皆さん、こんにちは。メイコです。
私のマスターは複雑な経緯でこの町に来て、ちょっとした縁がありVOCALOIDシリーズ01『MEIKO』の私を購入してくれました。・・・・・・『購入』という言い方をマスターは嫌うみたいですが、他にいい表現が見つかりません。

今日は日曜日。そんなわけで今日も私は、九時からせっせとハタキを片手にリビングの掃除をしています。・・・・どうせボーカロイドに、休みも平日もないですよ。毎日がホリデーで家事の当番ですよ。ふん。
 でも、日曜日は毎日朝から夜遅くまで忙しいマスターもお仕事がない日。だから他の日とは違って、マスターと一日中一緒にいられる貴重な日なのです。
「メイ」
そんな事を考えていると、後ろからマスターが私を呼ぶ声がしました。
「なぁに?マスター」
振り返ればマスターが、無地のシャツにジャージのズボンというラフな格好で、ソファで食後のコーヒーを飲んでいました。ちなみに表情もいつもと同じぼーっとしているような顔ですが、いつも通り外人らしいがっしりした体格とサングラスのせいで全体的にいかついです。
「今日予定はあるか?」
マスターはコーヒーを啜って一拍置いた後、私に尋ねてきました。
「無いよ。どうかしたの?」
「いや、無いならいい」
マスターは一飲みで3分の1ほどグラスに残っていたコーヒーを飲み干して、ゆっくりとした動作で立ち上がります。それを見ていると、視線を上げたマスターと目が合いました。・・・そこでようやく私は、私がじっとマスターを見ていた事に気が付きました。
「あっ、ごめんごめん」慌てて身体ごと90度回して、手元の埃が付いたハタキを見つめます。埃を指先でつまんでは丸めて足元のゴミ箱に捨てる作業を4、5回繰り返して、その間に上がった心拍数を深呼吸で下げる努力をします。すーはーすーはー・・・。
「メイ、よくその服を着ているな」
 そんな努力も、視界の端から至近距離で生えたマスターの仏頂面のせいで吹き飛んでしまいました。
「ふぉあっ!ふ、服?」
「ん。」
 言われて自らを見下ろしてみれば、見えるのはへそが出るほど短い赤のジャケットに黒いタンクトップ。ベルトが巻かれていてぴっちりとお尻のラインを浮かべた赤色のスカート。皆さんもご存じの公式衣装(-シューズ)です。
「そ、そうかなぁ? そういえばそうかも。この服気に入ってるし、ちょっと露出多いけど動きやすいし。あ、マスターのくれた服もちゃんと着てるよ」
 早鐘を打つ心臓を全力で押さえながら私は平然を装って答えます。ちなみに、マスターが買ってくれた服の殆どは現在洗濯中。もしかして気にしているのでしょうか?もちろんマスターがくれた服は全部気に入っているのですけどね。・・・センスが良いという意味で、ですよ?ええもちろん!
 対してマスターは、私の返事に納得がいかないのか黙ったままこちらを見つめてきます。サングラスの奥でうっすらと輪郭が浮かぶ瞳と目が合って、また心拍数が上がってしまいます。
 マスターの両目が数回瞬きをして、数秒。何か覚悟を決めたような表情でマスターは口を開きました。
「今日は、いつもより綺麗な格好をしておいたほうがいい」
・・・この人は真面目な顔で何を言っているのでしょうか?
「いや違う。失礼な意味で言ったわけではない。んん・・・・、そう。いつもも綺麗だがより一層綺麗な服を着たほうがいい、と言う意味だ」
私が何も言わないのをマスターは勘違いしたらしく、天然発言と分かっていてもものすごい誤解を与えてしまいそうな訂正を入れてきました。というか、マスターは一体何が目的で・・・はっ!
口を開いて文句を言う直前、私は思い留まりました。・・・・・・これはもしや、俗に言う『でぇと』のお誘いなのでは?
どうしましょう、私まだデートに着られるようなお洒落服を持っていないのですが。もしや今から買いに出かけるのでしょうか?そのままパーティに出られそうなドレスを買ってもらって、あまつさえ100万ドルの夜景が見えそうなレストランで優雅な一夜でも洒落込んでしまうのでしょうか?
私が悶々とした頭で状況を整理している間に、マスターはさっさと台所に行ってしまいました。・・・というか、さすがにそれは無いですよね、ふぅ・・・。そもそも今日何かの記念日でしたっけ?
「・・・・四月四日だから、猪の日?」
疑問は晴れないままですが、私は自分の部屋に向かうことにします。とりあえず言いつけ通り、外に出かけられる格好をしないと。
自分の部屋のドアノブを掴む直前、ぴんぽーん、とキーの高いチャイム音が玄関から響きました。
台所でグラスを濯いでいるマスターに来訪した誰かの相手をしてもらうのも気が引けたので、そのまま部屋を通り過ぎて玄関のドアノブを掴みます。そして、訪問者へ失礼の無いよう静かにドアを開けました。
「おまたせしましたー。どちらさまで、す・・・・・か?」
ドアを開けた私は、思わず動きを止めてしまいました。
蝶つがいの軋むドアの向こうに佇んでいたのは、黒い詰襟の制服を着た男の方。そして澄んだ翡翠色の眼をキラキラと輝かせた黄色い少年と少女。
「やぁやぁどうも、初めまして」
手品師がするような大仰な手振りをつけた礼をして、緩やかな弧を描く唇で返事を返した男の方は知りません。ですが、彼を挟むように立つ金髪碧眼の子供2人には、――顔がよく似た双子の少年と少女にはあまりにも見覚えがありました。
「「初めまして、メイコお姉ちゃん!」」
満面の笑顔を咲かせたのは、キャラクター・ボーカル・シリーズ02の鏡音リン、鏡音レン―――私の後続機、言うなれば妹と弟なのでした。


