偶然すれ違ったその人に、懐かしい面影を感じて振り返る。
腰まで伸びた輝く金髪、鮮やかな青色の瞳が、ゆっくりとした動きで僕を捉える。
一介の通行人に過ぎない彼女が、同じくただの通行人である僕を見つめたまま動かない。
午前十時、駅前の大きな交差点の信号待ちで、キャリーバッグを引いたその人は声を発した。
「もしかして、氷山くん?」
「……ええ、そうですよ。あなたは、リリィさんですよね」
「ああ、やっぱりそうだ!本当に久しぶりだね!」
歯を見せて笑う彼女の中で、決して僕の印象は悪くなかったらしい。
僕自身は目立つこともない、地味な生徒だったはずなのに、覚えてくれていたことがまるで奇跡だ。
「私これから駅前の喫茶店に行くの。人と会う用があってね」
「奇遇ですね、僕もそこで人と会うんですよ。確か特徴は……黄色と黒のストライプ柄のスマートフォンケース、鞄につけた折り鶴のストラップ、ベージュのニット帽」
「変だなあ、私全部持ってるぞ?……えっとね、赤・青・白のチェック柄のスマホケース、黒のコートに青色のヘッドフォン。ところで氷山くん、スマホケースは何色?」
「先程リリィさんが上げた柄ですよ」
鞄から取り出した互いのスマホケースを見せ合い、一瞬の沈黙の後互いにぷっと吹き出した。
「すっごい偶然。電子の海を越えて、文字列だけで繋がった人が、まさか昔の知り合いだなんて思わなかった」
「世間は思っていたより狭いですね。立ち話もなんですから、予定通り例の喫茶店で一息つきましょうか、ええと……今日はなんとお呼びすれば良いですか?」
「直接顔を合わせている時は昔の呼び名でいいよ。じゃあ行こうか、氷山くん」
家を出た時よりも軽やかな足取りで進む僕らは、同じテーブルに向かい合わせで座る。
彼女はウインナーコーヒー、僕はカフェモカを注文し、メニューすら開かないまま僕らは話し続けた。
彼女は中学校二年生の時、クラスの中心人物だった。
持ち前の明るさと誰にも壁を作らない平等さでクラスをまとめ、そのクラスに彼女を嫌う人物など存在しなかった。
そんな彼女は僕にとって遠く、机一つ隔てた距離にいても、彼女の周囲はいつも賑やかで声さえかけることはできなくて。
席が後ろだから、プリントを回したり落し物を届けるくらいの交流しかなかったはずだ。
卒業するまで、僕は正面から彼女と会話したのは両手で数えるほどしかなかった。
「リリィさんって記憶力がいいんですね。ほとんど交流がなかったクラスメイトを、数年経って街ですれ違っても認識できるなんて」
「そう?私は結構氷山くんを気にしてたけどなあ。いつも落ち着いてて、料理の本を読んでたのが気になってて。途中から部活、やめてたよね。どうしてなのか聞いてもいい?」
「妹が生まれたんですよ。家の手伝いをするために部活をやめたんです」
「今氷山くんが甘ーい飲み物を口にしてるのは、妹さんの影響?」
「ええ。コーヒーを飲んでみたいと言い出して、でも苦いのは苦手でしょうからと、とびきり甘いものを一緒に飲むんです。最近カフェモカならおいしいと感じるようになったそうですよ」
元々コーヒーはブラック派だけど、外出する時は基本的にいつも一緒のため、自然と妹に合わせる形になる。
まだ幼い妹は同世代の子供に比べて随分と大人しく、友人も少ないらしい。
「ああ、この後なんですけど、用事を済ませてきても良いですか。妹の……ユキの誕生日プレゼントを選びたいので」
「あ、私も付いて行って大丈夫かな。ユキちゃんがどんな子なのか興味ある」
「直接話してみますか?今から戻れば、丁度学校から帰った頃でしょうし」
「えっ、あっ、いいの?久々に再会した元クラスメイトを家に上げるのに抵抗ないの?」
「まあ、リリィさんですし」
ちょっとそれどういう意味、と抗議の台詞を遮って伝票を掴み取る。
席を立つ間際、少しだけ赤くなった彼女の顔がちらりと見えた。
プレゼントを選ぶと言っても、妹が何を求めているのかは事前に本人から聞いている。
最近は絵に興味を持っているらしく、色鉛筆が欲しいと言っていた。
画材店で二十四色入りの色鉛筆セットを購入し、棚に並ぶ画材を横目に彼女と会話をする。
こんな授業あったね、あの先生どうしてるのかな。
いつのまにか近況報告が思い出話に変わっているのに気づき、笑みがこぼれる。
途中で彼女がコンビニに寄りたいと言い出し、眺めていたのは一人分に切り分けられたケーキが並ぶスイーツコーナー。
私からも何かお祝いさせてよ、と真剣な顔でケーキを選ぶ彼女は、どうしてこんなにも他人に優しいのだろうか。
かつてのクラスメイトに再会した、それだけの縁でその家族に贈り物を選ぶだろうか?
