『ちょっとヤンデレ・リンレンのちょっといい話』(前編)の続き


                         第3章 すれ違い

あれから半年が経った。俺はこの日を楽しみにしていた。

結局あの後、四日目の朝は容赦無くやってきて、リンは北の港街に旅立っていった。
俺は、テトおばさんの家でブルーベリー農園を手伝いながら暮らしている。お母さんの遺産が入ったとかで、俺は学校に行かせてもらえるようになった。新しい毎日は楽しかったが、やっぱりリンの居ない寂しさは拭い切れなかった。
リンとは毎日手紙を交換している。リンの里親は老夫婦で、リンをとても可愛がってくれているようだ。リンも学校に行き始めたみたいで、毎日が充実していることが手紙から伝わってくる。

そして、今日12月27日、俺は列車に乗って北の港街に向かっている。
手には、満開のパンジー。そして、『ハッピーバースデー!リン』と書いたバースデーカード。
そう、今日は僕たちの誕生日だ。今日のために俺は、パンジーを育て、ブルーベリー農園を手伝って小遣いをコツコツ貯めた。
もちろんサプライズだ。
リンの喜ぶ姿を想像するだけで、思わず嬉しくなる。

北の港街の駅に到着し、列車を降りる。
磯の香りがした。
そこは村とは違い、大きな港街で、石畳の道に石造りの建物が立ち並んでいた。そして、目の前には、大きな海が青くキラキラと輝いていた。
「おぉおおお―――!!海だー!」
生まれて初めて見る海に俺のテンションは跳ね上がる。
『きっとリンも初めて海を見た時はこんな反応をしたんだろうな』
とか考えると、今日半年ぶりに会えるのが更に嬉しくなった。
ただ、それと同じくらい、不安にもなった。俺はリンの事なら何でも知っていた。でも、俺はリンが初めて海を見た時の反応を知らない。この半年間、リンが何を見て、何を感じたかは手紙で送られてくる内容しか知らないのだ。
期待と不安で高鳴る鼓動を抑えながら、俺はリンの家を目指して歩いた。


「あぁ、その家なら、この商店街を抜けて、すぐの所だよ」
「ありがとうございます」
商店街に入った。流石は大きな街なだけあって、すごく人で賑わっている。
俺は人を必死によけながら、教えてもらった方を目指して歩いていた。

すると、花屋の前。見覚えのある黄色い髪に大きなリボンを付けた女の子がいた。
「あ、リン!」
嬉しかった。半年ぶりにやっと会える。話したい事が山ほどある。この半年間がどれほど長かったか。待ちに待ったこの時、声をかけようとした瞬間、俺はその場に凍りついた。

リンは、横にいた同い年位の男の子と楽しそうに買い物をしていた。

この瞬間、俺は全てを理解した。
声をかけずにその場を去り、帰りの電車に飛び乗って、外を眺めながら泣いた。泣きたくないのに涙が次から次へと溢れ出した。
分かっていた事だった。いつかはこうなると思っていた。でも、俺は心のどこかでずっとそれを拒否し続けていた。

家に帰った僕は、リンへの最後の手紙を書いた。

『愛するリンへ。
リン、ごめん。もう僕たちはお互いの事を忘れたほうが良い。お互い、次のステージに進まなくちゃいけない時が来ている気がするんだ。だからもう、手紙は止めよう。俺はずっと君からの手紙を待ってしまう。もうこれから先、会うのも止めよう。俺は会うと絶対に君の事を好きになってしまう。俺のわがままでごめんね。世界で一番幸せになってほしい。世界で一番愛しているから・・・・レン』

この日以来、俺はリンに手紙を出すのを止めた。ひと月位はリンから手紙が来ていたけれど、俺は無視をし続けた。



                             第4章 再会

僕は今、手にパンジーの鉢を持ちながら、15歳のあの日以来、60年ぶりに北の港街に向かう列車に乗っている。

 僕は、ごく平凡で幸せな人生を歩んで来たと思う。学校を卒業し、音楽の教師になった僕は、職場で出会った女性と結婚し、3人の子供、6人の孫に囲まれながら、今も幸せに暮らしている。
5年前に妻に先立たれてからは、庭でパンジーを育てながら、ゆっくりと余生を過ごしている。
そんなある日、テトおばさんの孫娘が、僕宛の手紙が届いているからと持ってきてくれた。
「お葬式の案内・・・?」
そこに、書いてあったのは、リンの訃報とお葬式の案内だった。

