「天鳩(ミク)お姉ちゃん……どうしているかな?」
ふいに、鈴が呟いた。先ほどから、遠くを見るような目をすることが多かったし、ずっと、考えていたのだろう。
もう、海は静まっているとはいえ、その気持ちは、蓮にも、痛いほど、よくわかった。
「どうだろうな」
ただ、だからこそ、安易な答えは返せなかった。
「この道があれば、迷わないよね」
「うん。大丈夫さ」
不安を隠して、明るく言った鈴に、そう答えて、蓮は、心の中で、もう一度、繰り返した。
「大丈夫だ。神子付きの守り手が勤まるんだから」
「うん♪ 天鳩お姉ちゃんは、空の国で、一番、強いの! 広い音域と舞の華麗さ。どれをとっても、満点なの♪」
蓮が、言葉を噛み締めるように言うと、鈴は、顔を輝かせて、天鳩のことを語り始めた。自分のことのように、誇らしそうに、声が弾んでいる。
「蓮の守り手さんは?」
「海渡も強いよ。声量だって、あるし、舞の切れもある。頼りになる守り手だ。鈴に逢いたがっていたよ」
「本当!? 私も、逢いたい!! 楽しみね♪」
「そうだな」
嬉しそうに、はしゃいだ声で、鈴が言う。きっと、あの守り手に、返しても、同じような反応がかえってくるだろう。そんな二人だから、きっと、すぐに打ち解けて、楽しそうに、戯れるのだろう。
「もしかしたら、天鳩お姉ちゃんたち、光の道で、ばったり、逢っているかもね」
「そういえば、そうかもな」
そう言って、はたと、蓮は、嫌な予感を覚えた。
しかし、頭を振るって、打ち消すと、光の道を見上げた。
そして、鈴の予想通り、その光の道で、海渡と天鳩は、ばったり、逢っていた。
さらに、蓮の嫌な予感通り、二人は、睨み合っていた。最も、睨んでいるのは、もっぱら、天鳩だけなのだが。
そこに至るまでの海渡の道筋を、少し、遡(さかのぼ)ろう。
「異変発見」
海九央(ミクオ)の、さほど、大きくない声で、ちょうど、ぶつかり合って、距離をとった二人が、一斉に、海九央を見た。
「何!? 何が起きたんだ!?」
「空に、光が走った」
海九央が片手で、水を切って見せる。
「光の道?」
空を仰いでから、海渡が、静かに、尋ねた。
「かも。一瞬で、消えちゃったけどね」
「方角覚えている?」
「もちろん」
「それは、ありがたい」
事も無げに、頷いた海九央に、海渡は、いつもと同じように、微笑んだ。
「何なんだよ? 光の道って!?」
「さぁ、何でしょ~」
いらただしげに聞く澪音(レオン)に、海渡は、両手を開いて、そう言った。
「そこに、蓮が、蓮たちが向かっているのか!?」
「光の道。三つ目の月」
海九央が歌うように言った。
「それって………楽歩への導(しるべ)!?」
「さっき、三つ目の月が浮かび上がった。あれ、蓮たちだったよ」
あっさりと言った海九央の言葉に、さすがに、海渡も、澪音と同じように、目を見開いた。
それから、海渡は、苦笑して、澪音は、さらに、不機嫌そうな顔をした。「お前、そんな肝心なところ見ていたんなら、さっさと、報告しろよ!!」
「あぁ。あの時、思いっきり、撃ち合いが末期だったから、報告したら、身体に、一箇所くらい、穴があきそうだなぁと思って」
さらりと言った海九央に、澪音は、何か、考えるように、銃を回した。
「あああああぁっ!! ………くそっ! わかった!! 順調なんだな!? よしっ! 水の国は、俺が、誤魔化しておく。だから、海渡は、蓮たちを追えよ。海九央。道知っているんだし、お前も、一緒に行け。何が、起こるか、わかんねぇ。隠密は、お前が一番、得意だろう」
そして、銃を放り出すと、大きな声で、叫んだ。それから、顔を上げると、一気に、まくし立て始めた。そして、さっさと、銃を回収した、相棒の飛魚、浪音(ろおん)に飛び乗った。
「ありがとう。澪音。澪音なら、絶対、分かってくれると思っていた」
今にも、水の国に、翔け戻りそうな澪音に、海渡は、微笑んで言った。
「俺たち、みんな、生まれた頃からの付き合いだろ?」
ニヤリと笑うと、澪音は言った。そして、そのまま、浪音に乗って、翔け出した。
「うん。最高の仲間だよ」
海渡の声は、ことさら、大きくはなかった。でも、澪音は、後ろを振り返らないまま、天に向かって、一発、銃を放った。
「行動開始」
「うん。蓮君たちのあとを追おう」
海渡と海九央も、それぞれ、相棒に乗って、翔け出した。
そして、やっと、海は、静かになった。
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