終わった。任務終了だ。
後はこの途方も無い高さの空、成層圏から降りるだけだ。
ストラトスフィアの姿が遠のいていく・・・・・・彼らは何所へと向かうのだろうか。
「ミク・・・還るぞ。」
「ああ・・・。」
俺はレバーを倒して機体の角度を下げた。
ミクは軽やかにウィングを翻した。
大空を自由に舞う、黒い天使、か・・・・・・。
正直に言うと、俺はもう少しだけ、この空を飛んでいたかったのだ。
ミクが飛ぶのが好きという理由が、少しだけ分かった気がした。
「よし。始めろ。」
「了解しました。」
「?」
俺は突然、計器類から異常を感じ取った。
鍛え抜かれた観察眼でコックピットを見渡すと、一瞬でそれを発見した。
レーダーの画像が乱れている・・・・・・。
どうしたものだろうか。この機体の最新式のアクティブ・フェーズドアレイ・レーダーは過去に一度も異常が発生することは無かった。それはどのような環境下でも同様だった。
「こちらソード1。司令部へ。レーダーに異常発生。」
この状況を俺は司令部へと伝えた。
「・・・・・・。」
しかし、応答する気配が無い。
「こちらソード1。繰り返す!レーダーに異常発生!」
「――――――――え・・・・・どうし・・・・・・・・。」
俺の耳に帰ってきたのは耳障りなノイズと、その中にわずかに聞こえるオペレーターの声だった。
何ということだ。
無線機も故障している!
しかし、そう決め付けるのはまだ早かった。
俺は多目的コントロールパネルで機体の異常を調べて回った。
しかし、無線はおろか、レーダーさえにも異常は見当たらなかった。
「・・・・・・隊―――――これは、――――――。」
「ミク、ミク!」
「た―――長・・・!」
どうやら、ミクも同じ状況下らしい。
まさか・・・・・・。
俺は、今自分達を襲っている異常の正体を察知した。
ジャミングだ!
ということは、俺達は・・・・・・!
「まんまと引っかかってくれたようだな。」
「敵は二機だ。この前のようにはいかん。」
「袋のネズミというわけだ。」
「こちらには強化人間が付いている。彼らならやつらを墜とせる。」
「あの黒いエンブレム・・・・・・今度こそ!」
「ミク!急降下だ!今すぐ逃げろ!!」
「――――え・・・・・。」
無論、ミクに伝わりはしなかった。
レーダージャミングと妨害電波・・・・・・興国の電子戦機か。
ミサイルによる長距離攻撃が可能になった現代戦闘機の空中戦において、レーダーはパイロットにとって目の代わりといっていいだろう。
この「目」が無ければ、索敵も、攻撃も、後ろから迫りくる敵機にも気づけないこととなる。今の俺とミクがまさにその状態だ。
そうなれば当然、目の見えなくなった俺達を狩りにくる連中がいる訳だ。
「隊――――・・・・・・!」
早速来たか・・・・・・。
ミサイル接近を伝える警報装置だけは、ジャミングの影響を受けないことに感謝した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!
「GP-1。何をしている。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!
「おい、機体から降りろ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!
「あっ!待て!何をする!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!
「どうした!」
「ゲノムパイロットが!こいつ急に・・・・・・!」
「こいつ発進する気だ!!」
み・・・・・・・・・・く・・・・・・・・!
「コントロールへ。配備予定の強化人間が発進しようとしている。」
「こちらコントロール。確認した。」
「大変です!機体後部のハッチが!」
「何だ?!」
「外部からのアクセスで、こじ開けられています!!」
・・・い・・・・・・かな・・・きゃ・・・!
「止めろ!GP-1!戻れ!!」
「ハッチが開いていく!!」
「に、逃げろ!!!」
「D-09空域にて異常発生!ソード1とソード5をレーダーからロストした。状況確認のため、シック2とシック4を発進させる。」
くそっ。目視で見える範囲ではかなりの数だな・・・・・・。
どうやら、今は星も味方らしい。
視界を確保させてくれるだけでは物足りないが。
「隊――――後ろ!!!」
ミサイルを回避されると知った敵は機銃での攻撃を開始した。
だが、俺に命中することは無い。
俺のほうは弾丸が次々と敵機を引き裂いていく。
この超高度になれないせいか、相次いで敵が失速していく。
そこを俺がM61で仕留める。ジャミングの影響でミサイルが使えない。
ミクのレールガンも封じられている。
それでも、たまには機銃のみの戦闘もいい。
半世紀以上前ぐらいではこれが空中戦闘の基本だった。
機銃のみの戦闘。最高にスリリングじゃないか・・・・・・!