 僕が結婚して3年経ったある日、一度だけ、テトおばさんの家に、僕宛にリンの結婚式の案内状が届いた事があった。僕はもちろん行かなかった。式に出席したテトおばさんは「リンちゃん、綺麗だったわよ。貴方が来てなくて残念そうだったけど、貴方が元気に頑張っている様子を伝えると、すごく嬉しそうにしていたわ」と言っていた。

リンの花嫁姿、見たかったなぁ・・・。

そんな事を考えていると、列車は北の港街の駅に到着した。
60年前と変わらない磯の香りがする。
石畳の街を、片手でパンジーの鉢を抱え、片手で杖を突きながら、ゆっくりと歩いていく。
『リンに会える!やっとリンに会える』
この歳になっても、60年前と変わらない気持ちが僕の足を急がせる。
商店街を抜け、花屋の前を通り、僕は初めて、リンの家にたどり着いた。
海とは反対側の、小高い丘にある小さな家だった。
「はぁはぁ・・・ここか・・・」
呼吸を整える。歳を実感させられる。

受付を済ませ、中に入る。

広いフローリングの洋室の奥に、棺が安置されている。

ゆっくりと棺に近づく。

一歩ずつ近づく度に、僕は60年前のあの頃の僕へと戻っていった。

そして僕は、ついに棺へとたどり着いた。
そこに居たのは、黄色いチューリップに囲まれた、75歳の僕にそっくりなおばあちゃんだった。

「あの、レンさん?」
後ろから声がリンの声がした。
振り返ると、そこには14歳のあの時のまんまのリンの姿があった。
「リン・・・?」
「あ、私はリンおばあちゃんの孫娘のエレン。貴方はレンさん?」
「あぁ、そうだよ。僕がレンだ」
「よかったぁ!もう来ないのかと思っちゃった。こっち、こっち来て」
そう言うと、リンそっくりな孫娘のエレンは、僕の手を引いて、窓際へと連れていった。
「?エレンちゃん?どうしたんだい?」
「おばあちゃんからの遺言。『私そっくりなレンって人が来たら、庭を見せてあげて』って」
そう言うと、エレンはカーテンを勢い良く引いた。



そこに広がっていたのは、庭一面の黄色いチューリップの絨毯だった。



「・・・これは」
「そして、こう言ってあげてって『レン、誕生日おめでとう。今まで贈れなかった分の誕生日プレゼント。私は世界で一番幸せだったよ。ありがとう。ただ、レンと一緒に居れたらもっと幸せだったけどね。バカレン!』だってさ」
「・・・・」
「おばあちゃん、よくチューリップの手入れしながら言ってたんだよ。『私、パンジーの方が好きなの』って。私聞いたの『じゃあ何でチューリップ育ててるの?』って。そうしたら『60年位前、大好きな人の誕生日プレゼントに買ったチューリップをその人に渡せなくてね。幸せな人生だったけど、それだけが心残りなのよ』って笑ってた」

「・・・・・・エリンちゃん」
「・・・?なに?」
「おばあちゃんに伝えておいてくれるかい?」
「何を?」
「『プレゼント、確かに受け取ったよ。ありがとう』って」
「わかった」



 確かに、僕の人生は幸せだった。
でも、もし、次の人生があるのなら、僕は幸せになれなくてもいいから、どんな方法であろうとも、リン、君と一緒にいられる人生を選ぶよ。
ごめんね、リン。ありがとう、またね。



海を見渡せる丘の小さな家。
その庭ではチューリップとパンジーが寄り添うように、風に揺れていました。
                                              
                                             【おわり】

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ちょっとヤンデレ・リンレンのちょっといい話(後編)【オリジナル小説】

ちょっとヤンデレ・リンレンのちょっといい話(前編)の続きです。タイトルとかちょっと危ないから、消されるかなー(・_・;)消されたくないなー(・_・;)僕なりの愛の形です。鏡音さんは過去を想像すればするだけ、今一緒に居てくれるのが嬉しくなります。もっと、いちゃみね作品が増えればいいのに!むしろもうチューすりゃええねん!ちゅー!(゜Д゜)失礼、取り乱しました_(._.)_最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。

閲覧数:3,676

投稿日:2011/08/06 06:54:53

文字数:3,415文字

カテゴリ:小説

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