ある時代の、ある場所に、一つの収容所があった。
そこへ連行されるのは、差別を受けているとある部族。老若男女問わず、全員が強制的に連れて行かれた。
そして、僕もその内の一人。
檻の中に閉じ込められ、看守の気紛れで暴力を受ける日々が続く。身体中に痣を作り、床に染みが出来るほど血を流した。その痛みが疼いて眠れなかった夜は数えきれない。
だけど一日の内、ほんの15分だけ、僕達は外に出され、自由時間というものが与えられる。ずっと太陽の光を浴びていないと健康に悪いから、というのが理由らしい。恐らく病気等で早死にされるのを避けたいのだろう。
何百人という囚人が外に溢れ返ったグラウンド。看守が見張っているといっても、一人二人が減ったところで誰が気付けるものか。その時間になると、僕はいつもこっそり収容所の裏側に行っていた。
そこには囚人が脱走しないよう、鉄柵が張り巡らされている。登ろうとしても、その鉄柵にびっしりと付いている棘のせいで掴む事さえままならない。たとえ痛みを我慢して登ったとしても、一番上の鉄線には高圧電流が流れており、どの道脱走は不可能なのだ。
「………」
ここまで来れば看守の目は無い。収容所の真後ろという事もあり、少しだけ警備が薄くなっているのだ。
グラウンドから約5分の場所。戻る時間も考えて、ここに居られるのは5分にも満たない。それでも僕にとっては、ここが最高の楽園だった。
誰からも監視されず、誰からも蔑視されず、誰からも殴られない。
燦々と注ぐ日光に、時折吹いてくる涼やかなそよ風。上を向けば、どこまでも青く広がる空に、鳥が大きく翼を広げている。
そして柵の向こうには、憧れの『外の世界』が――――
「――――……え…?」
一瞬、幻覚かと思った。
しかし近付いてくるに連れ、はっきりとその輪郭が露になる。
白い帽子。
風になびく金色の髪。
袖から覗く腕はあまりにも細く、どこか弱々しい。
ゴーン……ゴーン……。
すると自由時間の終わりが近い事を報せる鐘が鳴り響いた。
1分でも遅れれば、懲罰室送り確定だ。急いで戻らなければ。
走り出しかけて、ふと後ろを振り返る。
「…………ぁ……」
そこで僕は確かに見た。
その“少女”が、小さな笑みを浮かべて手を振るのを…………。
◆ ◆ ◆
独房に戻された僕は、腐りかけたベッドの上で横になっていた。
今は何時だろう。
もう0時を回ったかな。
…………全然眠れないや。
それは、いつものような激痛が原因じゃなかった。
それは、今までに経験した事の無い感覚が原因だった。
「これは……何だろう…?」
胸が騒いでどうしようもない。こんな感覚は初めてだ。
それに、あの少女の事がどうしても頭から離れない。最後の微笑みが脳裏に焼き付いてしまって、あれからずっと忘れられないんだ。
…………そうか。
確かこれは…………“恋”とかいうものだ。
「……お話したかったな…」
小さな後悔が胸を締め付ける。
「……でも…………僕とあの子は……」
――――身分がまるで違う。
方や傷だらけの汚らしい少年。
方や美しく着飾った綺麗な少女。
話しかけたら、蔑みの眼を向けられてしまうかもしれない。だって僕達は、一生差別の下から逃れられない運命なんだから。
「…………だけど」
ベッドから降り、部屋の隅へ向かう。
僕はその床に放置された一冊のノートを手に取った。このノートは全員に渡された『日記』とかいうやつだが、僕は一度も使う事なく、ただ置いたままにしていた。
ビリリッ。
ページを一枚破き、一緒に置かれていた鉛筆で文字を書く。
【こんにちは。
また会いたいです。】
たった二文。僕はそれだけ書くと、鉛筆を床に置いた。
「……手紙ぐらいなら」
言葉は交わせなくとも、この想いさえ届けられれば……。
僕はその手紙を折って紙飛行機にした。
◆ ◆ ◆
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