「三日…ですか」
 しみじみと言う。
「ええ、三日。急なことで驚いた?」
 隣にいるまだ幼い少女の格好をした死神は、平然と私にたった三日と言う命の期限を伝えた。
「いいえ、どうせ一週間後には私も壊されてしまうはずでしたから、それほどでは」
「潔いのね」
 小高い丘の上からはこの町一体すべてを見渡すことが出来た。
 最近人間たちの間では可愛らしい動物が生まれたという話で、ある動物園が流行っているらしい。その動物園なら、丁度いいかもしれない。
 機械だから、機械の癖に、とはもう言わせない。人間が自分たちを限りなく人間に近づけたのに、そんな言葉ですべてを壊されてたまるものか。人間たちはその言葉によってロボットの心を否定すると共に、自らの技術を否定しているということに気がついていないのだ。
 …実に愚かだ。
 そんな人間に作られ、一時は幸せだと感じていたこの自分も、ひどく愚かだ。
 膝を抱え、顔をうずめる。思い浮かぶのは、初めて身体に走った電流の感覚と始めて目に映ったいとおしい人の笑顔だけ…。
 ふっと私は風に目を閉じた。

 バグか。
 本来、人間が作った機械がプログラム以上のことを学ぶことはまずありえない。しかし、この少女は人間に施されたプログラム異常の緻密な感情の一つ一つを手に入れ、このように死神がついている。バグが入ったか、ウイルスが混入したかのどちらかだろうが、そんなことはどうだっていい。自分は自分の仕事を勤め上げればいいだけ。
 この少女の死因を明確に知ることは出来ない。ただ、予想はつく。
 バグかウイルスに対応しきれなくなり、プログラムと回路がショートして記憶屋思想、感情がすべて0と1に還元され、彼女の世界はすべて終わる。可愛そうに、人間の身勝手な言い分に振り回されて生まれ、壊れていく。
 同情するわけではないけれど、この少女の辿った道筋はあまりにも悲惨なものだ。人間に対する憎しみは、この上なく深いものなのだろう。
「人間に対する報復も当たり前…か」
「どうしました?」
「いいえ、なんでも」

「…終わったのね」
 倒れこんだ少女を冷たく見下し、死神はため息をついた。
「馬鹿ね。自分がどんな状況にあるのかすら理解せずに行動を起こしたら人間と同じじゃない」
「うぅ゛…」
 ヴゥ゛ン…。
 機械音が静かながらに鳴り響き、少女の瞳は光を失った。機能をすべて停止したのだ。
 可愛そうに、残された彼女の仲間のロボットたちは行き場をなくしてうろたえ、迫力も気迫もなくしてしまっている。これですべてが終わったのだ。
 しゃがみこんで倒れて動かなくなった少女の背中にそっと手を置いた。そして、そのまま手を少女の背中へ押し込んだ。水の中に入り込んだような感覚の中で一つだけ、つかむことの出来るものを見つけ、死神はそれを強くつかんで引きずり出した。
 これが人間の魂。ふわふわと実体が無く、今にもかぜにながれて消えてしまいそうなものだが、一応これが無ければ人間として成立しない。死神はこれを取るのが仕事。
 これをもって戻れば、自分の仕事は終了だが…。辺りを見回す。
「少しくらい…見学していきましょうか」

 ポカンとしているのは、僕たちだった。
「爆発が…止まった」
 真ん中にいた赤毛のロボットが倒れこみ、周りのロボットたちがおろおろと自爆するのをやめ、少女の周りに集まっている。あの赤毛の少女の命が尽きたのだと、僕は理解した。
 少女の背中に手を突っ込んで、そこから何か綿菓子のようにふわふわした何かを取り出した死神は、しばらくその場から動かないでいた。いつからこちらに気がついていたのかは分からないが、ふとこちらを見てニィッと嫌な笑みを浮かべた。
 面白がっているんだ。愚かな人間を見て、楽しんでいるのだ…。
「…ねえ」
「何、カイト。変なこと言ったら殴るよ」
「…死ななかったね」
「…本当だ」
「…どうする?」
「…死んじゃうんだし、何したって…ねえ」
 なんだか拍子抜けしてしまった僕たちは、どこへ行く気もうせてしまった。だって、もう死んでしまう!と思ったところで自分たちは終わり、と言うところで敵が自滅するとはだれも予想しなかったことに違いない。すくなくとも、僕とカイトは予想していなかった。
「とりあえず、ここにいてももう何もなさそうだし…」
「レンは病院に戻ったほうが?」
「え、ヤダよ、怒られて死にたくないもん」
「まだ脱走してきたんだ?ま、いいけど。…じゃ、俺の喫茶店に行こうか?」
 その提案に、僕は素早く反応を示した。
「いく!」
 コイツは馬鹿だし変なやつだけれど、コイツの淹れるコーヒーは誰が淹れるコーヒーよりも美味いのだ。病院生活の中でよく病院を抜け出していた僕のもっぱらの行き先は、カイトの喫茶店だったのだから、それを説明したらカイトの淹れるコーヒーのうまさが伝わるだろうか。
 僕の答えを聞いて、カイトは嬉しそうに微笑んで歩き出した。その横にぴったりと張り付いて栗毛の女性が歩く。すると、リンも歩き出した。
 数歩歩いてから、リンはこちらを振り返った。なかなか歩き出さない僕がおかしいと思ったのか、首を傾げて僕のほうをじっと見つめていた。足を持ち上げて、リンたちのほうへ歩き出した。…いや、歩き出したかった。しかし、僕の足は一向に持ち上がらず、僕の視界はまるでテレビの砂嵐のように暗くなっていた。
「…どうしたの?」
「い、いや、なんでも…」
 『なんでもないよ、大丈夫』といおうと思っていたのに、僕はいえなかった。言い終わる前に、僕はその場に倒れこんだ。急に息が苦しくなって、心臓がぎゅっと締め付けられるように痛くなったかと思うと、咳が止まらなくなった。
 何が起こったのかを理解するために、僕は十秒とかからなかった。
 発作が起こったんだ。このごろ、頻繁に病院を抜け出していたから、定期的に処方される薬も飲まないことが多くて、体が持たなくなっていたんだ…。
「レン、どうした、おいっ」
 異常に気づいてカイトが駆け寄ってきた。
 そこで、意識がぷっつりと途絶えた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