それから様々な店のショーウィンドウを横目にもうすぐクリスマスだと他愛ない話をしながら、結局家に着いたのは日も傾きかけた頃だった。
玄関の戸を開けて居間に向かうと、背の高い椅子で地まで届かない足をぱたぱた振りながら、妹がこちらに笑いかける。
「あ、お兄さん、おかえりなさい。……その人だあれ?」
「僕の中学校の頃のクラスメ」
「お兄さんの友達だよ。リリィっていうの」
「ユキです。よろしくね、おねえさん」
クラスメイトと言いかけた僕の台詞を訂正したのは、妹に簡単に説明するためか、それとも本心からそう思っているのか。
友人なんて言えるほど交流もないくせに、喜んでしまう単純な自分がいる。
「ユキちゃん、ロールケーキは好きかな?」
「ユキね、クリームがいっぱいのやつが好きだよ。あまくてふわふわなの。あとね、いちごも好きだよ」
「じゃあ、ユキちゃんは苺が乗ってるやつを食べて。普通のやつはお姉さんがもらうね」
「ありがとう、おねえさん!」
出会って数秒、リリィさんとユキが一瞬で仲良くなった。お菓子の力が偉大なのか、それともリリィさんの力がすごいのか、どちらなんだろう。
「ユキちゃんって何歳なの?」
「えっとね、もうすぐで九歳。……あ!お兄さん、ごめんね、ユキも何か買いたかったんだけど、お金が足りないからことしも手作りなの」
「楽しみにしてますよ。ユキが頑張ってくれた気持ちが嬉しいですから」
「……え?ちょっと待って、氷山くんって誕生日いつなの?」
「明日!あのね、ユキとお兄さん、同じ誕生日なんだよ。めずらしいよね」
「言ってくれればさっき一緒に買ったのに」
「言えば気を使わせるかと思いまして……」
ユキと僕は丁度十四歳差だ。まさか誕生日が全く同じだなんて考える人は少ないだろうと、あえて何も切り出さなかった。
僕の予想は合っていた。だけど家に招くことは元々想定していなかったから、こうなるのはリリィさんを家に招くと決めた段階で決まっていた気がする。
「おいしかった!お姉さん、おれいにユキがいいもの見せてあげる」
「え?何を見せてくれるの?」
「見ればわかるよ!こっちこっち!」
「あ、待ってくださいそっちはまだ片付けてなくて」
「今だけだんしきんせいなの!お兄さんは入っちゃダメだからね」
あっという間に、ユキはリリィさんを連れて自室に閉じこもってしまった。
二人暮らしのため部屋が少なくので、幼いユキと僕の部屋は、寝室・私室は共用なのだ。
見られて困るものは部屋に出しっ放しにはしていないはずだが、何か変なものでも探されやしないかと不安になる。
別にやましいものは隠してはいないけど、想定外のものが「見て見て!」と面白おかしく大公開されるかもしれない。
数分待ってから扉に耳を当ててみると、何やら女子同士盛り上がっているようで、しばらくは出てこなさそうだ。
少し不安はあるが、ユキが彼女と打ち解けてくれてよかった。元々あまり人と話すほうではないし、同性と喋る機会も少なく、少し不安だったのだ。
女子の会話がいかに衰えを知らないかは学生時代に恐ろしいほど学んでいるので、僕はその間に夕食を作ることにした。
中学時代から料理を学び始め、海外で働いている両親を心配させないくらいには上達した。
二人分も三人分も変わらない。そうだ、せっかくだから今日はシチューにしようか。みんなで温かいものを食べたい気分だ。
「ただいま。……待って待って氷山くん待って、家にあげてもらった上にご馳走になるわけには」
「そうは言ってももう作ってしまいましたし。折角なので食べて行ってください」
「じゃあ……お言葉に甘えて」
三人で囲む食卓はとても賑やかで、人数が一人増えるだけでいつものテーブルが変わって見える。
いっぱい食べていっぱいはしゃいで満足したのか、時計の針が八時を回る頃にはユキはこくこくと船を漕いでいた。
「ユキ、お風呂に入ってから寝なさいといつも言っているでしょう?」
「んー……お姉さんと一緒に入るの」
「さすがにそれはリリィさんだって困りますよ」
「あ、別にいいよ。今日元々ホテルをとる予定だったから着替えはあるし」
「……なんだかすみません」
「こっちこそごめんね。何から何まで」
結局ユキは、リリィさんと一緒に入浴を終え、寝付くまでパジャマの裾を離さなかった。
「……もういっそ泊まっていきます?」
「そうする。離してくれなさそうだし、夜も遅いし、湯冷めもしちゃうし」
寝室には二人用の布団しかない。
僕は寝袋を出して寝ると言ったのだが、今度は彼女が僕の服の裾を離さなかった。
夕飯後の後片付けとお風呂を終えて、寝室の電気を消す。
窓から射す光で、うっすらと二人の姿が見える。
布団の中心で眠るユキを起こさないように移動しながら、僕は眼鏡を机に置いて彼女に問いかけた。
「ユキと二人でいた時、何を話していたんですか」
「内緒。でもね、すごくいいものをもらったの。ほらこれ」
「ちょっと待ってください、暗いし今眼鏡かけてないのでよくわからな」
僕の頬に添えられた手と、唇に押し当てられた感触、その正体に気がつくのは一瞬だった。
「中学校の卒業式、渡そうとしてくれたんでしょ?ラブレター、九年越しだけど受け取ったよ」
「……リリィさん」
「私ね、ずっと氷山くんのことが好きだったんだよ。だから今日会えたのがすごく嬉しいし、奇跡みたいだって思った」
視界不良の中、伸ばした手を彼女がそっと握って。
今度は掌に、柔らかなキスが落とされる。
「ずっと目で追っていたし、気になる人だった。お願い、今でも許されるのなら、私の恋人になってほしい」
そうして僕を見上げる瑠璃色の瞳に吸い寄せられるように。
離された手を、指を絡めて。
今度は僕が、彼女に囁いた。
「僕のほうこそ、お願いします」
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喫煙者あるある(私はすいません、これは喫煙を推奨していません)
KAITOとデル中心の絵の練習を兼ねたコント。
ある意味、年齢制限?エロみは薄いです、趣味嗜好系です。
☆
「知っていますかタバコって大人のおしゃぶりなんですよ、ベイビー」
「知ってた、いや違う、ニコ厨な...スモーク・パープル・フェイズ

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