ひゅう、と横を通り抜けた北風に、思わず首をすくめた。
寒い。もう春だというのに。
「今日最低気温1℃だってー」とすぐ下の妹が言っていたことを思い出し、俺はマフラーをきつく巻き直す。
何もこんな日に、外でのPV撮りをしなくても。
吐息まじりの文句を呟くと、白くなった息がじんわりと散っていった。
「お待たせ」
背後から呼びかけられた声に、喜び勇んで振り返る。
そして、俺は目を見張った。
「…めーちゃん」
「あら、スーツなのね。似合うじゃない」
「あ、ほんと?一応髪型もリンにやってもらって…って、そうじゃなくて」
「なによ」
「なに、その格好」
彼女は細身のドレス姿だった。
エレガントな印象のそれはフリルやレースを極力抑えた大人っぽいもので、彼女によく似合っている。
軽く横に流すようなスタイリングと赤いピアスがドレスに映え、はっきり言ってものすごく綺麗だ。本当にこの人が俺の恋人なのかと頬をつねりたくなるほど。
しかし、今問題はそこではない。
…彼女の今の格好は、ベアトップのドレスにストールを巻いただけ。
つまり、相当な薄着だ。
「え?何か変?」
彼女はその場で一回転してみせた。
スリットの入った赤いドレスがひらりと舞う。一瞬だけ白い腿が露わになり、ぐらつきかけた理性を必死で立て直す。
「いや、変じゃない。もちろん変じゃないけど…薄着すぎる、風邪引くよ」
「だってコート着ると後ろが崩れちゃうのよ」
ほら、と彼女が後ろを向く。
ドレスは背中の半分まで大きく開いたデザインで、黒いリボンが背中でクロスしている。
白い肌に黒いリボン。そのコントラストが、なんていうか、エロい。
頑張れ俺の理性。夜まで耐えろ。
「それに、すぐ本番でしょ?」
「そうだけど…」
「大丈夫大丈夫、そんなにヤワじゃないから」
―― どうしてこう、彼女は無理をするんだろう。
はぁ、と俺は彼女に気付かれないようにため息をついた。
『大丈夫、気にしないで、平気だから』
いつもいつも、彼女の口から出る言葉はこんな言葉ばかりだ。
俺の前では弱音だって愚痴だってなんだって言っていいのに。もっと頼ってくれていいのに。
今だって、声が震えてるじゃないか。
「…めーちゃん、マフラー貸してあげる」
「えっいいわよ、そしたらあんたが寒いじゃない」
「寒くないよ、ほら」
ふわり、と彼女の肩にマフラーを巻く。片端は彼女の胸元に。そしてもう片端は俺の肩に。
「ほら、あったかい」
「…ん」
ひとつのマフラーを共有すると、彼女との距離が近付いた。
俺の真下で、ありがと、と彼女が呟く。
意地っ張りな所も可愛いけど、恥ずかしそうにお礼を言ってくれる彼女もものすごく可愛い。
一度思ったままそんなことを口にしてしまったら、顔を真っ赤にしてしばらく口を聞いてくれなかったので、心に留めておく。
「…じゃあ、お礼はキスでいいよ?」
「…ばか」
そっと鼻先をくっつける。
目を閉じて、んー、とわざとらしい声を出すと、彼女が可笑しそうに笑った。
へたれでもいい。情けなくてもいい。
彼女が笑ってくれるなら。
だって出会ってからずっと、俺はこの笑顔のために生きているんだ。
【カイメイ】ほんとは寒がりな君に
gsnさんの麗しいカイメイイラストを見て、吐血したので。
感情のまま書いていたら、カイトがひたすらめーちゃんを好きだというポエムになりました。
カイトがへたれぶってるのは、意地っ張りなめーちゃんに気安く頼ってほしいっていうポーズでもあるんだよーということが伝われば幸いです。
いやまぁ多分元々へたれなんだろうとも思うんですけどw
へたれ紳士(たまに変態)×意地っ張り。
おいしいです。
とことんカイメイはおいしいです。
gsnさんの美麗イラストはコチラから→http://piapro.jp/content/3yqsfkmxdhedjd2b
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そういえば去年のこの日...【カイメイ】あなたのからだが甘いわけ【MEIKO生誕祭】
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「ありがと」
彼から手渡された赤いマグカップからは甘い香りが漂っていた。
息を吹きかけ、一口啜ると舌先にほのかな暖かさが広がる。彼が淹れてくれるココアは甘さも温度も丁度良くて、申し訳ないとは思いつつも作業中はついついリクエストをしてしまうことが常だった。
「終わりそう?それ」
...【カイメイ】ゆきのひ
キョン子
力強い低音。
透き通る高音。
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