・・・・・・というか、何故この人達はここへ?
活動範囲がたったの自転車30分で横断できるこの小さな町内までしかない私にとって、他のボーカロイドはおろか同じ20代の人とも交流を持つのはあり得ないことです。あっ井戸端会議はよくしますよ?隣のおばちゃんとかと。
ならばマスターしか接点はないのですが・・・、リンとレンのマスターであろう男の人は服装を見た限り学生さん。もうすぐ三十路を迎えるマスターと接点のせの字も無さそうな感じです。もしや、甥さんとか親戚の関係でしょうか?
「すっごーい!本当にめぇちゃんだ!」
私の思考をぶった切ったのは、元気なリンの声でした。レンも興味がありそうにはにかんだ笑みで傍に寄ってきています・・・とレンに気を取られた瞬間には、私の手はリンの紅葉のようなか愛らしい両手にがっしりと捕まっていました。
「知ってるかもだけど、アタシは鏡音リン。リンって呼んでね、めぇちゃん!」
「レンです。あの、僕もめ―ちゃんって呼んでいいですか?」
「え、ええぇえ?!なななっ何なのいったい!」
天使みたいに可愛い2人に挟まれて、恥ずかしいやら照れ臭いやらあわあわする私を男の方は「こらこら、あまり困らせてはいけないよ」と言葉で停止を掛けていますが、状況を楽しむように微笑んで突っ立ったままなので止めようという意思が感じられません。
「成程成程。流石メイコさんはモテモテですね」
「何が成程なのですか!そもそもどちら様ですかあなた方は!」
「おや。もしかして連絡が来ていませんでしたか?・・・一昨日確かに、電話で確認を取ったはずなのですが」
「え?」
落ち着いたテノールの声音で男の方が首を傾げ、片手で顎を押さえて困ったようなポーズをとります。そしてびっくりするほどに、その姿がよく似合っています。モデルさんなのでしょうか・・・じゃなくて、私は一昨日に電話を取った記憶が無いのですが、まさか・・・。
「メイ、どうかしたか?」
何も知らなさそうな暢気な声を出してやって来たマスターを、私は疑惑の意味を含めてしっかりと睨みつけました。
「マスター・・・、お客さんが来るなら事前に言っておいてってあれほど言ったでしょっ!」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

他愛も無い話〈c〉

前のバージョンで、続きますよ。

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閲覧数:506

投稿日:2010/06/09 01:34:32

文字数:3,251文字

カテゴリ:小説

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  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想

    こんにちは、さいきん週末くらいしかパソコンに触れない時給です。投稿されたその日に(携帯で)読ませて頂いたのですが、感想が遅れて申し訳ないのです orz

    やはー、これは何とも可愛らしいメイコですなー。
    僕がメイコを書くと、どうしても姉御肌というか雄々しい感じになってしまうので、こういうガラッと違うキャラクターを見せてもらえるのは大変参考になりますです、はい。
    落ち込んだり迷ったりテンパったり、臨場感あふれる丁寧な心理描写にニヤニヤさせて頂きましたw
    というか最後のセリフは何だ、最後のは。しっかり起きてんじゃんww

    あえて名前を出さない所が小憎らしい(笑)ところですが、この鏡音マスターって、もちろん彼ですよね!
    リンとレンのセリフの中で「KAITOと籍どころか墓まで一緒に入れちゃいそうな勢いの人」というのも、当然彼女のことですよね! というかこのセリフ、盛大に吹きました。なんと素晴らしいファンサービス (^ω^)
    読み始めた時は独立した短編かと思っていたのですが、彼や彼女が登場してきたという事は、この異国人のメイコマスターも本編に絡んでくるのでしょうか?
    うん? ということは、メイコの前のマスターって? 今のところ初音ミクと言えば、あの柏餅なネギ娘しかいないが……?

    なんだか色々と面白くなってきましたね。これは次回が楽しみです。
    小ネタも満載で、片っ端からツッコミ入れて行きたい所なのですが、それをやると1000文字じゃ足りなくなるので自重。でも、たいてい拾えてる自信はあります! ( `・ω・´)
    次回も楽しみに待たせて頂きますね。長文失礼しましたー。

    2010/06/11 19:53:39

    • 秋徒

      秋徒

      時給310円さんへ
       こんばんは時給さん!週末しかパソコンに触れないとは、お忙しいところにありがとうございます(*´`*)

       いやいや、もはやただのキャラ崩壊ですよw 兄さんや双子やネギ娘が思ったより普通のキャラになってしまったので、メイちゃんはイメージを崩したかったんです← 
       一人称はキャラの気持ちをダイレクトに伝えられるいい手法ですけれど、なかなか扱いが大変でした(; 時給さんみたいにはまだ上手く書けないみたいです^^;

       今回はメイちゃんと外人マスターさん主体(外伝?)の短編なので名前を出しませんでしたが、間違いなく彼等ですww あ、一応柏ネギ娘のマスター≠メイちゃん元マスターのつもりでした(・ω・`;) 上手く小説内で書けたら良かったのですが、ボカロに関係無さすぎる話ができてしまいそうなので…って今更ですかw←

       次回こそは一ヶ月以内に!っと考えてはいるのですが…小川未明文学賞への投稿がもうすぐで、暫くはそっちにのめり込んでしまうかもしれませんoz2 でも待ってくださる読者様、具体的には時給さんのため、気合い入れて仕上げます!(`・ω・´)
       長文ですみません。この度も読んでいただきありがとうございました!

      2010/06/12 00:55:50

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