「何だ?!」
突然、目前にいた数機のSu-35が爆発した。
ミサイル攻撃だ。
その瞬間、俺の視界全体に見覚えのある機体が映った。
01のテールアート・・・・・・まさか!
「GP-1?!どうしてここに!!」
聞こえるとは思わなかった。
彼は驚くほど軽快な空中機動を見せつけ、ミサイルで敵を落としていく。
この状況下でミサイルが放てるということは、コフィンシステムによるものか。
そして次にまた信じられない光景が目に映った。
敵機が半分に、まるで鋭利な刃物で切り裂かれたようになっていく。
一機、二機、三機、逃げる隙を与えないかのように・・・・・・!
すると、視界に翼のようなウィングが現れた。
紫が基本の塗装、ミクと同タイプのアーマーGスーツ。
巨大な紫の鎌のような武器を手にしている
アンドロイドだ。こいつは・・・・・・。
「ソード1、ソード5へこちらシック4。これより援護します。」
この律儀な口調。そしてシック4といえば・・・・・・。
病音ヤミ!
向こうにはシック2、呪音キクの姿も見える。
ヤミの鮮明な声が耳に入った。
「こちらに赤外線通信機があります。これなら妨害電波の影響を受けません。ですが、こちらから話すことしかできません。今、水面基地へ戦闘が発生していると報告をしておきました。あと数分で援護部隊が到着します。貴方達は先に帰投してください。」
確かに。
もうすぐ弾薬がそこを尽きる。ミサイルがウェポンベイに六発あるが使い物にならない。それなのに敵は次から次へと押し寄せる。ここは逃げるしかない。
俺は一気に高度を下げた。
ミクも同じように高度を下げる。
それを追いかける敵が、ヤミの巨大な鎌と、キクの大剣の餌食となっていく。物凄い戦術だ。戦闘機では到底真似できない。第一接近武器を装備することはありえない。
とにかく、彼女達は一騎当千の力を持っている。
まさに、俺達以上の戦力だ。
おそらくミクオも、これほどの力を持っていただろう・・・・・・。
俺達は、成層圏を後にした。
敵のジャミング電波が消えた。計器も無線も何事も無かったかのように正常に作動している。
肩から力が抜け、脱力感が体に溢れた。
あれから何時間経ったのか、空はもう白んでいる。
GP-1はストラトスフィアに戻り、俺達の隣にはヤミとキク、援護に来た麻田達が飛んでいる。
俺は、あることを思い出した。
「こちらソード1。シック2とシック4へ・・・・・・援護を感謝する。基地に還ったら、改めて礼を言わせてもらうよ。」
「・・・・・・はい。」
それは、たおやかな響きだった。
「隊長!俺達にも言ってもらいたいね。」
と、麻田がしゃしゃり出てくる。
「そうだな。礼を言うよ。」
「秀・・・・・・。」
俺の返事に、驚いた様子で、麻田が久しぶりに俺の名を呼んだ。
「隊長。」
「どうした、ミク。」
「太陽が・・・・・・きれいだ。」
東の空から、眩しい陽光が差し込み始めていた。
「ああ・・・・・・そうだな。」
「フンッ!!」
「かっ・・・・・・」
「てッ!!」
「うぅ・・・・・・。」
「まったく、勝手なマネしやがって、本当にイライラする・・・・・・!!」
「ご・・・ごめ・・・んな・・・・・・さい。」
「あぁ?聞こえねーんだよ!!!」
「うあぁ・・・・・・!」
「たかが道具の癖に、感情なんか持ちやがって・・・・・・お前も量産型みたいになればよかったんだ!!!」
「・・・・・・。」
「殺してやりたいとこだけど、お前にはこれから殺してもらわなきゃならないからな。」
「・・・え・・・・・・?」
「おい。僕たちの攻撃目標のデータを出せ。」
「はい。」
「いち、にぃ、さん、し、ご・・・・・・六つか。こりゃ三日かそこらで終わりそうだ。ラースタチュカの画像は?」
「まだ受信していません。現在、興国上空宙域へ移動しています。」
「急がせろ。」
「はっ。」
「もう今すぐにでもやれないのか?」
「開始予定時刻は、今日の09:00時です。それまでは待機せよとの命令です。」
「あと五時間か・・・・・・あー待ち遠しい。はやくパーッとやりたいのに。それまでこのイスでゆったりしているかなーっと。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぼ・・・・・・く・・・・・・・・・が・・・・・・・・・こ・・・ろ・・・・・・・・・す・・・・・・?」
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