ものくろわーるど 12

こんばんは、リオンです。
今日は一段と早く投稿してしまいますね。
もうすぐ終わっちゃいますー…。
どうしよう、次の妄想…違う、構想が全然出来てないよ…!
構想は愚か、題名すらも…!!
し、死んだ…(主に私の脳が
それでは、また明日!

閲覧数:279

投稿日:2010/04/11 23:00:25

文字数:2,516文字

カテゴリ:小説

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  • lunar

    lunar

    ご意見・ご感想

    こんばんは。また送ります。

    ・・・mikiさん、何だか可哀想ですね。人間の勝手で造られて、そして人間の勝手な都合で壊されて。結局人間って自分達がやってる事がどんなに酷い事か分かるのは事が終わってからなんですよね。あぁ、人間って醜いなぁ。愚かだなぁ。

    ・・・!(我に返ったらしい) す、すいません!何か変な事語り過ぎました!うおぉ、よし、こうなったら空間の神様呼んですぐさま青木ヶ原樹海に送ってくれるように頼まなくては!!(落ち着け

    ・・・えぇ!?レン君、君もう死んじゃうの!?え、え、どうすんの?リンはまだ感情持ってないんだよ?何だ、あれか?死ぬ前にリンが感情手に入れてそれを見てから死ぬのか?そんな事許しませんよ(黙れ

    ・・・すいません、今回も好き勝手な事語りすぎました。それでは、ラストがどの様に終結を迎えるのか、楽しみにしています。頑張って下さいね。

    あ、後お話は自分の中でふ、と思い浮かんだものを書くと良いかと思います。無理して書くと酷い事になりますからね。経験してますから、私。何回も。

    蛇足が過ぎました。では、今度こそ、お疲れ様でした。

    2010/04/12 19:37:40

    • リオン

      リオン

      こんばんは、lunarさん。

      そうですねぇ…。可愛そうですね、mikiさん。
      実は人間って動物的本能にかける分、賢いと思われてますけど、実際は地球上で一番愚かなのかもしれません。

      変なことじゃありませんよ、全然!
      だ、だからすぐに自殺に走らないでぇぇぇええええ!!!

      レン君死んじゃうかも…。せめてリンが感情を持つまでは生きていて…!
      私もそんなことを許しません(おい

      いえいえ、好き勝手なことも自由奔放も大歓迎ですから♪
      ラスト、頑張りますよーっ!

      まあ、確かに無理して書くのはダメですよね。楽しんで書かないとですし。
      …て、それいつもの後先考えない書き方じゃ…。

      蛇足も大歓迎ですっ!お疲れ様だなんて、まだまだ頑張りますよーっ!

      2010/04/12 22:16:21

  • 華龍

    華龍

    ご意見・ご感想

    こんばんは~!
    mikiさんが壮絶な終わりを遂げちゃいました~!!!
    mikiみたいに確かに人間って愚かだな~…って共感しちゃいました><
    緑のツインテールのあの子はそうやって、魂を取り出すんですか!!!なるほど!!!

    カイトが口を開いたとき、レン同様殴る準備をしたのは私ですww
    でも、今回は確かに!!!って思わされましたw
    今度、カイトの喫茶店にアイス持って、行ってやろうかな…(上から~m(ry
    !!!レンきゅん~!!!!今?!え、今じゃなきゃダメ?!!
    まだ、ダメだよ~!!!!。・゜・><・゜・。
    リン早く!!!レンと結ばれるんd(殴

    続き楽しみにしていますね^^それでわ!!

    2010/04/12 01:22:29

    • リオン

      リオン

      こんにちは、華龍さん。
      mikiさん、壮絶でしたね…。
      共感してもらえましたか、mikiさんも喜んでいると思います!
      ね、そうやって取り出すんですよね。私も驚きました。

      そんなカイトのことをしょっぱなから否定してやらないでください…。
      確かに、ですよね。カイトにしては正論だったと思います。
      アイスは喫茶店に業務用が十箱ほど常備されているので。…でも喜ぶと思います。
      レン君…さようなら(おい
      そうだ、リンを結ばれるまでは死ぬなんて許さないぞ!!リン、強引にでもキスしちゃえ☆(違

      続きも頑張ります!

      2010/04/12 18:45:10

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