生に返してくる!」
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